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込められた秘密 -03


エントランスには、壱加が椅子にだらりと腰掛け携帯を弄っていた。


「壱加くん。先に帰っていてもよかったのに。」


「穏便に終わらなかったら俺の出番でしょう。」


だらだらと立ち上がった壱加は言う。


「とりあえず警察の厄介にはならなくて済んだよ。一重に朔也くんのおかげだね。」


そうこちらを向く修一に朔也はかぶりを振る。


「そういえば起きてる時に会うのは初めてだったね。彼が朔也くんを那月堂まで運んでくれたんだよ。そしてこの数日、君も警護していた人物でもある。」


ネタばらしのように笑う修一に、朔也は先日聞いた自身の身の安全が彼によって守られていたことを知る。先程からの慇懃無礼な態度に、素直に感謝を伝えるには少しばかり悔しさが残る。


「…ありがとうございました。さっきも、今までも。」


渋々と、しかし事実守られていたことへの感謝を込めて頭を深く下げる。顔を上げると、なおも面倒くさそうな顔で頭をかきながら壱加が言う。


「夜で顔もよく見えなかったから、最初あの通りの女が倒れてたのかと思ったんだが拾い損だった。」


「そうやってすぐに意地悪なことを言うんじゃないよ壱加くん。」


修一が窘めるように言うが、壱加は気にとめた様子はない。そればかりか口角をあげて冷笑を浮かべ続ける。


「うちで働けば嫌でも体力気力共につくぞ? しかもミドリの上手い飯まで付いて給料が貰えるときた。」


テレビショッピングの司会者のように、一方的に那月堂で働くことのメリットをあれこれと提示したかと思うと、自由気ままにタバコを吸いに喫煙所へと向かっていった。


「ね、壱加くんは天邪鬼だろう。あれでも本当は朔也くんのことが心配だからうちで働いて欲しいって言ってるんだよ。」


苦笑しながら壱加を見送った修一だが、朔也に向き直った時の表情は一変して真剣なものだった。


「それに今日のことはちょっと想定外だから…僕たちからしばらく離れないで欲しいんだよ。」


「想定外って、やっぱり石が割れたことですか。」


「そう、あんなに簡単に割れるものじゃないんだ。それに、今回の''ナギ''は明らかに朔也くんに誘発されたものだ。それにしては誘発された感情が小さすぎる。」


「小さすぎるって?」


朔也の問いに、修一は言葉を選ぶように説明する。

「今回の橋本さんの想いは確かに強い。ただ感情で言えば純粋な動機から生まれたものだろう?浩三さんからの想いを受け取りたいという、綺麗なものだ。」


「それが何か問題なんですか?」


「前も言ったように、通常''ナギ''に誘発される人はもっと強い感情を持っていることが多いんだ。怨念や悔念みたいなね。ただ、今回みたいに弱いものまで誘発されたとすると…。」


修一が言い淀んだが、朔也は後に続く言葉が容易に理解できた。


「引き寄せる力が…強くなっちゃってるって事ですか。」


朔也の言葉に修一は目を伏せたまま頷く。


「今の君は器は''ナギ''を受け入れる器がとても大きくなってしまっている可能性がある。弱い''ナギ''さえも誘発するほどにね。」


その言葉に背筋にぶるりと寒気を感じ、思わず両腕で身体をさする。自らの体が別の何かに作り変わってしまっているような、そんな恐怖が朔也を襲っていた。


「どうしたら…」


「とりあえず、夏休みまで待たずに本庁に向かおう。ご両親には数日家を空けることを伝えておいてくれるかい?」


両親がいないことをここでわざわざ言う必要もないだろう。姉の美琴に連絡することを頭に置き修一の言葉に頷く。


「代わりの石を渡しておくよ。最後に館長さんと話を付けてくるから一緒に那月堂に戻ろう。」


受け取った新しい石は、割れてしまった濃紺のものよりも禍々しいような真紅だった。ずしりとした重みをもって朔也の手の中に収まった。



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