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祝福を持った少女は堕ちる

作者: おう
掲載日:2025/12/20

 「この目が二つだけだったらよかった……」


 少女は震える手でナイフを掲げ、迷いなく第三の目に突き立てた。

 赤い雫が一つ、床に落ちる。

 続いて、また一つ。


 顔を上げた。


 「あははは!!」


 笑いが止まらなかった。


 第三の目があったころ、世界はうるさすぎた。

 人の嘘、恐怖、欲望。言葉になる前の感情が、濁った色となって流れ込んでくる。

 ――見たくないものまで、全部。


 母が彼女を見るたびに浮かべる後悔の色。

 村人が祈りの裏で抱く嫌悪。


 「気味が悪い」

 「役に立つならいい」

 「化け物」


 それでも彼らは、その目を祝福と呼んだ。

 未来を見通す聖女の証。

 村を導く光。


 だから潰した。

 見えなくなれば、普通になれると思った。


 血に濡れた床に座り込み、少女は深く息を吸う。


 ……静かだった。


 初めて、頭の中が静かだった。


 だが、その静寂は長く続かなかった。


 ――見える。


 第三の目は閉じたはずなのに、

 今度は二つの目で、はっきりと見えてしまった。


 村の外。

 森の奥。

 赤黒い塊が、ゆっくりとこちらを向く。


 それは感情ではなかった。

 意思でもなかった。


 この世界に最初から歪みとして存在する、「祈り」と「救い」が積み重なって腐ったもの。


 「……ああ」


 少女は立ち上がる。


 第三の目が見ていたのは、人の心だった。

 二つの目が見ているのは――世界そのものの歪み。


 「やっと、分かった」


 化け物だったのは自分じゃない。

 この世界の方だ。


 少女はナイフを床に落とし、笑みを消した。

 教会の鐘が、遠くで鳴っている。


 ――呼ばれている。

 

 聖女として。


「これからは、見える」


 祝福も、祈りも、救いも。

 壊すべきものだけが、見える。

 少女は静かに扉へ向かった。

 聖女として、この世界を壊すために。

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