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 叔父から公爵邸に呼び出されたのは、その翌日のことだった。

 普段なら、話があるときは叔父から王宮に出向いてくるのだけれど……よほど忙しいみたいね。

 私も私で、オスティナに会ったら気まずいなと思っていたのだけれど、幸い留守のようで良かった。

 叔父の書斎に入ると、まずは中央にある大きなテーブルに広げられた地図が目に入った。その上には小さな石が点々と置かれている。


 ――これは、鉱山地帯の地図?


 鉱山の利権を持つ貴族たちは、どこも新たな鉱床の発見や開発に力を注いでいる。

 オルディ公爵家も、雪解け時期には毎年、大がかりな調査隊を鉱山地帯に派遣していた。

 だからここに地図があるのも、なにもおかしいことではない。

 私がつい立ち止まってまじまじ見てしまったのは、単に鉱石が好きで、興味があったからだ。


 ――叔父様は、東区域に的を絞って探索しておられるのね。


 地図に並べられているのは、おそらくその付近から発掘された石の欠片だろう。資源になる石、宝石の原石、それから特に価値のない屑石――

 特に質の良い宝石の原石が発掘される場所というのは偏るものだ。

 確かこの地図の辺りは母岩が古く、数年前にも質の良いルビーが採れる鉱床が見つかったはず。

 叔父が重点的にここを調べているのも納得のいくことだった。

 けれど、その地図の横に置かれている調査報告書の一文を見て、私は眉を上げた。


「……なにをしている、さっさとこちらへ来なさい」


 書斎椅子に座る叔父が、苛立った口調でそう告げる。

 そして私が前に立つと、真剣な眼差しをこちらへ向けた。


「昨日オスティナと問題を起こしたようだな……陛下はお前をどうなさるおつもりなのだ」

「……以前にも申し上げましたように、三ヶ月経てば離縁してくださると陛下は約束をしてくださいました」


 叔父には『勝負』の詳細は伏せて、そのように説明してある。


「期限まであと一ヶ月……それまでは、私を妻として扱ってくださっている。それだけのことだと思います」


 判で押したような答えだけれど、他に言い訳も思いつかない。

 叔父は冷たく私を睨みつけた。


「良いか、自分の立場を忘れるな。お前の母親を救ってやったのは私だ……裏切るようなことをすれば許さん」

「わかっています」

「陛下がオスティナを愛していようがいまいかは、この際どちらでもよい……王妃はオスティナだ」


 そこで、扉の向こうから執事の叔父を呼ぶ声がした。

 叔父がちっと舌打ちをして、私に「もう良い、下がれ」と手を振った。

 正直、昨日のことをもっと詰められると思っていたから、ほっとするのが半分、拍子抜けするのが半分。


 ――なにか、事件でも起きているのかしら。


 怪訝に思いつつも踵を返し、テーブルの前まで歩いたところで、私は立ち止まった。

 そこにある調査報告書には短く一文、『ゴールドサファイアの鉱床は発見できず』と書かれている。


「……叔父様も、ゴールドサファイアを探しておられるのですか?」


 訊ねると、じろりと睨まれた。


「いえ、その……そういう『夢』を追いかけるような方だとは思っていなかったので」


 まるで私の父のような。

 その言葉は呑み込んだけれど、叔父には私の言いたいことが伝わったようだ。

 叔父は、はっきりとカチンと来た顔をした。


「ゴールドサファイアの鉱床は、必ずこの国にある」

「え?」

「無いはずものをあると信じて闇雲に探したお前の父とは違う。私は、それがあると知っているいるから探しているのだ!」


 ドン、と机を拳で叩く。

「それが見つかれば、言うことを聞かぬ王家など、もはや形だけでも不要となるな!」


 特に喧嘩を売ったつもりはなかったのだけれど……売り言葉に買い言葉とばかりに、叔父は我慢ならないという様子でそう声を荒らげた。

 それから、自分でも言いすぎたと思ったのだろう。

 ばつの悪い顔で余所を向き、「下がれ」とあらためて手を振ったのだった。




 同じ日の夜。

 いつものように部屋に訪れ、添い寝をするレガート様の体温を背中に感じながら、私は寝付けずにいた。

 叔父の言葉が、どうしても頭から離れなかった。


 ――ゴールドサファイアがあると知っている……?


 いったいどういうことなのかしら。

 いえ、それよりも、言うことを聞かぬ王家など必要ないとは……ゴールドサファイアを見つけたら、叔父は王家にとって変わるつもりなの?


 ――やっぱり、レガート様は公爵家と手を切った方がいいのかもしれない。


 そうでなければ、いずれ叔父がそれを見つけたとき、どうなるかわからない。

 そして……。

 ならば、なおさらレガート様には力が必要になる。

 叔父に対抗するだけの、強い力が。

 例えば、他国の王族の娘を妻にもらえば、強力な後ろ盾になるだろう。

 逆にそれぐらいでなければ、レガート様がこの先、国を治めていくのは難しい。

 レガート様のことが大切だからこそ、この国の為になる女性に王妃になって欲しいと思う。彼を支えるだけの力を持つ女性に。

 それが私の良識であり、良心だった。


 ――ちゃんと、レガート様から逃げよう。


 私はあらためてそう決意した。

 体の前に回された彼の手をぎゅっと握り、目を閉じる。


 ――ひと月後、私は『勝負』に勝って、レガート様と離縁する。


 当初の予定と違うのは、その後に王妃になるのはオスティナではないほうが良いということ。

 そして……私が、彼をひとりの男性として愛してしまっているということだ。

 そう、私は彼を愛している。

 だからこそ、離縁をしなければならない。

 彼のために。私の愛が、彼を不幸にしないために――

 胸が引き絞られるように苦しい。閉じた瞼の端から、じわりと目に涙がにじんだ。


 ――しっかりとした女性に、あとを任せたいわ。


 そしてどうか、レガート様を幸せにして欲しい……。

 私は祈るような思いでそう願ったのだった、


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