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第18話 「転生してから思い知る、後悔先に立たず」




「イオリは人間を襲ったりしないのか」

「しないけど……襲う理由もないし」

「そうか……じゃあ、魔王についても何か知ってるか?」


 知ってるも何も本人なんだけど。


「何かって、弱点でも探してるのかよ」

「そういうんじゃない。弱点ならわかってるし」

「え?」

「魔王を倒せるのは勇者だけ。つまり弱点は勇者、つまり俺だ。だが、俺はまだ魔王城に辿り着けるほど強くない……なんで魔王がそんな俺を野放しにしてるのかは分からないが……」


 まぁ色んな意味で魔王の弱点は勇者だよな。それは間違ってない。

 魔王が勇者に手を出さないのも、コイツが魔王城に来るのを待ってるだけだし。人間からすれば確かに不思議だろうな。

 でもクラッドだって自分から手を出したりしてないし、人間達の勝手な解釈で魔物は人を襲うって思われてるだけだ。


「俺はエルを襲う理由なんてないし、他の奴らだって似たようなものだと思うよ」

「そう、か? 魔物に襲われた人間だっている。魔物は人間を滅ぼそうと考えているんじゃないのか?」

「……少なくとも、俺はそうは思ってない」


 あまり口出ししすぎて不審に思われても嫌だし、発言は控えておかないと。

 でも、あまり魔物達を悪く思われたくもない。彼らだって自分の身を守るためだったのかもしれない。私利私欲で人間を襲うやつももしかしたらいるのかもしれないけど、人間だってそういうことする奴いるんだから、それは魔物だけに限った話じゃないだろ。魔物は駄目で人間なら許されるなんてことはない。


「人間も魔物も、そんなに変わらない……なんて言ったら勇者様は怒るのか?」

「いや。勇者としては怒るべきかもしれないけど、俺もそう思うことはあった。昔、俺のことを蔑んできた奴らのことを悪魔だと思っていたし」

「……ああ」


 そういうところは、俺と一緒だな。

 エルはそれでも、そんな悪魔みたいな人間のことも守ろうとするんだから立派だ。勇者に選ばれただけある。神様もちゃんと見てるんだな。俺のいた世界の神様は知らん顔してたみたいだけど。


「……エルは、嫌にならないのか? 勇者であること……」

「神託で選ばれたことがか? それだったら、別に。何も出来なかった俺でも誰かの役に立てるならって思うから」

「立派だな」

「そんなことない。母さんがそう言っていたから、その遺志を継いだだけだ。いつでも誰かに手を差し伸べられる優しい子になりなさいって。今がツラくても、きっとそういったことの積み重ねが、いつか自分に返ってくるからって」

「……そうか。良い母親だったんだな」

「ああ。今でも尊敬している」


 俺の母さんはどうだったかな。いじめのことバレないように家ではあまり顔を合わせないようにしてたからな。笑顔張り付けて嘘つくのがキツくて、極力話をしないようにしてたからな。俺のこと心配してくれてたのに、悪いことしたよな。父さんも休みの日は声掛けてくれたけど、適当にあしらってたし。俺、メッチャ親不孝者だったな。結局親より先に死んじゃったわけだし。

 こうして考えると、前世に後悔ばかりが募る。もっとこうしておけばよかった。ああしておけばよかった。後悔先に立たずっていうけど、転生した後にそのことに気付かされるとはな。


「俺も、親のために何かしてあげればよかったな」

「イオリの親もいないのか?」

「いや、そういうんじゃなけど……いなくなったのは俺の方っていうか、説明できないんだけど……俺は、親に自分のこと相談したりしなかった。面倒事になるのを避けて、顔を合わせないようにしてたから……」


 言ってしまえば思春期っていうのもあったんだろうけど、人に心配されることで余計に惨めになりそうで、それが嫌だったんだよな。いじめられてる自分が可哀想、みたいに思われるのが嫌だった。自分をこれ以上不幸にしたくなかった。

 本当なら相談するべきだったんだろうけど、親にこそ一番言いにくいものがある。今更後悔しても仕方ないんだけど、今更だからこそ思うこともある。


「魔物でもそういう親子関係があるんだな」

「……た、多分」

「多分ってなんだよ」


 だって俺の話は前世の話だから、この世界の魔物達のことは分からない。クラッドの記憶にも親のことはない。どうやって生まれてきたのかも覚えてないみたいだし。

 まぁクラッドは100年以上生きてるから、そんな昔のこと覚えてないんだろうな。

 でも魔物だって親となる存在がいるから生まれてくるんだよな。卵であろうと何だろうと、それを産む存在が必ずあるはず。

 でもきっと人間みたいに家族とはならないのかもしれないな。子孫繁栄のために子を残す、程度のものなんだろう。


「魔物にも色々あるんだな」

「そういうことにしておく」

「……じゃあ、イオリのことを聞いてもいいか?」

「俺の?」

「せっかく知り合ったんだし」


 俺に興味持ってどうするんだよ。

 嬉しいって思ったけど、その気持ちを俺は抑えつけた。これ以上は踏み込んだらダメだ。俺は魔物、お前は人間。慣れあうためにこうして会ってるわけじゃないんだ。


「俺のことなんか、別にいいだろ」

「そうか?」

「そんなんでお前、俺が敵になったらどうするんだよ」

「……っ!」


 エルは驚いた顔をした。なにビックリしてるんだよ。お前は俺が魔物ってこと忘れてたのか。

 俺の何気ない問いに、エルは言葉を詰まらせてる。そんな真面目な質問をしたつもりなかったのに、そんな風に悩まれると困るんだけど。


「……い、いや、そんな真面目な話じゃないから、気にするなよ」

「あ、ああ……ごめん」


 やめろやめろ。適当に流せよ。どうせお前が別の街に拠点を移したら会わなくなるんだぞ。

 頼むから、やめてくれよ。俺の剣を鈍らせるな。


「敵になったら、迷わず殺せよ」

「……イオリ」

「俺も、そうする」

「……」

「俺らがこうしてるのは、今だけだ」


 エルに言うより、自分に言い聞かせるために俺はちゃんと声にした。

 超えちゃいけない一線だけは守らないといけない。


「……そう、だな」

「……」

「イオリ」

「ん?」

「今だけは、まだいいだろ」

「今だけ、な」


 コイツが、今どう思っているのかは分からない。

 分からないけど、良くはない気がする。


 お互いに分かってるのに、なんで。


 なんで、止められないんだろう。




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