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異世界で朝ご飯亭の広報を担当します!  作者: 海坂依里
8食目 朝ご飯亭の広報担当は『海苔バタートースト』で笑顔を取り戻す
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第5話「異世界で朝ご飯亭の広報を担当します!」

「甘さとか辛さは、好みだな」

「ご飯にかけると、美味しいんだよね~」

「それは全世界共通なんですね」

「あ、ミリちゃんの世界でも、そうなんだ」


 世界には、いろんな食文化があると聞いてはいる。

 新しい食文化を受け入れることも大切だとは思うけど、こういう食文化を共有できることも凄く嬉しい。

 一気に親しみを持つことができるから、食文化を共有していくことの凄さを感じてしまう。


「で、今、煮詰めているのは、そのうち食べる」

「え……」


 海苔の佃煮と白いご飯。

 それが朝のまかないだと思っていたのに、海苔の佃煮は私とアルカさんの元には来なかった。


「朝食に使うのは、海苔の佃煮にバターを溶かしたやつ」


 海苔の佃煮に、バター。

 食に関心を持ってこなかった私が、新しい組み合わせに挑戦したいなんて発想になるわけがなく。

 海苔の佃煮にバターを組み合わせようと思ったディナさんに、私とアルカさんは輝かしい眼差しを向ける。


「ミリちゃん、お腹空いてるでしょ?」

「食事と睡眠はちゃんと取れって言った……」

「今日から、ちゃんと食べます! ちゃんと眠ります!」


 有言実行。

 できるかどうか不安になるんじゃなくて、言葉にしたことは必ずできるようになりたい。


「ディナさん、昨日のサンドウィッチを忘れさせてください」


 これから絵の力で、異世界の食文化を盛り上げていくためにも。

 死ぬ間際の、ベッドの上でも絵を描き続けられるように。

 絵に執着しながら生きていくために、私は健康な体を手に入れたい。


「わかめスープと、海苔バタートースト」


 ディナさんは食パンに、自家製の海苔の佃煮を乗せて薄くそれを伸ばしていく。

 わかめスープの中には溶きたまごが加えてあって、色味が真っ黒な朝ご飯にはならないところにディナさんの気遣いを感じる。


(視覚から入る食事の大切さ……)


 第一印象は大事というけれど、それは食事の場においても重要だということを教えてもらう。


「観察はしなくていいから、冷める前に……」


 ディナさんのお小言が始まる前に、アルカさんと顔を見合わせて一緒に手を合わせる。


「いただきますっ」


 いただきますの声が重なる。

 まだ一口も口に運んでいないけど、声を聞くだけで分かってしまうことがある。

 これから口にする食事は、とても美味しいってことが。


「んん~」

「うまっ」


 いただきますの声だけでなく、美味しさを表現する言葉も重なった。

 アルカさんと視線が交わり、二人の口角も同時に上がったことを確認し合う。


「海苔の佃煮をご飯じゃなくて、パンの上に乗せるなんて……」


 バターと海苔の佃煮が合わさることで深みも風味も豊かになり、無限に食パンを食べられそうな気持ちになってくる。

 アルカさんの言葉に同調するためにも、私は懸命に首を縦に振る。


「普通は海苔の活用法なんて、おにぎりくらいしか思いつかないって!」

「おまえがたくさん仕入れてくるから、こうなってるんだよ……」


 二人のやりとりに自然と笑みが零れてきて、益々朝ご飯が美味しく進んでいく。

 一人暮らしも悠々自適で、文句のない生活ではあった。

 けど、異世界にやって来ることで、久しぶりに誰かと一緒に食事をする幸せを思い出す。


「これで悪夢のサンドウィッチを忘れることができそうです」

「昨日は、本当に申し訳ございませんでした……」

「その……悪かった」


 アルカさんとディナさんは誠心誠意謝罪をしてくれるけど、私は別に昨日のことに関してお怒りというわけではない。

 むしろ貴重な経験させてもらえたことに、喜びすら感じる始末。


「ミリちゃん?」

「どうした?」

「あ、えーっと……」


 知らず知らずのうちに、顔がにやけてしまっていたのかもしれない。

 美味しい食事に楽しい会話が、こんなにも人に幸福感を与えるものだと前世の私は知らなかった。


「お二人に報告があります!」


 昔から、絵を描くことが好きだった。

 でも、そこに楽しさがあったかって問われると、真っすぐに答えを返すことができない。

 必死だった。

 いつだって、必死だった。

 必死すぎて、楽しさを感じる余裕がなかった。


「ディナさんが経営する、朝ご飯亭の広報を担当したいと思っています」

「朝ご飯……」

「亭?」


『朝ご飯』と呟いたのはディナさん。

『亭』と言葉にしたのはアルカさん

 組み合わせると一つの単語が完成してしまうのだから、二人の中の良さが羨ましいような。憧れのような。そんな気持ちが生まれてくる。


「っていうか、まだ職業を増やすのか?」

「いや、さすがに体を壊しちゃう……」

「これだけは譲りません! これは、私がやりたいと望んで始めることですから」


 前世でアルバイトという立場にしか縁のなかった私が、異世界で広報を担当すると言っても何をしたらいいのか正直分かっていない。

 でも、ディナさんとアルカさんの日々の活動を届ける。

 これが広報なのかなっていう、私なりの答え。


「これから、もっと忙しくなりますからね! 覚悟していてください」


 前世の私は食べることを疎かにした結果、栄養失調が原因で亡くなった。

 異世界にやって来た私は、あまりに空腹すぎて死を覚悟してしまうほど。


「いいね! なんか会社(カンパニー)会社っぽいっ!」


 食べることに関心を持ってこなかった私を救ってくれたアルカさん。


「もっと忙しくなって、さっさと外観直したい」

「ディナさんの夢は、早急に叶えましょう……」


 食べることは、生きること。

 美味しい食事を通して、生きることの基本を教えてくれたディナさん。

 この二人のためになることをするのが、異世界に転生した私の使命だと思っている。


「ってことで、トーストおかわりっ」

「私もお願いします!」


 勢いに任せて、志願した広報担当。

 この活動が、ディナさんのお店に何をもたらすのか。

 お店の活動記録は、これからも続いていきます。

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