第2話「コミュ障の私は、着せ替え人形にしかなれませんでした」
「ミリちゃん、こっち」
「ディナさん! 迷子になったら、大きな声を上げてくださいね」
「本当に迷子になっても、大声だけは出さない」
「だと思ってます」
ディナさんと冗談を交わし合えるようになったことも、大きな進歩。
ディナさんは冗談を言う私に呆れることもあるかもしれないけど、ほんの少し口角が上がっていたところは見逃さなかった。
「ぶっちゃけ、服なんて着ることができればなんでもいいのですが……」
「ディナと似たようなこと言うね、ミリちゃん」
「あー……ディナさんの気持ちが分かる気がします……」
アルカさんは、私の保護者ではない。
何もかも頼りっぱなしでは、これから良い関係を築くことはできない。
私も私で、頑張るところは頑張らなきゃいけない。
そうは思うものの、自分に似合う服が分からないところが困りものだった。
「フラワリングパーティーのドレスから、何から何までお世話になります」
「俺は衣装を見立てるのが好きだから、気にしなくていいよ」
異世界に来てからの衣服だけでなく、パーティーに参加するためのドレス選びまでアルカさんが行ってくれている。
私専属のスタイリストかと勘違いしそうになるほど、アルカさんのセンスは優れている。
「すみません」
アルカさんは街の中を迷うことなく、目的のお店を見つけることができた。
アルカさんにとっては、馴染みのある街だということが一目瞭然。
華美すぎることもなく、一般庶民にはちょうどいい雰囲気の洋服店のような場所を訪れる。
この素朴な感じがヘブリック村に相応しくて、細かいところまで建築デザインにこだわっているのを感じられる。
「はいはーい」
「予算内で、この子に合う服をお願いします」
「よろしくお願いします……」
この子というのは、もちろん私。
私はアルカさんの元から店員さんへと旅立つことになり、アルカさんとはしばしのお別れ。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ?」
ゴシック調のデザインの服を身に纏った淡い紫色の髪色の女性店員が、初対面の私にぐいぐいと迫ってくるのが怖くて身構えてしまった。
「ここは、服に困っている人をお助けするラブリアの洋服店ですから」
アルカさんとも、ディナさんとも雰囲気の違う女性が、私の不安を拭うような明るい笑顔を見せてくれる。
(それでも、近い! 近すぎるから!)
優しい笑顔は人に勇気を与える力があるとアルカさんに教えてもらったからには、私も少しは口角を上げて喋れるようになりたい。
そうは思うけど、コミュ障害の私に、この距離の縮め方は厳しいものがある。
「体を動かしやすい服をください」
「はいは~い、かしこまりました」
こんな大雑把な希望では、私の担当をしてくれている女性を困らせしまうだけだという自覚はある。
(でも、私は異世界で過ごすための衣服をどうしても手に入れたい!)
アルカさんからいただく洋服は着心地も良くて、離れがたいものもある。
けれど、自分で稼いだお金で衣服を手に入れてみたいっていう夢がある。
前世ではコミュ障だったかもしれないけど、この異世界ではコミュ障の自分からは卒業してみせたい。
(この世界では、本当に優しい人に恵まれているから……)
異世界転生をしてきた人間にだって、人は変わることができるっていう奇跡を起こす力があることを証明したい。
私以外にも異世界転生してきた人たちと出会ったら、そんな人たちにも希望が残るような奇跡を起こしてみたい。
そのために私は、異世界での生活をまっとうしたい。
「……本当に予算内なのか」
「お会計のとき、ちゃんと付き合ったので間違いはないかと……」
幼い頃に遊んだお人形ごっこを思い起こさせるような、長い長い着替えの時間が終わりを迎えた。
「俺は一切お金を出してないよっ! この街は布が安く手に入るから、手頃な価格で衣服が手に入るんだって!」
私は両手で持ちきれないほどの服を買い込むことになってしまって、一週間は七日しかないのに買った服をどう着回していけばいいのか分からない。
それだけの大量の服を購入するという初めての経験に、まだ心臓の音がうるさく活動している。
「まあ……飲食店にしても、農業にしても、食料調達にしても、絵を描くにしても……」
「そう! 汚れる心配を考えて、これだけの量を購入してきましたっ!」
服が汚れる心配をしてくれたのはありがたいけれど、それにしても何日も洗濯をサボっても大丈夫そうなくらいの衣服を購入させてもらった。
「ミリの衣裳部屋が必要そうだな……」
「それより洗濯のスペースを確保じゃない?」
ディナさんに服を選んでもらった方が、数は少なく済んだかもしれない。
けど、洋服店の女性とアルカさんが一緒になって、私を着飾ってくれたときに見られた笑顔がとても嬉しかった。
(こんな贅沢、初めてすぎて浮かれちゃった……)
私を着飾ることを楽しんでくれた二人の笑顔に幸せを感じてしまった私は、とても充実した買い物ができたような気がする。
(服のセンスを気にしてたけど、人に選んでもらうのも楽しかった)
ただし、疲労感の蓄積だけは半端ないものがありますが。
「これだけ買い込むと、画材を買うどころじゃないだろ」
「画材は、アルカさんが提供してくれたものがまだ残っているので」
「拾い物で、ごめんね」
「いえ、大助かりですよ」
購入した洋服を二人に持ってもらったところで、私の手がどれだけ空くか。
それだけの服を購入した自覚があるため、しばらくは節約生活を心がけたい。
(でも、いつかは鉛筆も、色を加える類のものも消耗品だからなくなっちゃう……)
前世では絵や漫画を描く際にデジタルが主流だったけど、異世界ではデジタル技術に頼るわけにもいかない。
いろんな画材が必要で、自分の手で、それらの重みを感じなければいけない。
それが、異世界生活というもの。




