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異世界で朝ご飯亭の広報を担当します!  作者: 海坂依里
7食目 『カブの葉で作るふりかけ』の苦みは大人への階段
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第6話「まだ、大人になれない」

「……前の世界の私は、確かに食に関心がなかったですけど」

「カブの葉に塩を振って水気を絞ってもいいんだが、今日は省く」

「異世界にやって来た私は、ディナさんのご飯が大好きですよ」


 私たちの会話は、噛み合っていない。

 でも、これでいいって思った。

 これが、私たちの関係性なのかなって思えるようになった。


「いつも美味しいご飯を、ありがとうございます」

「まずは油を使わずに、フライパンにカブの葉。塩を気持ち加えて、乾煎り……」

「照れ隠し、ですよね」

「あー……、乾煎りは、材料の余分な水分を除く作業のこと」


 ディナさんは私の言葉を無視しているのではなく、まともに受け取ると調理に支障が出ると判断してのこと。

 ディナさんなりの照れ隠しだということを、私は理解できるようになった。


「水分を飛ばすのが大事なんですね」

「まあ、それも好みの問題だが……それが終わったら、フライパンにごま油を入れて、ちりめんじゃこを炒める」


 ごま油が魅惑的な香りを放ち、これから私たちのお腹に入るための準備を整えているのだと思うと感慨深い。


(ちりめんじゃこは、異世界でもちりめんじゃこなんだ)


 フライパンに醤油・砂糖・酒を目分量で加えるところは、手慣れているディナさんにしかできないこと。

 私は丁度いい調味料の量というものが分かっていないため、きちんと量るところから始めろと指導される。


「調味料の水分も飛ばす」


 魚のアチートを乾燥させたものを削った、かつおぶしのような外見の物もフライパンの中へと加わった。


(そういえば、魚の名称は前世と同じだと思い込んでいたけど……)


 アチートと呼ばれる謎の魚が存在していたことを思い出す。

 やっぱり異世界の仕組みはよく分かっていないけど、なぜとか考えるのが私は面倒な性格なので、このまま異世界の設定を受け入れたいと思う。


「ここまで来れば、何を作っているか分かっちゃいましたよ」

「当てたら、一品加えてやるよ」

「野菜炒め……」

「ふりかけ」


 カブの葉の炒め物という案しか浮かばなかった自分を恥じたい。


「え、え、ふりかけって、手作りするものなんですか?」

「どこで売ってんだよ、ふりかけなんて」


 前世では、ふりかけを製造する企業がありました。

 そんな説明は朝食のときの話題として提供することにして、私は自分の手で作るふりかけに興味津々だった。


「クエスト帰りなんだから、もう座って、待って……」

「お味噌汁と、ご飯の盛り付けだけはやります」


 朝食のメニューがなんなのかという発表はないけど、ふりかけにはご飯とお味噌汁という発想に間違いはなかった。

 炊き立てのご飯の香りだけでも満足してしまいそうになりながらも、私は二人分の朝食を準備していく。


「味噌汁、ようやく温められるようになったんだな」

「まだ言いますか……」


 味噌汁を早く温めたいあまりに強火で沸騰させて、味噌の風味を飛ばしてしまったことを私は忘れない。


「今日は、マーポッカと野菜の煮物……白ご飯が進みますね」

「ふりかけも食べてやってくれ」

「贅沢すぎる、ご飯のお供問題ですね」


 ディナさんが作ってくれるご飯は、いつも私に多くの幸せを運んできてくれる。

 テーブルに、すべての品が並ぶのを待ち望んでいると、私の目の前に華やかな黄色が通り過ぎていく。


「え、私、正解できませんでしたよ」

「クエスト達成のご褒美」


 だし巻きたまごが朝食の品に加わって、この黄色の鮮やかさが食卓を彩ってくれただけで幸福感が何十倍にも膨れ上がっていく。


「だし巻きたまご、大好きですっ」

「逃げてかないから、少し待ってろ」


 カブの葉で作ったふりかけが到着して、本日の私たちの朝食が完成する。

 そして、私たちは一緒に手を合わせる。

 そして、いつもの挨拶を交わす。


「いただきます」


 二人で言葉を重ね合わせて、今日も豊かな朝食の時間が始まっていく。


「アルカさんに、ふりかけの差し入れをしたいです」

「多少は日持ちするから、用意しておく」

「ありがとうございます」


 ディナさんの作るだし巻きたまごは、ふんわりとしていて食感が抜群に好みだった。

 もちろん味付けも私好みで、ディナさんは私のお母さんですかと言葉を零したときにツッコミをくらったことは今でも良い思い出。


「そして、これがカブの葉のふりかけ……」

「多少のほろ苦さがあるから、苦手だったら無理すんなよ」


 ほろ苦さという単語を聞いて、一瞬だけ箸が止まる。


「ははっ、苦みが苦手か?」

「食べます! 好き嫌いがないのが、私の売りなので」


 苦みとご飯が合うわけないという私の想像は一気に覆されて、口の中に広がるしゃきしゃきとした食感が癖になりそうだった。


「ゴミに捨てようとしてた葉の威力はどうだ?」

「ゴミと思い込んで、申し訳ございませんでした……」


 しましまのカブのところしか食べることができないという思い込みを反省しながら、私はカブの葉で作ったふりかけの味を噛み締めていく。


「でも、今度作るときは、もっと食べやすく苦みを減らせるように工夫する」

「できるんですか?」

「その反応見ると、美味いのは本当でも、やっぱ苦みが苦手か」

「美味しいです! 美味しいですけど……」


 ディナさんが言葉にした通り、カブの葉のふりかけが美味しいのは嘘偽りなく本当のこと。


「そんなに慌てなくても、葉の苦みは想定済みだから安心しろ」

「ありがとうございます……」


 でも、カブの葉に残っている苦みのことを考えると、私はマーポッカと野菜の煮物でご飯を食べ進めたくなってしまう。


「苦みも、カブの美味さなんだけどな」


 そんな大人の発言をするディナさんに尊敬の眼差しを向けながら、私は前世でのふりかけ事情。そして、フラワリングパーティーのことなどを楽しくお話しした。




『カブの葉で作るふりかけ』 苦みが気になりましたが、苦みのわかる大人になりたいです。

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