第5話「初クエストの成功報酬」
「えっと、魔力を注ぎ込めばいいんですよね」
「そうすると、魔道具が動くはず……そうそう、いい感じ」
魔道具が稼働し始めると、ミキサーの懐かしい音が前世の記憶を運んできてくれる。
ミキサーを使って調理したことはないけど、実家ではミキサーを使って果物のジュースを飲ませてもらったなって自然と懐かしさに浸ってしまう。
「あとの作業は、俺がやる」
撹拌されたスープを強奪したディナさんは、それらを鍋に戻して牛乳らしきものを加えて混ぜていく。
塩コショウで味を調える姿を見て、あ、これは私にはできない作業だと思い知らされる。目分量で味の調整なんて、できるわけがない。
「今日の朝食はマグカップで作ったピザもどきと……」
お店の仕込みをしながら、私たちの朝食の準備まで終えてしまう料理長様に心からの拍手を。
「ニンジンポタージュ」
私とアルカさんの感嘆の声が、同時に上がる。
「いただきます」
異世界に来たときは一人で呟いた『いただきます』という挨拶。
でも、今は『いただきます』の挨拶を重ね合わせてくれる人たちと巡り合うことができたことが、私に多くの幸せを運んできてくれる。
「ん、甘っ」
「本当だ」
「奇跡のニンジンじゃなくても、十分だな」
いただきますの言葉も重なって、私たち三人が同時に口をつけたのもニンジンのポタージュ。
どちらから食べてもいいはずなのに、三人で同じ物から食べ始めたところに笑いが溢れてきてしまった。
「人生初のニンジンポタージュですけど、私の好きな食べ物に加えたいくらい美味しいです」
ニンジン嫌いの子どもでも、これはお菓子と間違ってしまうのではと思うくらい食べやすい。
「まあ、でも、改良の余地があるとしたら、ニンジンの甘さだな……」
美味しい、美味しいと口にしていたのは私とアルカさんだけで、ディナさんは食事をしながら更に美味しく食するための手段を考えていた。
「ニンジンの糖度次第で、付け合わせる食事の内容を変えて……」
甘さのあるニンジンポタージュを口にしながら、何も問題はないのにという表情で視線を交えるアルカさんと私。でも、ディナさんが言っていることも理解できる。
「確かに、お菓子並みに甘かったら、それはもう食後のデザートですよね」
「ここは食事を提供する店だからな」
ディナさんはメモ用紙を活用して、ディナさんだけの発想を広げていく。
「食べるときくらい休めばいいのに」
「十分休んでる」
自分で作った食事に対する研究を欠かさないことがディナさんらしいなと思いながら、アルカさんと私は食事が冷めてしまわないように食べ進めていく。
(このニンジンと出会えたことを、奇跡というのかも)
アルカさんがギルドでニンジンを入手してこなかったら、今日の朝食はまったく別のメニューへと変わっていた。
この甘さのあるニンジンが手に入ったからこそ、お店を更に良くするためにディナさんの探求心は尽きないということ。
(異世界での初クエスト、成功かな)
みんなでやり遂げたって言うには、少し表現が違うのかもしれない。
でも、みんなの力を合わせて成し遂げた奇跡ということで、私は初クエストの成功を心で祝していた。
「あー、でも、できることなら奇跡のニンジンを食してみたかったですね」
「新しい農具が報酬なんだから、これから再会できるんじゃないか」
「奇跡のニンジンの種か苗を探すのが大変そうですけどね」
よくよく考えると、ニンジンのポタージュを食するのは人生初の気がする。
違和感なく口に運ぶことができる食感と味つけに感動しながら、私はマグカップで作ったピザも食していく。
「あ、ディナさん、こっそりトンホッグの塩漬けを混ぜましたね」
マグカップの中にベーコンかハムかよく分からないけど、トンホッグの塩漬けを発見する。
「ピザなんだから、そういう具材が欲しいだろ」
「最高だと思います!」
見ただけで、なんの具材が乗っているか分かるピザも素敵だと思う。
でも、こうやって、なんの具材が入っているか見つける楽しさってものが、マグカップで作るピザには潜んでいると思う。
「あ、こっちは、とうもろこしが入ってる」
「え、羨ましいです」
本物の宝探しはしたことがないけど、こんな風にワクワクとした感情が宝探しには伴うということを初めて知っていく。
(私も、誰かを幸せにしたいな……)
宝探しの力を借りなくても、こんなワクワクとした感情を届けることができるような人間になりたい。
画材の数々を詰め込んだ木箱に目線を向けながら、この異世界で私にできることはなんなのか。想いを馳せながら、二人と楽しい朝食時間を過ごした。
『ニンジンポタージュ』と『マグカップで作るピザ』 美味しくいただきました。




