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異世界で朝ご飯亭の広報を担当します!  作者: 海坂依里
6食目 異世界初クエストは『ニンジンポタージュ』と『マグカップで作るピザ』をご褒美に
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第3話「奇跡のニンジン収穫」

「沼地を綺麗にする魔法とか?」

「生活魔法の呪文なんて、もう覚えてない」

「でも、この沼地を綺麗にするには詠唱の力がいるよね……」


 二人も魔法学園での知識を活かしながら、クエストを達成するための会話を交わしてくれている。


「ニンジーン!」


 こうなったら沼地に顔を突っ込んでみよう!

 と、勢いだけはあるものの、勢いだけで沼地に顔を突っ込むのは私でも抵抗がある。


「ミリちゃん! クエストの内容自体に間違いがあるかもしれない」


 アルカさんが、クエストを破棄しようという方向に動き出す。


(それが一番いいと思う)


 達成できそうにもないクエストに時間をかけられるほど、私たちの体力は無限にあるわけではない。

 私たちは、それぞれ職を持っている者同士。

 奇跡のニンジンなんて探しても探さなくても、生きていく上では支障がない。


「ごく稀にあるんだよ。クエスト情報が間違っていて、いろんな迷惑を被っちゃう系が」


 ディナさんもアルカサンの意図に気づいて、私にクエスト達成を諦めるよう誘導していく。


(私……やっぱり自分には畑仕事が似合っているってやつなのかな……)


 みんなと一緒に、何か大きなことを成し遂げてみたかった。

 それは、自分だけが抱いている勝手な願望。

 だけど、前世で誰かと何かを一緒にやり遂げるという記憶が薄っぺらい私にとっは、このクエストがみんなと一緒にやり遂げる大きなイベントのようなもの。


「私だって、みんなと一緒に……」


 奇跡のニンジンって、どんな味がするのか。

 農民としての経験が豊かになれば、私でも奇跡のニンジンを作ることができるのか。


「みんなでニンジンパーティやりたかったなぁー……」


 その言葉が、ニンジンにとってのキーワードだったのかなんだったのか。

 いきなり沼地のど真ん中から、ニンジン自らが顔を出した。

 夜だっていうのに、月や星よりも輝かしい光を放つニンジンに私たちは目を奪われた。


「眩しっ! っていうか、なんですか!」


 ニンジンが姿を見せたのは、ほんの一瞬。

 今は目も開けていられないほどの光を放って、今はニンジンに近づくことすら困難な状況。


「これ、どうやって収穫するんですか!?」


 ニンジンを背にして、二人に意見を求める。

 しかし、二人も二人でニンジンを見ていられないのだから、みんながみんなニンジンに対して背を向けるという奇妙な構図ができあがった。


「よく分からないけど……触れてみればいいんじゃないかな?」


 めちゃくちゃ投げやりなアルカさんの言葉が飛んでくる。


「これだけ眩しいんだから、目を閉じてでもなんとなくの位置くらい分かるだろ」


 今すぐにでも帰りたそうな雰囲気を醸し出す、ディナさんの刺々しい言葉が飛んできた。


「…………」


 ニンジンは、ただ光を放っているだけ。

 こっちを襲ってくる気配はない。


(ここは、私が見せ場を作る番)


 戦闘では何も見せ場がなかった私に、神様は再びチャンスを与えてくれたってことかもしれない。


「奇跡のニンジン!」


 目を閉じて、うっすらと感じる眩い光へ歩を進めて行く。


「私たちが美味しく食べてあげますからね」


 ニンジンに近づく私の様子を見守ってくれる人は誰もいないけれど、自分は間抜けな顔をしているんだろうなって思う……。


「怖くないですよ、怖くないですからねー」


 何が悲しくて、目を閉じながらニンジンニンジン叫ばなきゃいけないのか。


「ほらほら、ニンジンさんも美味しく調理されたいですよね」


 果たして、この会話でニンジンが逃げてしまわないのかという一抹の不安はある。


(でも、ニンジンになんて話しかければいいのか分からない!)


 だから、ここは小動物に接しているかのように優しさを全開にして接してみる。


「あなたの望みはなんですか? 茹でられたいですか? 焼かれたいですか? ディナさんなら、あなたの望みを叶えてくれますよ」


 ニンジンとコミュニケーションを取ることで、人と関わることの大切さを再確認する……ような気がする。


『甘~い、甘~い』


 突如、奇妙な電子音のような音声が耳に届いた。

 前世のニュース番組でよく見かけた、声を加工して現れる犯人とか目撃者とか……ともかく人の声ではない加工された音声が辺り一面に広がった。


『たっぷり煮込んで、美味しく召し上がれ~』


 ニンジンは、私たちに一つの望みを託した。


「奇跡のニンジン、確保しましたー!」


 私はニンジンから願いを受け取ると、自分の腕の中に奇跡のニンジンを閉じ込めた。


「もう、逃がしませんよ……」


 ニンジンには、もう聞こえていないだろう私の言葉。

 だけど、この奇跡のニンジンにどうしても伝えてみたかった。

 そんなことを思う私は、もう立派な農民ってものになれたのかもしれない。


「ミリちゃん」


 沼地の向こうで、アルカさんが手を振りながら私の名前を呼んでくれた。


「奇跡のニンジン、確保しましたー!」

「どんなニンジンだったのー? 見せてー!」


 沼地の真ん中にいる私と、沼地の淵で待機している二人とは距離ができてしまった。

 私が畑で育てるニンジンと大差ない奇跡のニンジンを見せたところで、彼らにこの感動が伝わるのか不安になる。


「こ……こんな感じです」


 目視でもニンジンが確認できるように、なるべく大きな動作でニンジンを手に持っていることをアピールした。


「思っていたより、普通だねー」


 これは、アルカさんの言葉。


「普通のニンジンと変わらないんだな。さっさと帰るぞ」


 これは、ディナさんの言葉。

 初めてのクエストは、辛辣な言葉を投げかけられて終わりを迎えたのでした。

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