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異世界で朝ご飯亭の広報を担当します!  作者: 海坂依里
5食目 異世界にアジが存在したので、『鯵の漬けそうめん』作りました
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第3話「寂しいって気持ちを言葉にできない」

「この似顔絵、お店に置いてもらえませんか」


 名づけて、ヘンゼルとグレーテル作戦。

 メモ帳の枚数が許される限り、コレットの似顔絵を描いて描いて描きまくる。

 似顔絵の置いてある店を辿っていくと、いつか私とコレットの元へと辿り着くという作戦。


「これを置いておけばいいんだね」

「ありがとうございます、ご協力お願いします」


 お母さんがコレットを探している可能性が低いのなら、この広い市場で叫び声を上げ続けるのは大きな苦労を伴う。


「ご協力をお願いします」

「見つかるといいね」


 お客さんの相手をしなければいけないのに、店主も買い物に来たお客さんも私とコレットを邪険にしないで話を聞いてくれた。

 私が似顔絵を描く速度が追いつかないくらい、ドンナヴィの街の人たちは私たちに親切にしてくれる。


「ん、と……」


 コレットを抱きかかえながら、コレットの似顔絵を描く難しさ。

 街の入り口で描いた似顔絵よりはクオリティが落ちているかもしれないけど、大事なのはコレットの特徴を捉えること。

 コレットのお母さんに見つけてもらうための情報を、似顔絵に詰め込むこと。


「ミリちゃん、ミリちゃん」

「あ、ごめんね。苦しい……」

「んっ」


 コレットは幼いながらに観察力が優れているらしくて、私が似顔絵を描き辛そうにしているのに気づいてくれた。

 私の邪魔にならないように、腕の中から抜け出したいと抵抗を示す。


「コレットちゃん、大丈夫だから……」

「ダメ……」


 コレットの気遣いを優先してあげたい気持ちはあっても、買い物に勤しむ大人たちの中に幼い子どもを放置するわけにはいかない。


「コレット!」

「ん?」


 なんとかコレットを落ち着かせようと頑張ってみたけど、腕の中で暴れていたコレットをおとなしくさせたのは私ではなかった。


「アルカさん!」


 いつどんなときも、誰かを助けるって素敵な気持ちを忘れないアルカさん登場。


「どうしてここに……」

「おにいちゃ……」


 両腕を伸ばして、アルカさんの元へ行きたいとコレットが意志を示す。


「おにいちゃ、アルカおにいちゃ……」


 コレットの手を受け取って、アルカさんはコレットを抱きかかえる役目を代わってくれた。


「え、アルカさんの妹さんですか?」

「違う、違う、俺は末っ子だから……って、コレット!」

「アルカおにいちゃん」


 顔見知りのアルカさんに会えたことが、よっぽど嬉しかったらしい。

 にこやかな笑みを浮かべたコレットが可愛すぎて、アルカさんと話をしたいのにコレットの笑顔に夢中になってしまう。


「あ、姪っ子さんか何か……」

「俺じゃなくて、ディナ……って、痛いって」

「ふふっ、ははっ、アルカお兄ちゃん、だいすきっ」

「はいはい、ありがとう」


 こんなにも晴れやかな笑顔を浮かべてくれるだけで私も嬉しくなってしまって、私の似顔絵も役に立つことはできたのかなって自分を少しだけ褒めてみる。


「買い出しに来たら、なんか見たことある子の似顔絵だなーと思って……」

「あのね、コレットね、ミリちゃんとおともだちになったの」


 私のことを友達と認識してくれたコレットも堪らなく可愛くて、コレットを産んでくれたご両親に感謝したい。


「似顔絵を辿ってみたら、ミリちゃんたちを見つけて……」

「ありがとうございます、作戦大成功です」


 コレットのお母さんを見つけたいという気持ちを込めた似顔絵が、コレットに笑顔をもたらすことができた。この事実が何よりも嬉しい。


「アルカさん、コレットちゃんのことをお願いしてもいいですか」

「え、ミリちゃんも一緒に……」

「協力してくれたお店に置いてきた似顔絵、回収してこないといけないので」


 アルカさんの腕の中で、幸せそうな笑顔を浮かべるコレットが小指を差し出してくる。


「ミリちゃん」


 これは、現代の日本を生きた私でも知っている約束の交わし方。

 異世界でも共通した約束の交わし方があるという事実が、私の心をじんわりと温かい感情で包み込んでくれる。


「またね、ミリちゃん」


 小指と小指を絡める。


「またね、コレットちゃん」


 またねという言葉が、二度とやってこないこともある。

 それを分かっているからこそ、こうしてまたねと言葉を交わし合えることの貴重さに瞳と心が潤んでくる。


「ディナに、夕飯ご馳走してって伝えておいて」

「了解しました」


 互いに大きく手を振って、別れの挨拶。

 誰かに手を振って別れを示すなんて、幼いとき以来の気がして懐かしさが込み上げてくる。

 前世の私なら恥ずかしいんですけどって拒絶をしていただろうなってことも、異世界に来た私はなんの抵抗もなく別れを全身で表現できる。


(またねって、こんなにも素敵な言葉だったんだ)


 転生先の異世界に、私を知っている人はいない。

 だからこそ、次に会う約束を交わせるってことに大きな幸せを感じる。

 また、コレットと会える日が待ち遠しくなってくる。

 自分の中が絶望の感情だけで満たされていないって、自分としては大進歩の気がする。


(あー、今なら、いい絵が描ける気がする!)


 たかが迷子の女の子を助けただけで、自分の心が急成長を遂げたとか。

 それはあり得ないにしても、またねって言葉が私に再会の楽しみを運んでくる。


(ディナさん、お買い物終わったかな)


 ひとつ大きなことをやり遂げたせいか、なんだか夢見心地のような不思議な浮遊感のような感覚。

 結果的にコレットを救ってくれたのはアルカさんだったとしても、少しは役に立てたんじゃないかって自分の行いを振り返る。

 ただそれだけで、喜びという感情が私の心を支配していく。


(そういえば……結局コレットちゃんは、ディナさんとどういう関係なんだろう)


 コレットがアルカさんとディナさんの知り合いということは、会おうと思えば、いつでも会えるということ。

 その事実は私に寂しさをもたらさないでくれるけど、謎が謎のままで終わってしまったことに後悔する。


(コレットちゃんの黒い髪色を見てると、私の妹が一番しっくりする……)


 買い物が終わった後、ディナさんと特別な待ち合わせをしていないことに気がついた。

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