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異世界で朝ご飯亭の広報を担当します!  作者: 海坂依里
4食目 地主様と仲良くなるための『マグカップで作るハムエッグ』
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第6話「自分が口にする食事を輝かせるために」

「ミリ、さすがの私でもフライパンを使うことくらいは知っていますのよ」

「今日の朝食に、フライパンは使いません」


 多くの人たちの協力を得たおかげで、楽しい朝食時間を過ごすことができるんじゃないかと期待が膨らんでくる。


「今日は、炎魔法を使ったマグカップレシピです」


 テーブルの上に用意した材料は、トンホッグのハム。たまご一個。

 調味料はいろいろ用意してあるけど、使用する材料はそれだけ。


「ハムは手元にありますか?」

「大丈夫ですわ」

「うん、揃ってるよ」


 みんなで手を洗ったら、準備は完了。

 あとは、マグカップにハムを敷き詰めるだけ。


「では、自分が食べれる量のハムをマグカップに敷いてください」

「た……」

「クラリーヌ様?」

「楽しすぎますわ」


 ただ、マグカップにハムを敷き詰めているだけのことです。

 それなのに、クラリーヌ様は自身の手を使って料理をすることに感動を覚えているらしい。

 本当に瞳がきらきらするわけはないけど、ただハムを敷き詰めるだけの作業にクラリーヌ様は目を輝かせてくれる。


「むっ、アルカは三枚も使いますの?」

「俺は大人ですから」

「クラリーヌ様、自分が食べられる量だけですよ」

「わ……分かっていますわ」


 二枚のハムをマグカップに敷き詰めるだけの作業はすぐに終わってしまって、クラリーヌ様にとっての至福の時間は終わってしまった。

 隣にいるアルカさんの作業を覗き込むけど、異世界に住むお嬢様は食品ロスという言葉をきちんと理解しているようだった。


「あとは、たまごを割り入れるだけです」


 ここはお姉さん的立場として、立派にたまごを割ってみせよう。

 そんな風に意気込んでは見たものの、碌に料理をしてこなかった奴にたまごが綺麗に割れるわけがなかった。


「ミリ、下手くそですのね」

「私の料理レベルなんて、こんなものです……」


 無残な姿になったたまごを、ハムのくぼみに収まるように整えていく。

 その間に、料理初心者のクラリーヌ様もたまごを割ることに失敗。

 悲しそうな、悔しそうな瞳を浮かべるクラリーヌ様を余所に、アルカさんはお手本のようにたまごを綺麗にマグカップの中へと割り入れた。


「アルカ! そのたまごを寄越しなさい」

「クラリーヌ様、ご心配なさらずに」

「そうそう、最後まで見守ってくださいと」


 マグカップで作るハムエッグ。

 ぶっちゃけた話、たまごを綺麗に割れても割れなくても何も問題はない。

 たまごを綺麗に割ることができたアルカさんは、竹串を使って黄身に穴を開けた。


「アルカっ、黄身になんてことを……」


 目の前で何が繰り広げられているんだってツッコミたくもなるけど、くるくると表情を変えるクラリーヌ様はとても可愛らしい。


「黄身に数か所開けるのが、コツなんだよ」

「こうしないと、炎魔法を使ったときに爆発してしまうんです」

「爆発!?」


 もちろん私もアルカさんも炎魔法を使うことで、たまごが爆発するなんてこと知らなかった。


(まるで電子レンジだよね……)


 電子レンジを使って、たまごを温めたら爆発しましたみたいな古典的なことが魔法でも起こり得るのかと不思議に思ってしまった。

 頭ではそんなことを考えていても、ディナさんのアドバイスに嘘があるはずがない。私もアルカさんも、ディナさんの指示におとなしく従った。


「だから、ぐっちゃぐちゃのたまごでいいんです……」


 ただし、たまごの殻は取り除かなければいけない。

 たまごがぐちゃぐちゃになったのは私とクラリーヌ様の二人だけだったけど、マグカップの中に殻が入ったのは私だけだった。

 口の中に殻を含みたくない私は、懸命にたまごの殻を取り除いていく。


「最後に塩コショウをして、ラップ……ではなく、ジェリーデューサの皮を被せます」


 どこからどう見てもラップフィルムの外見をしている皮を被せなければ、たまごが爆発することはないのではないか。

 そうは思っても、ディナさんの指示から外れたことをして朝食作りを失敗するわけにはいかない。


「炎魔法は使えますか?」

「それくらいの魔法なら、お手の物ですわ」


 クラリーヌ様の言葉を受けて、最後まで自分の手で作る料理にこだわることができそうなことにほっと溜息を溢す。

 こっそりアルカさんと視線を交えて、作戦成功の合図を送り合う。


(人間、そう簡単に調理スキルは上げることはできないから……)


 提案三の調理スキルを磨くことを選んだ私とアルカさんだけど、その案は真っ先にディナさんに却下された。


「好みの固さになったら、炎魔法を止めてくださいね」

「了解ですの」

「任された」


 代わりに提案されたのは、各自で料理を作ること。

 美味しく仕上がっても、不味く仕上がっても、それは作った本人の責任。

 誰も私とアルカさんを責めることができないというディナさんの提案は、なんとか成功というかたちで終わりそうなことに安堵する。


「ミリ、アルカ、完成しましたわ」

「俺も完成っ」

「あ、魔法を止めるタイミングが……」


 たまごを、自分好みの堅さに調整することができた二人。

 お手本の様に綺麗な半熟たまごが完成している二人に対して、私は二人の間に広がる笑顔に夢中になってしまった。

 半熟を通り越して、固ゆでたまごのように完全に火を通したハムエッグの完成。


「ふぅ、火を通しただけなのに疲れましたね……」

「ミリは、火を通したたまごが好きなのですね」


 いえ、私も二人のような、とろりとした半熟たまごに憧れておりました。

 そう言葉を返すことができない私は、おとなしくマグカップを自分の元へと引き寄せる。


「調味料は、お好きに足してくださいね」


 宿屋を営んでいる夫妻のご厚意に甘えさせてもらって、調味料は使い放題。

 塩コショウだけでなく、醤油、ドレッシングっぽいもの、マヨネーズにトマトトマトケチャップ。そして、ソースまで用意してある。味噌っぽいものもあるけど、ハムエッグに味噌は添えないだろうなと。

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