新たな旅仲間
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翌日、私たちは起きるとすぐに作戦会議を始めた。街道を塞いでるのはラッペンファローという奴らしい。家畜としてよく飼われるベルファローの親戚だが、こいつは気性が荒く、今回の個体はすでに何人も怪我人を出しているそうだ。
「ベルファローって火に弱かったわよね?だから私の火の魔法を使えば簡単に倒せると思
うわ」
そうクロエが言うや否や、グレゴが反論する。
「いや、そうとも言い切れないぜ」
「同感だね」
クロエが訝しげに聞き返す。
「それはどうして?近縁種でも同じように陸地にいるんだからそこまで弱点は変わらないんじゃないの?」
「ラッペンファローの皮っていうのはそれなりの絶魔性があるんだ。確かに皮膚の下はベルファローと同じように火に弱いがな」
「だから、私とグレゴが前衛として、闘牛士の要領で奴に傷を付けるから、その箇所に後衛のアンタが火属性魔法をぶっ放すってワケ」
クロエはそれを聞き、難しそうに唸る。
「その…ずっと 1 人旅だったからうまくあなた達に合わせられるか心配なのよね…もしあなたたちが避けきれずに当ててしまったら…」
「オイオイ、クロエ、なんのために俺たちが名前を聞きあったんだよ。そういう連携には名前を呼んで連携を取るんだよ」
少し食い気味に答えるグレゴに呆気に取られていたが、彼女は少し顔を赤らめて
「そ、そうよね!名前を聞いたんだから、それで連携って取れるわよね!」
そうあたふたしながら半ば自分に言い聞かせるように言った。
「でも、私たちは魔法が使える人と組んだのは初めてだから、魔法がどんなものかまだよくわかってない。だけど、アンタを信じてる。だからアンタも私たちを信じて」
「俺たちは運命共同体ってワケだな!よろしく頼むぜエルフさんよ!」
「…えぇ…ええ!任せて!」
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「あれがラッペンファローね…」
クロエが慄く。それを否定するつもりはない。むしろ、奴が持つ角のあまりの大きさに何度か見たことある私でさえも少し怯むほどだった。私は頬を叩き、腰に携えた得物を抜刀し、すでに臨戦体制のグレゴに続くように、クロエと、自分を鼓舞するように叫んだ。
「さぁ2人とも!さっさとアイツを焼肉にしちゃおうか!」
「おうよ!」
「ええ!」
私たちは暴れ牛へと走った。戦闘開始だ。
奴はこちらを確認するや否や、ぎらぎらとした血走った眼をこちらへ向けてきた。ブモォーッ!っと大きく吠え、駆けてくる。双方の距離がどんどんと縮んでいく。このままの速度で衝突した場合、間違いなく私たちは宙に舞い、あの赤黒く染まった角の餌食になるだろう。
激突する刹那、隣に合図を送る。
「グレゴ!」
前方へ足から体勢を落とし、ラッペンファローの左へ滑り込む。同時にグレゴが右へと滑り込む。武器を思いっきり暴れ牛に突き立てる。しかし、手応えはかなり薄かった。
「チッまだ浅いぜ!」
グレゴも同じく手応えを感じられなかったようだ。これではクロエが魔法を撃ったとしても効果は薄い。
「グレゴ、もう一回だ!」
「言われなくてもやるつもりだ!」
当の暴れ牛はと言うとかなり苛立っているのか先ほどよりさらに目を血走らせて空に向かい咆哮をあげていた。今度は迎え撃つ形で武器を構えてその瞬間を待つ。そのほんの十数秒の時間が数十分にも感じられた。
「オオラァッ!」
「せぇりゃあッ!」
今度は深く傷を付けるために武器を振りかぶって打ちつけた。奴は一瞬悲鳴のような鳴き声を上げた。間違いなく今の攻撃は効いただろう。
「今度のはどうだこの野郎!」
そうグレゴが叫ぶ。それでも、奴は傷口から血をダラダラと流しながらなおも突進を仕掛けてこようとする。大した根性だ。
「もっと切り刻んでやるよ!」
先ほどよりだいぶと突進の速度は遅くなった。こちらから奴を切りに行った方がより刻めるだろう。そう考え1人で向かっていく。
「ラニ!危ねえ!」
グレゴが叫んだ時には遅かった。奴はこちら側に向きを急に変えた。ドゴッという鈍い音とともに体が宙を舞う。何が起こったか一瞬理解できなかった。ぶつかられた時と地面に叩きつけられた二つの衝撃で意識が朦朧とする。
「がふっ…」
血が口から出てきた。内臓に傷が付いたのだろうか。剣を支えにして膝で立つのがやっとだった。
「くそっ…クロエ!頼む!」
グレゴの声と共に少し離れて隠れていたクロエがラッペンファローに飛びかかる。
「『力の根源たる火炎の幻素よ、その炎を以て敵を灼け!』アルドール!」
詠唱が終わった途端、クロエの突き出された両手から拳ほどの大きさの火球が現れる。それがファローに命中するや否や炎は全身を覆い尽くし、奴は苦しそうに呻いた。それでもなお突進せんと助走を付けていたが遂には力尽きぴくりとも動かなくなった。グレゴとクロエの2人はそれを見届けたのち、すぐに私の元へと駆け寄ってきた。
「大丈夫…じゃねえよな、回復魔法はどう詠唱するんだっけか…」
「私に任せて、少しだけは覚えてるから…『力の根源たる治癒の幻素よ、かの者の傷を癒したまえ』ヒール」
クロエがそう詠唱しながら両手を私にかざす。すると途端に内臓が治る感覚がした。傷の癒えた私は息を一旦吐くとすぐに2人に向かって謝罪をした。
「ごめん…突っ込みすぎた…」
2 人はほっとしたようにふぅと一息吐いてから
「しっかりしてくれよな、クロエがいたから助かったんだからよ」
「彼の言うとおりよ、私が回復魔法を覚えてなかったらどうするつもりだったの!?」
こっぴどく怒られた。
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「…あんまり美味しくなかったわね…」
クロエが言う。
「…まあそういうもんさ」
せっかくなので討伐したラッペンファローを、焦げたところを取り除いて食べてみたが、肉の癖が強く筋張っていてお世辞にも美味とは言えない味わいだった。家畜化されているベルファローと比べてはいけないと言われるとそうなのだが…そんな感想を述べていると作業をしていたグレゴが頭骨を持って現れた。
「さあさあお二人さん、討伐の印も入手したしそろそろ次の町へ向けて行こうぜ!」
「はいよー、いきますかー」
元気そうな相方に向かって応える。しかしクロエは何やら元気がなさそうな感じがした。
「あっ…私は……ここでお別れね…」
どうやらここで離脱するつもりらしい。次の町までどうせ一緒になるのだろうからそこで別れればいいのにと思ったが、まぁ、元々そういう約束だったのだ。だがしかし、私も鬼ではない。これから彼女は復讐のために長い旅が待っている。お金は重要だ。自分から言い出した手前、報酬を山分けしようと言い出しにくいのだろう。
「ああ、アンタも結構活躍したし、報酬は山分けでいいよ」
「えっと、そうじゃなくてね…あなたたちにも私の旅に付き合ってほしいの!」
は?なんだこいつ、ふざけてるのか?彼女の境遇は可哀想だと思うし同情もするが、復讐についてきてくれとなると話は別だ。私たち側になんのメリットもないではない。むしろ、下手をすると捕まって仲間として殺されてしまうかもしれない。
「あー…そういうことなら私はおこと…」
「ああいいぞ」
「はあ!?」
このデカブツはまた私の意見を聞かないで勝手に了承しやがった。
「待てって!ちょっとは私の意見を聞けってんだろ!」
「お前、報酬全額貰っといてそれはねぇよ。ほら、もらった報酬金を依頼料だって思えばいいじゃねぇか」
「それにしたって少ないことぐらいわかんだろ!?」
そう押し問答しているとさっきから黙って聞いていたクロエがついに口を開いた。
「えっとさ、今回の戦いで思ったんだけど、ラニ、あなた私がいなかったらあのまま死の淵をしばらく彷徨ってたわよね...?」
「…ッ...それは……」
「そうだぜ、ラニ。クロエが攻撃魔法を使えたからあの作戦がなんとか成功して、回復魔法を使えたからこうやって口喧嘩出来てんだぜ?これから同じことが起こらねえ保証はねぇし、何より恩を感じねぇのか?」
水を得た魚のようにグレゴが追撃してくる。それを言われては何も言えない。このまま断ったら悪くなるのはむしろ私だ。
「クソッ!勝手にしやがれ!ただし、私は命懸けないからな!」
そういうとグレゴとクロエは手を取り合ってはしゃいでいた。今度あいつらはボコボコにしてやる。そう私は心に誓った。
こうして、私たちの旅に新たにクロエという仲間が加わったのだった。
こんにちは。ればにらです。お昼に投稿しようとしていたのですが、すっかり忘れてしまっていたためこのような時間の投稿となってしまいました。多分これからもちょくちょくこういうことがあるかもしれませんが暖かく見守ってやってくださいm(_ _m)




