半人前のおっさんと火山へ
お久しぶりですればにらです。お待ちしていただいた方には本当に申し訳ないと考えてます...。これほどまでに時間がかかった言い訳させていただくと、年末年始と私生活が忙しくさらにこれを投稿しようとした2月1日に私がノロになってダウンしてしまうなどありまして、遅れてしまいました。これからも暖かい目で見守っていただければと思います。
「アンタは誰…?」
「オイラはハンク言うて、まぁ…そのメリッサの友達や」
頭をポリポリと掻きながら男、ハンクはそうぶっきらぼうに言った。そのまま近づいてくると、メリッサと揺さぶられている男を簡単に引き剥がした。ため息をつきながらハンクは男に向き直って聞く。
「ほんで?何人閉じ込められとるんや?」
「あ…ああ、まだ15人ぐらいがゴラモスの暴れて壊れた壁の向こうにおるんや!」
15人、名前も顔も知らないが、15人が閉じ込められている。その事実が重く心に突き刺さる。
「その場所は浅いんか?深いんか?」
「六合目や…水しかなくて2日持つかどうか…」
それを聞いたハンクは苦々しい顔をする。リザード以外の人族が遭難して無事に助かる確率の高い時間は3日ほどと聞くが、それより短い2日。それよりも短いかもしれない。火山の環境がとれだけ過酷なのかすぐにわかる残酷な見積もりだった。
「…なあハンク、どうにかならんの?」
涙声でメリッサが問いかける。言葉を選んでいるのか彼はもごもごと口を動かすものの、声を出せずにいた。できるだけ傷つけずに諦めさせる方法を模索しているように見えた。
「俺たちも一緒させてくれねえか」
その声がして振り向くと、いつの間に通ってきたのか、グレゴたち全員がいた。
「もともと火山には煌火石を採るって用がありましたから、救出ついでに採取すれば一石二鳥ってやつですよ」
「私はディジヤ様の人様を見捨てる選択はするなという教えを受けてきました。微力ですが、お力添えさせてください!」
「あ、あたしも!」
みんなの決意は硬そうだ。私もここで逃げる選択肢は無かった。彼女の子どもたちに、幼いうちに親を失うという経験はしてほしくはない。
「…そういうわけで、私らがいたら何か出来ることないのか?」
「あんたら…ありがとうな…ありがとうなぁ…」
メリッサに抱きしめられる私を見て、ハンクは信じられないというような呆気に取られた目で見てきた。
「正気か?自分ら初めて見る顔やし、つい最近知り合ったとこやろ?なんでそんな命懸けの選択出来んねん」
「私以外お人よしの集団だからだよ。…って、今は私もか」
やや自嘲気味にそう漏らす。
ハンクはそんな私たちを見つめ警告するかのようにこう言った。
「今から行くとこはアホほど過酷な場所や。死んでも文句言わんな?」
「言わねえさ、行楽気分で行くわけじゃないからな」
「…ほな準備するから、一旦着いて来ぃ」
言われるがまま、彼に着いて行くものの、メリッサ以外にはやけに冷ややかな目というか、生ぬるい視線を送られた。若干ハンクに対する不信感を覚えたが、その場では何も聞くことはしなかった。
________________________________
_________________________
_________________
「中は綺麗にしてあんだな…」
ハンクの家、兼店はボロ屋という表現が正しいぐらいには今にも倒壊しそうな、そんな見た目だった。しかし、そんな外観とは裏腹に中はとても規則正しく整理されていた。ウスターの店並みか、もしかするとそれ以上かもしれない。
「そりゃあ、ここは鍛冶屋やさかいに中は整頓しとかな客が欲しいもん見つけられへんやろ?…と、アレどこにしまったっけなぁ…」
ハンクはそう言いながら、売り台の下をごそごそと何か漁っている。
「ラニ、この剣すごいよ…僕の家の工房でも見たことがないぐらいに見事な刀身だ…」
「こちらも見てください、ラニ様!このお鍋、丸み、形、深さ、どれを取っても一級品です…!それに柄がとてもよく手に馴染みます!」
何やってんだこいつら。確かに良いものだというのは素人の私でもわかる。わかるが、今は自重すべきだ。
「お前らなぁ…ちょっとは真面目にやれよ」
「別にかまへんで、どうせ誰も買いに来んから気に入ったもんあったらタダであげるわ」
「え!いいの!?じゃああたし、この短剣が欲しい!」
こいつら本当に真面目に助ける気あんのか…?そう考えていると後ろから肩をトントンと叩かれる。
「まあまあ、そうピリピリすんなって。急がば回れ、だぜ?」
「こういう時に使う言葉じゃねえだろ、それ…」
振り返るとグレゴも無駄に豪勢な斧を持っていた。私はただ無言で鳩尾を殴る。
「うげぇっ…今のは効いた…ぜ…」
そう言ってグレゴは膝から崩れ落ちた。
「おーい、道具見つけたから行こか…何しとん?」
「気にすんな」
店を出ると、何人かの少年たちがいた。
「どうしたんやお前ら」
「おっさん、ほんまに火山行くん?」
不安そうな面持ちで1人が尋ねてきた。その目には涙が溜まっている。その様子を見るに、おそらく閉じ込められているうちの1人が彼の家族なのかもしれない。
「そうや。大船に…とは行かへんけど、無事に連れて来れるよう頑張るから母ちゃんと弟と一緒に待っとき。帰ったらまたおもちゃ作ったるさかいな」
「僕もおっさんのこと信じとるから!絶対帰ってきてな!」
「ウチんとこはおかんが信じてへんけど、おっさんええ人ってことウチがめっちゃわかっとるから!」
僕も、あたしもと次々と言って、ハンクを鼓舞すると少年たちは走り去っていった。その背を見ながら疑問を投げかける。
「なぁ、さっきも気になったんだけど、なんでアンタは大人たちからはいい目で見られてないの?」
ハンクは困ったように黙り込み、遠い方を見つめて言った。
「…立ち話すんのもなんやし、歩きながら話すわ。着いてきぃ」
やや足早に、彼は歩き出す。私たちは馬車に荷物を詰め込み、後を追った。
________________________________
_________________________
_________________
「オイラはな、いわゆる半人前なんや」
「半人前?あれほどの武器や道具を作ることができるのに?ドワーフって厳しいんだな」
たしかに。彼の店にはブレンタの町ならば、名工と言われてもおかしくないものばかりが並んでいた。
「あー、ちゃうねんちゃうねん。ドワーフの男っちゅーのはな、人生の中でこの一本って武器を打って、やっと一人前って認められるんや」
「それほど早く打つ理由はあるのでしょうか?」
「それはやな、オイラたちドワーフは魔法使えるやつがほとんどおらんやろ?ほんででっかい怪我とか病気したらすぐにポックリ死んでまうからやな。今は医療技術が伸びたからそういうので死ぬのはだいぶ少ななったけど、何百年も続いた慣習やから今も続いてる感じなんよ」
なるほど、伝統を大事にしてるってことか。
「てことはつまり、アンタはまだ人生の一本ってのを作ってないのか?」
「せやな。そのせいでいつまでも半人前よ。ほんま笑えるやろ」
どこか遠い目をして彼は自嘲した。
「人生の一本って言ったってこれから変わることもあるだろうになんで適当なのこしらえないんだ?」
「んー、まあ、ちっぽけな自尊心みたいなもんや。クソガキやった頃には『神童』とか呼ばれたこともあってなぁ。みんなとは違う、何か自分は特別なことをせなあかんはず、そうやってずっとずっと機会を逃し続けてこのザマや。今更人生に踏ん切り付けて何かを作ろうにも、それで世間様の見る目なんて変わらんもんやからやる気もないって感じよ」
陰気で皮肉な奴だな。幼少期の一度の成功からの幾度とない失敗を繰り返した人間はこうも腐るか。さっきメリッサを止めた時はどんな奴かと思ったが、こんなのとは期待外れもいいところだ。
「やればいいじゃないですか!あれほどの道具を打てるんなら今作っても見返せますって!」
「そうですよ!ハンク様はとても良い腕を持っていらっしゃるのに、その機会をみすみす逃し続けてしまうなんて勿体ありません!」
「あたしのもらった武器こんないいものだよ!自信持って!」
やる気のない中年に活気溢れた若いのがあれこれ言っても余計惨めになるだけだろ、やめてやれよ。あとクロエは一対の短剣をカンカンと打ちつけて訴えかけるのをやめろ危ねえ。
「そうか?なら、やってみるのもアリかもしれへんな」
「…ケッ、口だけならなんとでも言えるよ」
「ラーニ」
「あたっ」
こつんと隣に座るグレゴに小突かれる。
「ああいう性格の奴嫌いなのはわかるけど、良いじゃねえか口だけでも。何もせずに毎日過ごすよりは幾分かマシさ」
そういうもんかね。会話を続ける四人を尻目に、私は手綱を握り直した。
________________________________
_________________________
_________________
「着いたで。ここがダルトン地底火山の入り口や」
そこはまさに、鉱山と聞いて想像するような工具や器材が並んでいた。私たちの乗っている馬車の数倍はあろうかというほど巨大な貨車に、木箱に入った鉱石、それを吊るす大きな吊り下げ機が配置されていた。しかし、それとは別に一際巨大な建物のようなものがどんと配置されている。その建物からは電線がいくつも伸びており、ドレタニアの中心部へと伸びていた。
「なあ、あのでかいやつはなんなんだ?」
「ん?あれは発電所やな。地下の溶岩の地熱で電気作っとるんや。できた電気は中に併設されてる変電所を通って町に伸びとんねん」
何が何だかさっぱりわからないがそうか。今の私たちにとって用はないだろう。
「これから入山するわけやけど、オイラんこと守ってな」
「必ずとは言い切れませんよ。僕たちも初めての場所ですから何があるかわかりませんし…」
むしろハンクにこっちが危険なことが起こらないように守って欲しいものだ。
「まあそうなんやけど、オイラカバンん中に爆弾入れとるからさ」
「は?え?ば、爆弾?」
寝耳に水だ。工房で探してたのは爆弾だったのか。同時に合点もいった。落盤を除去するのに手作業で行う訳にもいかないだろうし爆破して一気に片付けるのが効率的だろう。
「爆弾で片付けるのはわかるんだけどよ、落盤の向こう側の作業員も吹き飛ばしちまうんじゃねえのか?それともどこか避難してるアテがあるのか?」
よく考えてみればそうだ。それ相応の威力があるのなら被災者を消し飛ばすことも出来るってことだ。それじゃなんのために来たのかわからなくなる。
「もちろんある。ここの火山は六合目からは一合ずつに臨時の避難所が設けられとるから、落盤しとる場所にもよるけど、六か七のどっちかに避難しとるはずや」
「では、最悪の場合も考慮して急ぎましょう!」
人生初の登山がまさか地下へ潜るだなんて奇妙なこともあるもんだ。そう思いながら私はイサベルたちの後を追った。




