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アルスストーリア  作者: ればにらのにもの
4章『今はただ、六等星にすらなれずとも』
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到着早々...

町に着いてから改めて思ったが、どの人もすごく小さい。大人と子供の見分けが身長ではほとんど付かないぐらいだ。

「そういやさ、メリッサは子どもがいるって言ってたけどほっといて大丈夫なのか?」

「んー?上の子は今学校行っとるし、生まれたばっかの下の子は体弱うて、今病院の保育器ってやつの中入ってるけど、ウチはそんなに長いこと干渉出来へんからなー。電気が切れへん限りは大丈夫よ。ウチが心配そうにずっと見守ってても短くなるわけでもないしなー。あはは…」

そう言って彼女は今度はあまり元気そうじゃない笑みを浮かべる。保育器ってのが何かはわからないが、それに我が子が入っているってのは親としては気が気でないだろう。しかし、魔法技術以外が発達しているからこそそういった命を守る装置もあるのだから複雑なものだ。

「うーん…着いたの?」

「ふぁぁ…どうやらそのようですね、クロエちゃん様」

どうやら2人が起きたようだ。

「クロエちゃん様、クロエちゃん様、外を見てください!見たことない建物がありますよ!」

「わっ…ここがドレタニアなのね、すごい…」

「おい、バッ…!」

荷台から顔を覗かせた彼女にバカと言いそうになったが見ると、頭に外套のようなものを被り髪と耳を隠していた。ちゃんと対策するんだなと感心する半面、それも余計に怪しいだろと思い、無意識に顔が少し引き攣る私がいた。

クロエたちに気付いたメリッサがにこやかに声をかける。

「おはようさん!いい夢見れた?」

「えっ!?ラニ!私いい夢見れたわよね!?」

不意に声をかけられて戸惑ったのか私に話を振ってきた。知らねえよ。

「知るか、私に聞くな。自分のことだろうが」

「あははっ、おもろい子やんか!もし悪い夢見てても、このレーヨン通り見たらそんなん見た記憶なんかすぐどっか行ってまうくらい楽しいもんばっかやで!」

「ドワーフ訛り、文字では幾度(いくたび)も読んだことがありましたが、本物は初めて聞きました…!感動です!」

ほー、不思議な抑揚や聞き慣れない単語を使うものだと思っていたがそんな訛りだったか。ちゃんと正確に意見が伝わっているようだからよかったものの、もし通じなかったら、あの場所で戦いになってたかもしれないなとなんとなく思い馳せた。

「あ!思い出したで!いい鍛冶屋!」

何の前触れもなく唐突にメリッサが手を叩く。

「本当ですか!?どんな人なんですか!?」

落ち着け。興奮しすぎだ。

「そこの『ウスターの鍛治・工務店』のウスターのおっちゃんや!」

今いる位置から目と鼻の先じゃねえか。そりゃあ思い出すわけだよ。

「おっちゃーん、依頼人連れてきたでー」

「待て待て待て、どこに馬車止めればいいんだ?」

「そこらへん適当に止めといてええで」

よくはないだろ。店の真ん前じゃないか。しかし他に止める場所も近くには無さそうだしな…

「まあいいじゃん、お言葉に甘えさせてもらお?」

迷うが仕方がない。ここらに止めていいと言ったのはメリッサだ。私たちがとやかく言われたなら彼女になすりつける用意はした。

「ああ、ドワーフの鍛治技術をこの目で見れるなんて胸が高鳴ってしまいます…!」

そんなに金がかからないといいなぁと思いつつ、私たちはメリッサに続いて店の中へ入っていった。


薄暗い店の中は丁寧に磨かれた武器やぴかぴかのつるはし、さらには鍋といった金物(かなもの)まであるが、人の気配は全くしなかった。

「誰もいないな」

「あっれぇ?おっかしいなぁ。おっちゃーん!おらんのかー!?」

メリッサが店の裏まで歩いて行く。いいのか?

「いてくれないと困るね…」

マルクが呟く。そうは言ったって、私たちにはただここにいることを願うしかないだろう。

「なんや、やっかましいなぁ」

のっそのっそと白髭を蓄えた老年の男性が降りてきた。

「ウスターのおっちゃん、この人らがな、いい鍛冶屋探してるらしいんよ。見てやってくれへん?」

「おー。ちょうど今暇してたからかまへんぞ。ほらこっち来てみ。」

そう言って彼は私たちを一瞥(いちべつ)すると、会計場から取り出した手拭いを頭に巻き、マルクの方を一目見て、そのまま視線をマルクの手元の布に巻かれた’’モノ’’へ移した。

「ほんで?赤髪の兄ちゃんはそれ診てくれってことかいな?」

「はい、剣なんですが…治せますかね…」

マルクは布でぐるぐる巻きにした折れた剣をウスターの前に恐る恐る差し出す。

「まず確認してみなわからんけど、なんとかする努力はするで。うわ、なんやこれ」

布を解いて剣を見た瞬間、彼はそんな声を上げた。

「だいぶけったいなもん持ってきたなぁ、どこで手に入れたんや?」

「ええと、叔父の持ち物だったんですけど、詳しく説明するのは少し難しいですね…あはは…」

ややうなりながらもウスターは剣を持ち上げたり、破片を観察したりしていた。

「これなぁ、治そう思ったら多分煌火石(こうかせき)使わな無理や」

聞き慣れない鉱物だ。ここ特有の鉱石みたいなものだろうか。

「おっちゃん、いきなり煌火石(こうかせき)なんか言うてもわからんやろ。説明してあげな」

「ああ、確かにせやな。その煌火石(こうかせき)ってのはやな、ここの地底火山の奥底でしか採られへん手のひらぐらいの大きさの希少鉱石や。ほぼ全部の金属とガッチリ接合してくれるから仲良し石ともよばれとるんやで」

最後の豆知識はいらなかったがそんなものがあるのか。

「在庫はないのか?」

「無いな。年に一つ掘れればいい方や。最後に持ってこれたんは…もう3年ぐらい前かなぁ…」

マジかよ…そんなもん待ってられないぞ。マルクに諦めるよう言おうとすると、彼は意を決したような表情をしてこちらに振り向いた。しまった。

「おい待てマルクあんた今何考えて…!」

「じゃあ僕らでそれを採りにいこう!」

遅かった。

ああもう、なんだかこういう展開になると薄々思ってた。まあ、戦力になることだろうしやるしかないか…

「洞窟探検…ちょっとやってみたかったのよね!」

「やはり火山なので暑いのでしょうか…いい魔法があるか思い出さないとですね…」

「俺は薄着だからこのままで行けるかな」

なんでお前らそんなに乗り気なんだよ。火山に潜るんだぞ。

「まあまあ、落ち着きーや。ウチの旦那が鉱山で働いとるから、一旦行ってみて発掘したか見に行ってみよ!旦那はこういう時運がええからもしかしたら発掘して来てるかもしれへんで!」

そうだと楽なんだがな。早く中央海を越えたいし、出発の準備をしてさっさと行くか。ウスターに感謝を告げ、店を後にする。

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「ん?なんや向こうのほう。ただの休憩広場のはずやのにぎょうさん人おるな」

そう言って彼女が指差したのは通りの奥の方、人が多いのはここも同じなのだが、確かにひときわ人が密集している。

「迂回するか」

「何言うてんの、行くで!」

「ちょっ、オイ!」

強引に手綱を引かれ、そこへと向かっていくことになった。


円形の広場の真ん中には人が1人いた。必死に何か叫んでいるが、ここからでは民衆のガヤガヤとした声にかき消されて聞こえない。

「なぁ、これどうしたんだ?」

近くにいた男に聞いてみる。

「ん?なんかな、グレーターゴラモスが出たー言うて炭鉱からあいつが飛び出してきてん。なんでも、中にまだ何人か閉じ込められてるらしいで」

「グレーターゴラモス?」

疑問符を浮かべた声を出すと、男はこちらを見て、ああ、旅人か。という反応をした後説明してくれた。

「えっとやな、まずゴラモスっちゅー2、3レアルぐらいのトカゲがおるんやけど、それがなんか数百年に一回ぐらいの割合で突然変異してでっかくなんねん。そのでっかくなった奴は溶岩バクバク食べるせいで、溶岩並みのとんでもない熱さになってやな、しかも気性も荒なって手ぇ付けられへんバケモンになんねん。それがグレーターゴラモスや」

「へぇ、でも2、3レアルほどなら大きくなってもたかだか4、5レアルほどじゃないのか?あんなに焦る必要も無いだろう」

「それがな、溶岩の力なんか知らんけど、10レアルぐらいか、それ以上の大きさになんねん」

「10レアル?!」

普通のやつの3倍以上じゃないか。それが溶岩並みの熱さなんてたまったもんじゃない。でも、そういうのは大抵寿命が短いってのがオチだ。

「ちなみに寿命もめっちゃ長くて20〜50年ぐらいは生きよるで。だからしばらく鉱山も閉鎖になるやろな。もし、ここに何も持たずに鍛治の依頼しに来たなら残念やけどしばらくは無理やろな」

嘘だろ…じゃあ完全にここに来たのが無駄足になるのか…

「無理って…そんな簡単に諦めるのかよ」

横からグレゴが言う。困ったような表情をして男は続ける。

「そりゃ俺だって諦めたか無いけどな…火に耐性あるような装備作ろう思ったら魔力込めて魔石加工する必要あるやろ?俺らドワーフは魔力がほぼ無いからそんなん無理よ」

グレゴは何か言いかけたが、言葉を飲み込んだ。残念だがこればっかりは私たちはどうしようもないことだ。

「なあ、メリッサ、私たちは…」

メリッサがいた方を見ると、誰もいない。どこへ行ったのか探してみると、群衆を掻き分け、焦燥したような彼女が広場中央の男の方へ向かって行っているのが見えた。グレゴに馬車を任せ、彼女を私は追いかけていた。

なんとか人混みを抜けて、開けた場所に出ると、彼女は男に掴み掛かって、激しく揺さぶっていた。

「アンタ!ウチの旦那はどこにおんのや!」

「落ち着けってメリッサ!そんなにしたって答えられないだろ!」

私は彼女を宥めようと羽交い締めにするが、動転した彼女の耳には届いていないようだ。それに、力が強く私だけでは抑え切れない。

「メリッサ、そんなんやってたら答えるもんも答えられへんやろ。放したり」

そんな低い男の声が聞こえてきた。

「誰だ?」

後ろを振り返ると、そこには目つきの悪い中肉中背の男が立っていた。


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