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アルスストーリア  作者: ればにらのにもの
4章『今はただ、六等星にすらなれずとも』
19/20

いざ、ドワーフの町へ

カランカラン、仕事開始を伝える鐘が鳴る。鉱山労働者たちは一斉につるはしや円匙(えんぴ)を手に取り、鉱山へ入り、町で働く者は早々に店の開店準備をする頃だ。

「くぁぁ…」

男は一伸びすると、営業中の札を立てるために外へと出た。自分の姿を見るなり子供たちは口々に言う。

「子供おっさんおはよー!」

「あー、おはよーさん。なんか武器打ったろか?」

その言葉を聞いて子どもたちはゲラゲラ笑う。

「子供おっさんの打つ武器とか信用できへんわ!おもちゃはおもろいからそっち作ってーや!」

「ういうい。じゃあお昼の鐘カランカラン鳴ったらオイラの工房に()ぃ。新しいの作ったるわ」

「やったー!」

いつもと変わらないやり取り。男、ハンクはやれやれと店の中へ入り、椅子に腰掛けると、若干埃を被った武器や道具たちを見る。

「お前らもオイラがこんな体たらくやなけりゃあ、いい貰い手が()ってくれたんやろうけどなぁ」

彼はいつものように誰も何も買いに来ないこの店で1日を店番として過ごす。そんな何の変哲もない日常の、そのはずだった。

始業の鐘が鳴って2時間ほど経った頃、街の中心部が慌ただしくなっていた。

「なんや一体…?まだ昼飯の時間には早いぞ?」

気になったハンクはどうせ誰も来ないだろうが一応休憩中の看板を立て、見に行ってみることにした。

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デゾルディア領を出てはや1週間ほど、私たちは馬車に揺られ、だだっ広い平原を移動していた。

「それうるせえなぁ…」

がっちゃがっちゃと聖水の空き瓶が揺れている。大量に貰ったが使う場面も見つからず飲み水にしてたが、そろそろなくなりそうだ。貰った時は消費までどんだけかかるのかと思っていたが、まさかこれほどまでに早いとは。無くなったらまた雨水啜りに戻るだろうからそれは少しだけ憂鬱である。

「空き瓶も私たちが丹精込めて作ったものですから、投棄するのはいくらラニ様でもダメですからね」

「…ちなみに売るのはいいの?」

「うーん…旅の資金になる訳ですし、それならまぁ…」

いいのか。じゃあ次の町に着いたら遠慮なく軍資金にさせてもらおう。

「ラニ、ちょっといい?」

クロエは地図を広げて私に見せてきた。

「西大陸に行く船に乗ろうと思ったら多分この港町のサヴァール・クーガが一番いいと思うの」

「でもそこ北西の方だからかなり遠いぞ?さっさと乗るならこのまま真っ直ぐ西へ行ったイヴェル・クーガの方がよくねえか?」

「でもぉ…」

クロエはまだ食い下がってくる。

「なんだよ、なんかそこに用でもあんのか?」

「サヴァール・クーガと言やぁ、世界有数の巨大港町じゃねえのか?貿易が盛んで、世界中から珍しいものが集まるって言う」

ははぁ、なるほど、そういうことか。観光をしたいと。

「残念だけど、今のうちの資金じゃそんな余裕はねぇ。ゆえに却下だ」

「そんなぁ、マルクもなんか言ってやってよ!」

お前が行きたいんだろうが。マルクに投げるな。

「うーん、僕もラニと同じ意見ですね…今のこの資金だと観光はできても船に全員乗れるか怪しいぐらいです」

マルクは財布袋を取り出して振って見せた。硬貨が擦れ合ってチャリチャリと乾いた音が鳴る。

「それに、イヴェルへの道中でドレタニアというドワーフの町があるので、これを直すためにもそこに寄りたいと考えるんですよね」

そう言ってマルクが取り出したのはあのエラドが使っていた刀身が伸びるよくわからない剣だった。

「げっ、んなもん持ってきたのかよ!捨てろよ」

「捨てないよ。うちのお抱えの鍛治師には直せないって言われたけど、鍛治が得意なドワーフならどうだって思って持ってきたんだ。元々は魔族が持ってた物だし、とんでもない力があるかもしれない。万一のために持っておくのは大事だろう?」

む、まぁ確かに…言うことも一理ある。

「では、このままイヴェルへ向かいましょうか。クロエちゃん様、サヴァールへはまた今度一緒に行きましょうね」

「ベルちゃんほんとにいい子ぉ!」

なんか既視感のあるやりとりだな。そんな2人を横目に私はグレゴと馬車の運転を変わった。

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「お?あれかな?」

あれから1時間ほど、目の前に民家が見えてきた。ブレンタのものとは違って、土や煉瓦が中心に使われた独特な形状の家だ。

「おーい、マルク、あれどう思う?」

「あれがドレタニアで間違いなさそうだね」

私の右隣に座るグレゴがマルクに問いかけると、彼は荷台から顔を覗かせて言う。案外早く着いてよかった。

「2人は?」

「疲れたのか寝てるよ」

何に疲れる要素があったんだよ。どうでもいいけども。

「じゃあ早く剣を直して貰えるよう頼むか」

目の前は商店街と思わしき大通りが広がっているが、崖の上まで大きな建物が点在しているのを見るに、安いところを探すのは苦労しそうだ。すぐに見つかるといいんだが。

「つーかあの黒い線ってなんだ?」

「あれは...電線じゃないかな?」

「でんせん?ってなんだ?」

聞き慣れない単語に私とグレゴが困惑すると、マルクは端的に教えてくれた。

「電線っていうのは要は電気を通す紐のことさ。電気があれば魔法が使えない人でも魔法みたいなことが出来るようになるからね。特に魔法が使える人の少ない種族だからあれだけ張り巡らされてるんじゃないかな」

ほー、面白いこと考えるなぁ。と感心すると同時にある疑問も湧き上がる。

「ブレンタの町にも配備したらいいのになぁ」

「元々はブレンタの技術なんやで?」

「そうなのか…って誰だ!?」

左から聞こえてくる声につい相槌を打ったが私の左隣には誰もいないはずだ。声のした方を見ると、褐色肌で短髪のドワーフの女性が立っていた。見た目的に15歳行くか行かないかぐらいだろうか。

「ごめんごめん、別に驚かすつもりは無かってん。森から木取って帰ってたらなんやけったいなもんおるわ思ってな、危ない人らやったら倒さな思って近づいたら電線のこと話してはったから、ちょい混ざったんよ」

そう言うと快活に、はははと笑った。その姿を見るに旅人を騙そうと考えるような悪い人間ではなさそうである。

「アンタら見たところここ来んの初めてやろ?案内したるわ」

このまま町に入っても適当にウロウロすることになりそうだからそいつは僥倖(ぎょうこう)だ。

「そうして貰えると助かるな。私はラニ。こっちはグレゴで、後ろのはマルク。あと2人荷台で寝てるやつがクロエってやつとイサベルってやつ。アンタは?」

「おーおー、結構大所帯なんやね。ウチはメリッサや。よろしゅうな」

彼女はニカっと微笑む。さっきから笑顔が眩しいものである。

「メリッサさん、よろしければ腕の立つ鍛治師を教えていただきたいのですが」

「上手いことできる鍛治師探してんの?せやなぁ…誰と会わせたらええやろか…」

うーんと考え込む。誰を紹介するか考えるなんてとんでもない数の鍛治師がいるのだろう。私も小耳にはさんだ程度の知識だが、流石は『ドワーフに直せないものは人間関係だけ』と言うだけはある。

「うーん、思い浮かばんわ!そのうち思い出すやろから着いてきて!」

ちょっと気が抜けたが、彼女が思い出した時の楽しみが増えたということで納得した。

「そういやメリッサって何歳なんだ?私より年下に見えるけど」

町へと向かっている際にふと聞いてみた。

「ん?具体的に何歳ぐらいに見える?」

彼女はニヤリと笑って逆に質問をしてきた。

「14とか?」

「俺から見るに15,6歳ぐらいか?」

「僕が18なんですけど、僕と同じか少し下ぐらいですかね?」

私たちが各々そう答えると、彼女は上機嫌になった。

「ぶぶー、ハズレや!そんな若う見られて嬉しいわ。ウチは今年で34や!どう?見える?」

私たちは愕然とした。34だって?どう見てもそうは見えない。というか、グレゴより年上じゃねえか。

「ちなみに2人子供もおるんやで?それやのに10代に見えるとかお世辞でもめっちゃ嬉しいわ」

全然お世辞のつもりは無かったんだが…種族の違いがここまで如実に出ると非常に不思議な気分だ。

「…なんか世界の広さをまた一つ知っちまったな」

「俺も同じ気持ちだぜラニ…」

「まったくだね…」

私たち3人全員が同調したが、それはどうやら上機嫌なメリッサには聞こえていないようだった。


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