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アルスストーリア  作者: ればにらのにもの
3章『大貴族の覚悟』
18/18

予期せぬ出会いと旅立ち

今回少々グロテスクな表現がありますので、苦手な方は注意してください。

夜が来た。3度目だ。この屋敷で3度も夜を迎えることになるとは想像だにしていなかった。それにしても、待ってる時間というのはどうも落ち着かない。マルクは相変わらず軽装なので、それでいいのかと聞いてみたが、

「下手に重装化するよりも、いつもの方が対処しやすい」

と自信ありげに言うもんだ。正直不安で不安で仕方がない。私たちも一応武器を再調整して来た。マルクが敗れた際に戦うことになるのは私たちだ。いや…負ける前提じゃダメだな。マルクを信じてやらないとな。

ガシャン、と大きな音を立てて門が乱暴に開かれた。どうやら来たらしい。

ゆらゆらと不気味に揺れる影が近づいてくる。庭のちょうど開けた場所に出て来たと同時に雲が晴れ、奴が月明かりに照らされる。ニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべる。奴がエラド。最低の野郎か。

「よぉ、マルク。オレのことを覚えてるかぁ?」

「ええ、もちろん覚えてますよ。いくら幼子だったとはいえ、貴方のような人物を忘れるはずがないでしょう」

くくくっ、とエラドが笑う。

「そうだよなぁ。もしあの時クラリッサをぶっ殺してたら今頃お前とバートラムの2人家族になってただろうもんなぁ!」

マルクは未だ抜刀せず、納刀している剣の柄を握っている状態だが、その握る力が強くなったように見えた。

「それにしても、観客持ちとは舐められたもんだな。何考えてんだぁ?お前」

「彼らは僕の覚悟の見届け人です。貴方こそ、今更何をしに来たんですか?」

「くっははは!察しが悪いな、お前。オレはなぁ、ずっと憎々しく思ってたんだよ…。お前ら父子はいっつもそうだ。オレの欲しいもんをことごとく手に入れやがって…!オレだって貴族の家に生まれたんだぞ!オレにも分け前があっていいはずだ!」

叫び散らかす内容は微妙に噛み合っておらず無茶苦茶。逆恨みもいいところだ。幼少期の体験というのはここまでに人間を歪にしてしまうものなのか。とても哀れに思う。

「だから、オレは手に入れに来たんだよ。この屋敷と、権力をな」

エラドが腰の剣に触れる。

「へへへ…お前は殺さないでやるよマルク。お前は手足を切り落として見せ物にしてやる。その前で、てめぇの母親と婚約者を辱めてやってもいいかもなぁ」

瞬間にマルクは抜刀した。

「叔父さん...いくら身内と言えども限度というものがあります。今発言した侮辱を取り消すのであれば一撃で苦しませずに殺してあげます。ですが…」

「甘っちょろいことばっか言ってんじゃねえぞクソガキがああああ!!」



エラドが飛びかかる。手には刃渡10リアルほどの短剣が握られていた。それは途中で折れているようにも見え、その姿は剣というには不恰好すぎる。マルクは一瞬、あの程度ならすれ違いざまの一撃で倒せると考えたがすぐに思い直す。衛兵たちは胴体を切断されている者もいた。あの程度の長さの剣で人間の首はまだしも、胴体を切断できるほどの威力は出るだろうか。

次の瞬間マルクは驚愕した。先程まで短剣だったエラドの剣は一気に刃渡が7倍ほどに伸びたのだ。とっさに剣の背で受け止める。その衝撃で乾いた金属音が響いた。側から見ると、軽々受けたように見えただろう。しかしその剣はとんでもなく重かった。マルクは剣だけでなく体全体がミシミシと軋むような感覚がする。

「くっ…!」

自分の剣の背を滑らせるようにエラドの剣を受け流す。切先が地面に着いた途端に石畳が砕け、へこんだ。跡には粉々になった小さな石が転がっている。マルクは受け流さなければ自分がこのようになっていたかもしれないという事実に慄いた。

「へっ、よく受け流す発想が出来たな」

「あなたと違って訓練を怠っていませんでしたからね」

見え透いた安い挑発。しかし、煽りに対する耐性が皆無のエラドにはそれで十分だった。

「ぶっ殺してやる!」

攻撃は単調な方が避けやすい。避けて反撃するだけの単純な行動。しかしマルクは再び攻撃を剣で受け流した。

「舐めやがって!」

「僕は大真面目の…つもりですっ!」

マルクがこのような行動に移ったのには二つの理由があった。まず一つ目はエラドが服の下の体を彼の持つ剣と同じぐらいか、それ以上に硬い防具で守っていた場合、切りつけても硬直してしまうかもしれない。エラドがもしただの町のチンピラのままだったのなら特段問題はないだろうが、間違いなくそうではないので、反撃を受けてしまうかもしれない。二つ目の理由はエラドの持っている武器にあった。受け流した際に引っ掛かりがあったのだ。武器を手入れしていれば刃こぼれはあそこまで引っかかることはない。池に張った氷に石を投げ込めば落ちた箇所からヒビが広がるように、引っ掛かりの箇所に対し、重点的に何度も剣を打ち付ければ武器を破壊出来るかもしれない。その考えがマルクの頭をよぎった。故の行動であった。

「こんなに庭を穴だらけにして、畑にでもする気ですか?」

「そん時はてめえの血で畑を潤してやるよ」

さらに挑発を続けるマルクだが、何度も重い剣撃を受け止めた影響か若干息が上がっている。一歩間違えれば剣ごと一刀両断されんばかりの攻撃のため仕方がないといえばそうである。

「なぁ…マルク?バートラムはてめぇに言わなかったのか?常に想定外を予測して動けってなぁ!」

エラドが高笑いしながら剣先を空へ向ける。

「なんだ…ありゃあ…」

そう声を漏らしたのはラニだった。エラドの周りを武器が旋回している。本数こそ少ないものの、異様としか言えない光景だった。

「へへへっ、その驚いた顔が見れるなんてわざわざ服の下に用意した甲斐があったってもんだぜ」

マルクはすぐに表情を元に戻し、平静を装うものの、心情は穏やかなものではなかった。計画が瓦解する音が聞こえる。

「おいおい戦意喪失かぁ?」

鉄の剣が飛んでくる。マルクは地面を思い切り蹴って飛び退く。鉄の剣は石畳に突き刺さっていた。

「避けるなよ、ただの鉄の剣だぞ?」

下卑た笑みを浮かべ、さらに武器を飛ばそうとエラドは手を天に掲げる。

(防戦だけじゃダメだ…このまま的になって死ぬなら一か八か飛び込むしかない!)

ついにマルクから攻撃へ出た。両手でしっかりと剣を握りしめて、疾風のごとく斬りかかる。

「おおおおおおお!」

己を鼓舞するように声を発するマルク。2人の距離がどんどん縮まる。

「死にやがれ!」

武器を投擲する。当たれば即死だ。しかし、マルクは驚異的な反応速度で避ける。死の淵の極限状態が彼の反射神経を一段上の物にしたのだ。二の矢、三の矢が飛んでくる。ほぼ同時だったので、うち一本が頬を掠めた。耳が少し削れ、激痛が走る。だがマルクの足はむしろ速さを増してエラドへと接近していった。

「バケモンか…!?」

エラドの表情に焦りが見える。

「エラド!これで終わりだ!」

「ちぃっ!」

エラドは咄嗟に武器で防御する。次の瞬間、マルクの剣がぽっきりと折れた。彼の剣も限界だったのである。

「そんな…!」

エラドは薄ら笑いを浮かべて、剣を振り下ろさんと天高く掲げている。

「へ…へへ…どうやら天は俺に味方をしてくれてるみたいだなぁ!死ねぇ!」

ラニたちはすでに抜刀し、マルクの下へと向かっている最中だった。しかし距離は十数レアルほど、間に合いそうもない。

(こんなところで終わりか…マリア…ごめん…)



私が見たのは多分、奇跡だったと思う。エラドが天高く振り(かざ)した剣が音を立てて砕けた。

「あっ、なっ!?」

「その剣も…限界だったのか…」

マルクは冷静そうだった。マルクを助け起こし、少し離れる。

「これも計算通りだったのか?」

「全部とはいかないけどね…」

エラドは焦りに焦っている。

「あの野郎…なまくらを俺に渡しやがったのかよ…!ふざけんな…!ふざけんな!」

あの野郎?協力者がいるってことか。それはまずい。

「オイ、お前!洗いざらい全部吐いてもらうぞ!」

「ヒィッ!」

グレゴが近づいた瞬間やつは手に持っていた折れた剣の柄を放り投げてそのまま逃げていった。

「あっ!待ちやがれ!」

「追わないと!」

このまま逃せば次があるかもしれない。より強力な武器がその協力者が持っていたら厄介だ。

「マルク、そんなもん後にしろよ」

「あ、ああ。すまない。つい」

マルクは折れた剣を拾い上げて眺めていた。気になるのは確かにわかるが。



夜の町の裏道を駆けるというのは大変だ。人はあまり出歩いていないが、やはり月明かりだけしかないので暗く、追跡が難しい。

「どこまで逃げやがんだあの野郎…」

「流石に疲れますね…」

15分ほど走っただろうか、エラドはついに建物に入って行った。

建物の前で一旦立ち止まる。

「絵に描いたようなボロ屋だな…」

「ちょっと魔法撃ったらすぐに壊れちゃいそうね…」

魔法撃つことを前提にするな。

「とにかく早く入ろう。抜け道でもあったら困る」

マルクに促され、中へと入る。扉を開けてすぐ、掃除をしていないのだろう、埃が舞って咳き込んでしまった。

「よくこんなところで住めるなぁ」

「同感。つーかあいつどこ行きやがったんだ?」

月明かりが窓から差し込んでいるのだが、足跡があまりない。あんなに急いで入って行ったんだから新しいのがあってもおかしくないはずなんだが。

「皆様!こちらです!」

イサベルが声を上げる。

「ここの床、開きそうです!」

ああ、なるほど。地下か。抜け道は遠からずもあったということだ。

「俺が開ける。下がっててくれ」

グレゴが腰をかがめ、隠し扉を思い切り開いた。随分錆びついているようで、ギギギィ、と扉の金具が鳴った。これをあんな中肉中背の人間が上げられるとは思えない。おそらく元々は空いていたが、急遽閉めたのだろう。ドタバタしている音が聞こえたがこれの音だったか。

明かりがまだ付いている。好都合だ。

「早速行くか」

「ああ、そうだね」

階段がつながっていたが、すぐに終わりが見えた。地下といってもそこまで深くはなさそうだ。

降りきると、一本道が続いていた。

「気をつけろよ、もしかしたら罠があるかもしれねえからな」

最新の注意を払って進んでいくと、中規模の社交会場ほどの広場に出た。地下のはずなのにまるで真昼間のように明るく、異様な雰囲気だった。中央付近にエラドと他に1人、背広を纏った男がいた。

「ひっ!あいつらだ!早くなんとかしろよサリエル!」

サリエルと呼ばれた男はこちらを一瞥すると口を開いた。

「あなた方が、私の収集品の剣を壊した方々ですか?」

「そうだ。僕が壊した」

マルクの返答を聞いて激怒するのかと思ったが反応は真逆のものだった。

「素晴らしい!やはりあなた方に注目しておいてよかった!」

「は?」

思わず声が出てしまう。注目とはどういうことだろうか。

「この前のカルドラ教会の時より目をつけていましたが、まさかあの剣を破壊する者まで仲間につけるとは…!私は今非常にゾクゾクとしておりますよ!」

「何バカなこと言ってんだよ!早くあいつらを殺せよ!」

私たちもまったく状況が飲み込めない。その前に、カルドラ教会の一件をなぜ知っている。

「それに比べて貴方にはがっかりですよ、エラド。私の収集品の中でも最上級の逸品でしたのに簡単に壊されてしまうだなんて」

「それは…お前があんななまくら渡すから!俺は悪くねえ!」

この期に及んで責任転嫁をするエラド。逆に肝が据わっている。

「貴方とは最初会った時から波長が合わないんですよね」

「何言ってやがんだてめぇ!あいつらを早く殺せって…」

ため息をついたサリエルが腕を振りかぶったかと思うと、エラドの首元を撫でるような軌道で横へ伸ばす。

私は絶句した。グレゴたちも開いた口が塞がらなかった。


横へとまっすぐ伸びたサリエルの手の上にエラドの首が乗っていたのだ。

「散々人の首を刈ってきた者が首を刈られ死ぬ。これが因果応報ってやつですよね?」

「あ?え?そこにあるの、おれのからだ?」

サリエルはニコニコとしながら答える。

「そうですよー?自分の体を俯瞰で見ることなんて滅多にできない体験ですねぇ、覚えて死んで行ってくださいねぇ」

そう言ってエラドの首を放り投げると虚空を握り潰すような動作をした。すると、首は飴玉程度の大きさまで一瞬にして潰れた。

「さて、改めまして、私の名前はサリエル・グリモル。中位悪魔でございます」

悪魔。その単語を聞いて私は初めて背中を死神が撫でるような気分を体験した。御伽話に出てくる混ざり物エルフ以上の災厄。魔族の出てくる物語で幸せな結末で終わるものはひとつもない。つまり、目の前にいるこいつには勝てない。どうやってもだ。息が勝手に浅く、荒くなる。空気がうまく吸えない。

「ああ、そんなに怯えないで。別に今殺すつもりはありません」

「じゃあ…いつ殺すってんだよ」

「それは内緒です。楽しいことはいつだって突然の方がいいでしょう?」

マルクが口を挟んできた。

「本当に今は見逃してくれるのか?」

「ええ、もちろん。あなた方はしばらく見てて飽きそうにないのでね。もし戦いというならお相手してあげますよ?エラドのようになりたいのならね」

そんなことを言われて私たちは戦いを挑む度胸はなかった。

「これは脅しでしたね。失敬。では、またいずれお会いしましょう。…その時まで健在でいてくださいね?」

サリエルは丁寧にお辞儀をすると霧のように消え去った。消えると昼間のように明るかったのが嘘のように薄ぼんやりとした魔力燈だけになった。サリエルの魔力の凄まじさを見せつけられたような気がした。

一気に力が抜ける。私たちは地面にへたり込んでしまった。

「また私命狙われんのかよ…もうやだわ…」

「今度は私たちも一緒ですから、そう悲観なさらないでくださいませ、ラニ様…」

「はは、ありがと。イサベル」

マルクはエラドの死体のそばに近寄っていった。

「どうすんだよそれ」

「…後で取りにくるよ。こんな最低の人間でも僕の叔父だからね…」

「そうか」

苦しそうに笑うマルクに私にはそれ以上かける言葉が見つからなかった。



なんだかんだでその後2日ほど滞在した。カミルもなんとか無事に目覚め、マルクの両親に感謝はされたが、私は心労で何を話したかいまいち覚えていない。ただ、褒美は馬と荷馬車をくれと言ったのは覚えている。そして出発当日になった。

「それじゃあ、お世話になりました。馬と荷馬車もありがとうございます」

「気にしないでくれ。こんな程度のお礼なら何度でもしよう」

こんな程度と言ってもとんでもなく荷台が広いのだが…はは、さすが金持ち貴族は太っ腹だ。

「そういえば、『デルク』という名に聞き覚えはありませんか?」

クロエが思い出したように質問をしている。

「『デルク』か…確か海の向こうの西大陸の方の地方貴族だね。何か用が?」

「まあ、色々と…」

「余計な詮索はしないでおこう。様々な理由があるのが人間だからな」

思いがけず仇の場所が見つかったようだ。サリエルのことも忘れられるしちょうどよかった。

それにしても、西大陸なら船に乗る必要があるな。ああ、面倒だ。うだうだ言ってる暇があれば動いた方がいいな。よし、覚悟を決めよう。私は馬車に乗り込む。

「じゃあな、マルク。マリア様大事にしろよ」

頼りになるやつだったし、当主の座を継承してもきっとこの領地は大きな問題事もなく平和なままだろう。

「ラニ、僕も同行させてくれ」

あぁ、なんか既視感。ちょっと前にも似たようなことがあった気がする。

「何を言っているんだマルク。お前は跡取りなんだぞ」

「そうだよ!それに、マリア様はどうすんだお前」

「彼女には許可は取っているよ」

取っている?いつの間にだ?

「彼女には僕がラニたちと旅に出るかもしれないと伝えてあったんだ…それに、叔父さんのこともある…僕はデゾルディアの誇りに賭けて奴を倒したいんだ!」

あの時がそうだったのか…?いやいや、それでも困る。

「誇りったってお前…途中で死んだら元も子もねえんだぞ!」

「そうだ。第一、魔族と戦うなんて無謀だ!命を無駄にするな」

親父さんも同意見なのは助かる。

「なら僕はデゾルディア次期当主の権利をカミルに渡してでも彼女たちに着いていくよ!」

何言ってんだよまじで。こりゃまた本当に面倒だ。

「あなた、ラニさん」

お袋さん…?その口ぶりはなんなんだ?

「今のこの子は私を村から連れ出した時のバートラムによく似てるわ。誰にも止められない、強い意思を持っている…」

彼女は私を優しい瞳で見る。

「私、マルクが貴女方に着いていくと初めて会った時からなんとなく思っていました。だから、連れて行ってあげて」

いやいやいやいや待て待て待て。

「こいつ、あの…色々!私らと冒険してる場合じゃないでしょ!?」

「知っているわ。カミルや、マリアちゃんから相談もされたもの。二人ともそれなりに覚悟はしていた。カミルはけがで、マリアちゃんは決心が鈍るからってここに来ていないけれどね…」

「ごめん、母さん」

クラリッサがマルクの頭を撫でる。

「子は親から離れるのは当然のことよ。謝らないで。貴族じゃちょっと珍しいってだけよ」

彼女は懐から何か紐のついたものを取り出してマルクに渡し、なにやら耳打ちをした。

「行ってらっしゃい、マルク」

「クラリッサ!」

「なぁに?子の門出を祝うのは親の役目でしょ?」

バートラムは黙り込む。この家も母親天下だったのかよ。

「マルク様!」

声がした方を向くと、マリアが従者を連れ、小走りでやってきていた。

「マリア!」

「やっぱり、私あれで別れては後悔すると思いましたの。」

涙をいっぱいに溜めて話す彼女をマルクは静かに抱きしめる。

「ありがとう…辛い思いをさせてごめんね…」

「いえ、マルク様は五大貴族ですもの。誇りを優先して当然ですわ…」

2 人の世界に入ってる…見てる私らはひっじょーに気まずいんだが。

「きっと僕は帰ってくる…その時は...!」

マルクの話を遮ってマリアは彼に接吻をする。…私は早く消えたい気分だ。クロエが「ひゃ

あ…」とか意味の分からん鳴き声を上げてる。

「その先はかえってきてから聞かせてくださいまし...?」

「ああ、必ず...!」

「マルク!おめぇもう早く乗りやがれ!見てるこっちが恥ずかしいわ!」

「ラニ様!長い別れになるお二人を邪魔するのはいけませんわ!」

イサベルまで感化されちまったじゃねぇか!

「ごめんごめん、もうちょっと待って」

マルクははにかみ、マリアに向き合う

「それじゃあ、僕もう行くよ」

「ええ、マルク様の旅が実りあるものとなるように祈っておりますわ」

再び2人は口づけを交わした。

マルクは荷台に乗り込む。

「それじゃあみんな!しばらくのお別れだ!」

馬車が走り出す。運転はグレゴがやれるようなので任せた。馬車旅というのは憧れだったので、これから移動の時間は楽しくなりそうだ。


「マルク!」

突然のバートラムの声に驚き、後ろを見る。しかし、彼の声は威圧感のあるものではなく、随分優しい声色だった。

「お前の戻ってくる場所はこの家であることを忘れるなよ!」

マルクはそれに腕を振り上げ応えた。第一印象こそ悪かったが、彼もやはりマルクの親である。



馬車はガタンガタンと音を立てゆっくりと進む。

いい天気だ。私はこの間だけは、サリエルのことを忘れることにした。


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