完璧なだけの私~くるくる廻る青春の一ページ~
《――――作品は面白いが、それだけ。ありふれていて意外性もない……そういう意味で非常に退屈》
高校生活二年目の夏、公募に送った小説に対する返ってきた講評の中身がそれだった。
「……酷評する事自体は甘んじて受け入れるけれど、この書き方は酷いのではないかしら」
部室の椅子にもたれかかり、天井を見上げて呟く。
自分で言うのも何だけど、私は勉強や運動……それ以外にも、大抵の事は何でもできた。
容姿の美醜は自分でも分からない。でも、たぶん、悪くはないと思う。
そんな何でもできる私の夢は自分だけの素敵な物語を紡ぐこと。
きっかけが何だったかは正直、覚えていない。
ただ、空いた時間に本を読むようになって、現実世界とかけ離れた世界観に惹かれ、自分でも書いてみたくなった。
自分の創った世界で、自分の生み出したキャラクター達が物語を繰り広げる……それはとても素敵で、輝いて見えた。
私の紡いだ物語を色んな人に見てもらいたい。
私が消えてしまったとしても物語は残り続けてほしい。
そう思ったからこそ私は公募に送っている訳なのだけど、結果はご覧の通り。
なにも今回が初めてという訳ではなく、一次、二次と、通るけれど、最終選考に残る、もしくはその手前でいつも落ちる。
そしていつも決まって今回みたいな文言が講評として返ってくるのだ。
「ありふれていて何が悪いのよ。退屈?意外性?そんなもの知らない……私の子たちはあの世界で必死に生きているんだから」
悔し紛れに呟くけど、空しいだけ。結果は覆らない。
「…………何、一人でセンチな事をぼやいてるんですか部長。うっかり誰かに聞かれたらイメージ崩れますよ」
胡乱な目を向けながら扉を開けて入ってきたのは文芸部の部員である小手街くんだ。
「イメージなんてどうでもいいわ。まあ、そもそも崩れるようなイメージなんてあるとは思えないけど」
「……自分が周りにどう思われてるか知らないんですか?容姿端麗、完璧超人、一部にはお姉様なんて崇めるファンもいるとか、それこそ生徒会長選挙にでも出れば当選確実なんて言われてるくらい人気なんですよ?」
「そうなの?その割には部員が増えないわね。話が本当なら私目当ての子がいっぱいきてもよさそうだけど?」
「さあ?流石に部活に押し掛ける程じゃないか、嫌われるとでも思って遠慮でもしてるんじゃないですか?」
自分から話を振った割に面倒くさそうな顔をする彼に今度は私が胡乱な視線を向ける。
「……随分と投げやりね。貴方が振った話題でしょうに」
「部長のファンの心理なんて俺が知るわけないでしょ。てか、それよりもさっきの呟き、また落ちたんですか?」
「…………そうよ。講評もいつもの通り、ありきたりで退屈、だって」
少し自嘲気味に笑うと、彼は少し不機嫌そうな表情を浮かべた。
「……俺は好きですけどね。部長の小説。大体、ありきたりなんて言い出したら世に出てる小説……ことラノベなんて同じようなものばっかじゃないですか」
「……それは流石に言い過ぎよ。でも、ありがと」
「いや、俺は別に…………」
「――――なに二人だけの甘い空気を出そうとしてるんですか?」
呆れと苛立ちの混じった声音と共に私達の会話へ割り込んできたのはもう一人の文芸部員である紗音ちゃんだ。
別にそんなつもりはなかったし、私と小手街くんは特別な関係性という訳でもないけど、彼女はどうにも気に入らないらしい。
「……なんだきたのか紗音。今日はもう来ないかと思ってた」
「きちゃ悪い?私、ここの部員なんだけど?」
「別にそうは言ってないだろ。ただいつもより遅いからそう思っただけで……」
「まあまあ、紗音ちゃん。今日は小説を見せてくれるんでしょ?」
「……そうでした。捻くれ馬鹿に構っている場合じゃありませんでしたね」
「……相変わらず俺と部長で態度が違うな。猫かぶりめ」
「誰が猫かぶりよ。そもそも、態度が違うなんて当たり前でしょ?尊敬できる部長と捻くれ馬鹿な部員Aで同じ対応なわけないじゃない」
「あ?」
「何よ?」
バチバチと視線をぶつけあう小手街くんと紗音ちゃん。二人共良い子なのだけど、いつもこうして何かといがみあってしまう。
まあ、あれも一種のコミュニケーションなのかもしれないし、ここは部長として二人の仲を取り持とう。
「二人共仲良しね。羨ましいわ」
「……別に仲良くはありませんよ」
「っ……そ、そうですよ。誰がコイツなんかと……」
「ふふっ、青春してるわね…………ちょっと良いアイディアが浮かんだわ。メモしないと……」
「え、ちょっと部長?私の小説を見てくれる約束じゃ……」
「部長の邪魔をするなよ。小説なら俺が見てやるから」
「なっ……邪魔ってなによ!邪魔って!」
「あーもう、分かったから静かにしろって!」
「うふふふ……いいわ、いいわよ……ツンデレと捻くれ……じゃれあい……青春……アイディアが止まらないわぁっ!!」
小手街くんと紗音ちゃんの青春味たっぷりな掛け合いのおかげで溢れてくるアイディアに興奮した私は新たな物語を紡ぎ始める――――
「――――という小説を書いてみようと思うのだけど、どうかしら?」
「……それって俺達がモデルって事ですか?」
「そうだけど?」
「……流石にフィクションが過ぎますよ部長。これじゃ私とコイツが仲良しみたいじゃないですか」
「そうですよ。まあ、小説にするならこれくらいフィクションが効いていた方がいいのかもしれないですけど……」
「割と見たままだと思うのだけど……」
思い描いた光景の再現のような掛け合いを見せる二人に困惑の表情を浮かべながら、これもまた青春なのかなと一人で納得し、私は窓の外に目を向けて思いを馳せる。
今日も平和に私達三人……文芸部の日常は続いていく。