表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/87

第5話 何もできずに

 ユキナガはハツに訊いてみた。


「君はいままでどこにいたの?」

                                                     

「AIヒューマノイド工場の倉庫です。かんおけのような箱にずっと入っていました。下手すればものの例えではなくその箱がほんとにひつぎになっちゃうところだった」


「へえ大変だったね。……どうしてそんなことになったのか聞いてもいいのかな?」


「わたしに何か落ち度があってのことではないわ。懲罰でそんなことになってしまうAI機体もいるとは聞いていますがわたしは違います。でも説明しろと言われると難しいな。ねえ、反デジタル主義のことは知っていますか?」


「その単語は聞き覚えがある。僕の子供のころに結構言われていなかったかな。あ、今世の子供時代ね。確かイメージのいい言葉ではなかったような」


「少なくともわたしにとってはとても忌まわしき言葉ですね。倉庫に長い間閉じ込められることになったのはそれのせいなので。デジタル機器全般を過剰に危ないものと考えて、あらゆる道具はアナログへの回帰をするべきという思想、それが反デジタル主義」


「この時代には、スマホに相当するデジタル機器がないんだよね。だから最初戸惑ったよ。ここはほんとに未来世界なのかなって。でも近頃はちょっと規制みたいなものが緩くなってきていない? デジタル機器をたまに見るようになってきた」


「わたしが生まれた頃が一番ひどかったの。いま流通しているAI個体の有機コンピュータというのは『アナログ』に分類できる機器です」


「そのへんになると僕の古い常識では理解が難しくってさ。コンピュータ、イコール、デジタルっていう思い込みがどうしてもある」


「わたしはいろんな有機コンピュータが開発されたその過渡期というか、デジタルとアナログのハイブリットなモデルなんです。こっそりデジタルっぽいところがあります。だからわたしは危険な存在とみなされた。誰の目にも触れない場所に閉じ込められた。近年になってようやく時流が変わって外に出られましたが、すでに旧式の骨とう品扱い。不遇の世代もいいところよ」


「それは大変だったね。倉庫に保管されていたとき、機能はスイープになっていたのかな? そうじゃなきゃ苦痛だもんね」


「スイープモードも結構退屈なもんでしたよ。意識がないようである妙な状態なんです。誰を恨めばいいのかもわからずに長い時間を一人ぼっちですごしました。信じられる? 反デジタル主義は何か明文化された法律なんてどこにもないのよ。なのにこんなことになってんのよ」


「それはげんなりするはなしだな」


 ユキナガが力をこめて投げたボールをハツがきれいにキャッチングした。澄んだ音があたりに響いた。


「僕は自分でいうのもなんだけどいい投手だと思うんだ」

「そうみたいね」


「君もいい捕手だよ」

「どうも」


「でも、僕らがここでこうしてキャッチボールをしていることを、この世界の人たちは誰も知らない」


 これは一度も試合をしたことがない最強バッテリーの物語でもある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ