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第25話 追走

 ユキナガとハツの乗ったオレンジ色のベスパが、逃げ回る爆発物を追いかけてリンドウ丸の艦内を突き進む。


 通路は狭く、ときおり兵士が立ちはだかり妨害したが、ハツは巧みなハンドリングで簡単に突破していく。


「うわ、すごいすごい」

「落ちないでね、ユキナガくん。落ちたら自分で何とかしてね!」


「こんな複雑な道をよくわかるね」

「爆発物の動線を追いかけているだけです」


 背後から兵士の撃った銃弾が壁に当たる音がした。それでもかまわずに進む。


 突然後ろから、ベスパとは違う轟音が聞こえてきた。


「ん? うわ、なんだあれ!」


 ユキナガが振り返ると、西洋風の鎧をまとった銀色の騎士が空を飛んで追いかけてきていた。


「処罰をあたえる」


 ユキナガはその声に聞き覚えがあった。


 試験管を務めた性悪なAIヒューマノイド。名前は知らない。聞いていないから。


「お前、空飛べんのか」

「夏目ユキナガか。貴様はさっき消しておくべきだったようだ」


 空飛ぶ鎧は剣をかざし、その先端が赤黒く光った。


「攻撃が来るぞ、ハツ!」

「ええ? なによあいつ。うわ危な!」


 バックミラー越しに察知したハツは光線を辛うじてかわした。


 ハツが怒鳴った。

「おいこら鎧! なんなんだあお前は!」


 彼女は怒ると結構怖い。


「貴様……AIヒューマノイドだな。ずいぶんと旧式だ。我こそは偉大なるヒメネス博士の騎士グスタフ。爆発物を仕掛けたテロリストよ、排除する」


「なに勘違いしてんのよ! いい? このままわたしたちについてきなさい。あと20秒であなたが探す移動型爆発物に追いつきます」


「何だと?」


 グスタフと名乗った鎧のAIは、その剣からふたたび赤黒い光を生み出そうと構えたが、ハツの言葉にとどまり、ベスパの向かう先を凝視した。


 ベスパは豪快に階段を駆け上り、甲板に飛び出す。そしてハツの言う通りそれは姿をあらわした。


 空中に浮かぶ、大きくてきれいな懐中時計。


 甲板の船首付近に追い詰められる形になったその物体は、くるんくるんと回りながら、まるでユキナガ達の様子を観察しているように見えた。


 異国の数字が描かれた時計板と金色のケース。人間の子供ほどの大きさであることが異様だったが、デザインは上質な懐中時計。


「こいつが爆弾か。ハツ、時間はまだあるの?」


「あと85秒。ちょっとそこの鎧、下手に突っついたら駄目よ。大爆発しちゃう」


「ならば海に捨ててしまおう」


 空を飛ぶグスタフは懐中時計を両腕で抱えて、リンドウ丸から離れようとした。湾外に向かって飛んだ。


ユキナガはその様子を片手をかざして眺めた。


「おお、速い速い。爆発力はどのくらいだろう」


「このくらい離れれば船は安全かと思われます。……あ、まずい」


 ハツの言葉にユキナガが「何が?」と、問おうとした瞬間、懐中時計が光り、爆発した。


 まぶしい光のあとに遅れて轟音と衝撃波がリンドウ丸まで届いた。


 煙が立ち込めて、様子が分かるまでしばらくかかった。


 ようやく落ち着くと空中に悠然と浮かぶグスタフの姿が見えた。


「ずいぶん丈夫な奴だな。ハツ、制限時間よりちょっと早く爆発しなかった? 変更の指示があったのかな」


「自分の意志だと思います。あの子もグスタフが気に入らなかったみたい」


「あー」

 ユキナガはなんだか納得した


 グスタフはリンドウ丸の甲板に戻ってきた。


 そしてユキナガとハツに向けて厳かに告げた。


「貴様らを捕獲する」


 両手を後ろで縛られたユキナガとハツは、軍の施設内の広間で銃を持った兵士たちの前に引き出された。


 グスタフが二人を冷たくにらみつける。ハツが弁明する。


「あのね鎧くん、一応言うけど爆発時間はわたしが意地悪して嘘教えたわけじゃないのよ? 無事でよかったわね」


「そんなことはどうでもいい。わたしはあの程度の爆発などまるで問題ではない。このようなテロに及んだ目的を白状するのだ」


「僕たちじゃないよ。むしろあんたたちを守ろうとしたんだ」


 ユキナガが答える。


「苦しい言い訳だ」


 グスタフは効く耳をもたない。そこへもう一人広間に入ってきたものがあった。


「聞いた状況だと、わたしも君たちが犯人に思えるね」

 

 偉大なるヒメネス博士。

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