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第6話「才能あり」

一連の出来事は、俺にとって余りに衝撃的だった。

それでも、目の前で起きたことに動揺する暇もなかった。

だって、もう彼らは俺の手を取り感謝を述べている。


「梶野くん、本当に助かったよ......」


彼の名は宅野太郎。

冷静な奴かと思ったら、完全に俺頼りの戦法で、拍子抜けしかない。

計画性のけの字もない様なやつだった。しかし、それを見抜けなかった自分のことを責める方が楽な気がしてきていた。


景文彩は俺に元に駆け寄ってきて「ありがとう」「ありがとう」と繰り返す。

これが現実で、俺は何も嬉しく無い訳だが。

夢じゃないなら、この先のリアルを生き抜くイメージが湧いてこない。


「おい、おい、おい......」


2人を払い除ける俺は、やれやれと言った様子で呆れた顔を見せた。

それに、2人の周りには今誰もいない。

非常事態にパニックを起こした民衆たちは揃いも揃ってこの場から去ったし、せいぜい野次馬が様子を伺ってるぐらいだ。

それにしても、銃なんて構えて、それを仮にも人の形をしたやつに向けて撃って、大丈夫だったんだろうか。

この先俺は、どうなっちゃうんだろうか。


「よし、梶野くん。一旦ここを離れよう。野次馬が集まってきても困る......」


ああ、鬱陶しい。

宅野も景文も、俺にとっては敵なんだ。

あの悪魔みたいな奴はさておき、俺はまずコイツらが嫌いだ。

何故、俺がこんな面倒なことに巻き込まれている。

何故、俺なんだ......。


「あー、はい......。宅野さん、でしたっけ」


「え、あ、うん。どうしたの?」


俺は大きく息を吸い込んで、しかしそれを一旦飲み込んでからゆっくりと話し始めた。


「......もう、ウンザリっす。俺は、アンタ達には協力できないよ」


右手に持った銃を宅野の胸あたりにポンと赴に当てて、お返しするよと言わんばかりに目を細めた。

宅野は一旦それを両手に受け取って、しかし俺の事を逃がさんとする意志を見せてきた。


「正直、困る」


「......は?いやいや、俺帰りますんで」


「......すまない。すまなかったよ。しかし、君がいてようやく討伐できる相手だったんだ」


「知りません」


俺はそそくさと人混みをかき分けて進んでいく。

それを追おうとする宅野を尻目に、俺は走って駅まで向かっていった。

周りの人たちは一斉にスマホを構えて俺の事を撮影する......と思いきや、案外そんなことは無かった。

視線は確かに俺に集まっているが、そもそも何が起きたのか収拾が付いていない様子ではあった。


あれ?銃を構えて、あれだけデカイ光の球を撃って......。

アイツをやっつけたのは間違いなく俺なのに、案外他の人たちも興味無いんだな。

いや、それでいい。変に有名にならないで済みそうならそれでよかった。

それにしても、景文彩がまた俺の家に来るようなら、今度こそ警察を呼ぼうか。

明日からの日々が、また憂鬱だな。


渋谷の街で発生した悪魔襲来事件は、ひとたびTVニュースや動画アプリ、まとめサイトでも大きく取り上げられるようになった。

悪魔の画像は確かに野次馬たちによって収められていた。

そして、悪魔が眩しそうな素振りを見せ、その後姿を消すシーンの画像も。

また、空中を飛ぶ悪魔とともに、直下の地上にいた俺たち3人の姿も捉えられていた。


しかし、家に着いてからニュースを見た時、俺は愕然とした。

何故なら、俺たち3人が大して今回の件で重要な存在として取り上げられていなかったから。

というのは、せいぜいニュースでは、悪魔を撮影した画像の隅に俺たちが僅かに映っているのみで、特に俺たちにスポットが当たっている訳ではなかったのだ。

ついでに言えば、俺たちが持っていたあの光線銃も、それから光線銃から放たれる巨大な光の弾も、画像の中には映っていなかったのだ。

あれだけの事があって、悪魔を消し飛ばした当事者の俺は、何も有名にならずに済んでいた。


「え」


俺は飯を食う途中、つい箸を落としてしまった。

母親がそれを拾ってくれたのを見て、「ごめんごめん」と声が漏れる。

その後すぐさま、俺は腹に溜めていた言葉を母親に向かって突き刺す。


「なあ、母さん。ちょっと、いい?」


「なーに。改まっちゃって」


「いや、なんかさ......。言っても、なんのことか分かんないと思うんだけどさ」


「うんうん」


「俺は、もしかして人間じゃないのか?」


母親は正に仰天というような様子で目を見開いた。

その有様が俺にとっては余計不可思議で、何も無いなら無いでそうすぐ伝えてほしかった。

伝えてほしかったのに。


「貴方、どうして」


その瞬間、二階の自室に駆け上がって、すぐさまベッドに頭から沈んでいきたいと思った。

でも俺は、震えそうな指先を静止しながら、まずゴクリと唾を飲み込んで母親にこう言った。


「どうしても何も、悪魔みたいなやつに、襲われたんだ。このニュース、俺生の現場見たんだよ。で、この悪魔を討伐したのも俺なんだ」


人差し指が指す先のTV画面には、変わらず悪魔が急に空中で姿を消す映像が。

母親はその画面を見て、恐る恐る俺の目を見るような表情で、


「そう、なのね......」


俺は憤りが隠せなかった。

だって、親に隠し事をされていたって言うのか?

信じられない。母さんは俺に、嘘をつき続けていたのか。

嘘なら嘘と、やはりそう言ってくれた方が助かるのは間違いない。

それなのに母さんは、やけに顔を曇らせて、ずっと俯きがちに俺の顔をちらちらと確認する。

それが、やけに腹が立ってしまって、


「なんだよ。隠し事は1番嫌いだ。父さんが関わってるんだろ?なあ、母さん。俺は超能力者か、それとも悪魔と同類か?」


母さんは照れ隠しなど一切無く、真剣な瞳を濁らせながらも俺の元へ1歩2歩近づいてきて、それからゆっくりと口を開いた。


「そう。これはいずれ話さないといけなかったこと。でも、ごめんね。まさか本当に、悪魔が来ると思っていなかったの」


無責任な話だ。

宅野や景文と同じか、母さんも。

俺だけが、1人取り残されている。

その疎外感は、いつにも増して俺の存在を囲んでいく。

悪魔の話も何もかも、俺だけが知らないままで過ごしていたのか。


「なんだよ、、、。話してくれよ、頼むから」


母さんは気まずそうな横目で、モジモジと少し身体を揺らしながら、言いづらそうに口をモゴモゴとしている。

その様子がやけに気になってしまい、俺は追加で母さんに問い詰めてしまった。


「......それに、あの悪魔は何なんだ。気味悪い羽も生えてる。俺ら人間への敵意も持ってる」


「............そうね。私も詳しくは知らないのだけれど、貴方はお父さんの子どもだから。私はお父さんからの受け売りだけれど、それを今から話すわね」


俺は、これまでの人生を清算するつもりですらいた。

だって、出自から問い直す必要性すら出てきているじゃないか。

いきなりのイベント続きで困惑の色は隠しきれない。

しかしまあ、もう何が起きても受け入れるさ。


俺が5歳の頃に亡くなった、実の父親。

梶野秀次(かじのひでつぐ)という彼の名前は、俺に全く受け継がれない形になった。

母親の名前が春子だったから、俺は秋と名付けられたのだろう。

一人っ子じゃなければ、冬美とか、名付けていたのかな。


「頼むわ、母さん」


「......そうね。まず、前提なんだけどね。私も、お父さんから詳しい話はあまり聞いてないの。でもね、お父さんが少し変わった人間なのは、間違いないの」


目の色が変わった。

母さんは真剣そのもの。しかし、その表情の裏に隠された、未知数の嘘が俺にとっては気持ち悪かった。


「父さんは、早いうちに死んだだろう。何か関連が?」

「ううん、それは違うはず。だって、事故で損傷した跡が実際にかなり残っていたし......」


俺の父親、梶野秀次は、交通事故に遭遇して亡くなってしまった。

血塗れになった遺体は、大型トラックにぶつかったからか、かなり表面が傷んでいて、見るのも悲しくなるような惨い見た目だったのだ。

そのことは、あまり思い出したくもないのだが。


「......とにかくね。秋、貴方にはお父さんの血が流れてる。ということはね。多分、あの悪魔に対する手段のような......対抗勢力?みたいなさ。そういう扱いなのかもしれない」

「かもしれない、って。いい加減にしてくれ。母さんも本当に知らない話なのか?」

「お父さんが、細かく話したがらなかったから。私も、秋が産まれて以降にお父さんから聞いた話ばかりなの」


父さんは、なぜある時期を境に母さんに対して色々と話すようになったのか。

しかし、ついばむように小出しで情報を提供していたらしいのも確かで、母さんは一つ一つ丁寧に思い出すような素振りを見せていた。


「お父さんはね。ある意味、超能力のようなものが使えたの。それで、いつか地球に来る敵を迎え撃てるように、してるって......」

「なんだ、それ......」


母さんの話は、俺にとっては耳が腫れるぐらいの衝撃ではあった。

だがしかし、その程度の内容であれば、むしろこれまでの俺の体験と辻褄があってしまうから、理屈としては揃っていく感覚であった。

ただ、これでいいのか。


俺は少し風変わりな人間、もしかしたら特別な力を持っているかもしれない人間。

その認知を抱いたまま、この先何が起こるかも分からない現実に身を投じていく。

その闇の中に、希望はあるのか。

平穏な日常は、戻ってくるのだろうか。

それが最も、重要なことであるのに。

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