第5話
そうか、思い出した。
私は姉さんが大好きだった、でも大好きな反面嫌いでもあったんだ。
身体が弱かった姉さん。普通の人より何倍も努力する姉さん。笑顔が綺麗だった姉さん。
いろんな姉さんを知っている。
その中で私は姉さんにイラつく事もよくあったんだ。
姉さんは自殺したんじゃない。
・・・姉さんは・・・。
私が・・・殺したんだ・・・。
今年最後の大会。
幸成を先頭に我が部はそれなりの所まで勝ち進んでいた。
授業や部活をサボってばかりいた雅治はあれから積極的に参加するようになった。
幸成には「空のおかげだよ。ありがとう」と言われたが私は何もしていない。結局姉さんが雅治を変えてまた元に戻しただけだ。
種目も残り僅かとなっていた。
私は、先輩、同期、後輩にタオルやらドリンクやらを渡したり相手の学校のデータ収集に追われていた。
昼休み。
「空、お疲れ様」
頭を抱えデータ収集をしていた私の額に冷たい物が当たった。
「なにこれ?」
「水。走りっぱなしで全然水分取ってなさそうだったから。脱水で倒れたら困るし」
差し出された水を受け取り口に含んだ。
「ありがとう」
「いえいえ」
「雅治のデータも取れたよ。春の大会の時よりタイム早くなってた。凄いよ」
「ありがとう。まあでも、サボってたつけが来たかな」
そう言って雅治は笑った。それに合わせて私も笑った。
姉さんが死んでから私も雅治も笑い方を忘れてしまっていた。でも、最近の雅治はやっと笑い方を思い出したのだろうというように笑うようになった。
「てかさ、空」
「なに?」
「笑い方ぎこちない」
「雅治に言われたくないよ」
「俺は大丈夫だよ」
何がどう大丈夫なのだろうかと疑問に思ったが私はその言葉を飲み込んだ。
「ねえ、雅治」
「ん?」
「私、今から最低な事言うよ。それで私の事嫌いになったり殴ろうとしても構わない。ただ最後まで聞いてて」
姉さんが死んでから私は雅治の前で姉さんの話をあまりしないようにしてきた。
後悔と絶望で押しつぶされそうな雅治を見るのが凄く怖かった。
だから言えなかった。
でも・・・今は、今だからこそ言わなくてはいけないと思った。
「姉さんが死ぬ何日か前姉さんおかしかったんだ。食事も食べないし大好きなはずの読書も全然しなくなってとにかくおかしかった。気づいていたのに私姉さんの事大好きなはずなのに私姉さんに言ったの。これ以上迷惑だからやめてって。そしたら力無く笑ってごめんねって言ってその何日か後死んだ。迷惑なんて思ってなかった。でも、なんでか分からないけど気づいたら姉さんにそう言ってた。姉さんは確かに自殺した。でも最終的に自殺まで追い込んだのは私かも知れない。ずっと雅治に言わないとと思ってた。でも、怖かった。怖くて言えなかった。姉さんは自殺したんじゃない。姉さんは・・・私が・・・私が殺したの!」
私の目からは大きな涙がとめどなく流れていた。
ああ、そうか。私も雅治と同じだ。
もう戻せないという後悔。過去は変えれないという絶望。
そうか。雅治もこの感情を背負っていたのか。
私は一体雅治の何を見てきたのだろう。
「空」
重い空気の中雅治は口を開いた。
ふざけるなと殴られるだろうか。もう二度と話しかけてくるなと罵倒されるだろうか。
覚悟はできていた。
でも。
雅治の反応は違っていた。
「空が泣いてるの初めてみたよ。海の葬式でも泣いてなかったから空には感情が無いのかと思ってた」
笑って私の頭を撫でながらそう言った。
「怒らないの?どうして笑っていられるの!?」
「空が悪いわけではないよ。それに空を責めても海が生き返るわけでも喜ぶわけでもないと思うからさ。だから空、そんな自分を責めなくていいんだよ」
私の目からまた涙が溢れ出た。雅治は私の涙を拭いなだら「また泣いてる」と言って笑っていた。
昼休みが終わり今年最後の陸上の大会は三位という結果で終わり来年こそは一位を目指して頑張ろうとなった。