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ピエロ  作者: 藤江 氷花
3/6

第3話


 成川海は身体が生まれつき弱かった。

 一卵性の双子として産まれてきて顔も声も仕草もほとんど一緒でお互い以外が見分けるのが難しいほど私達は似ていた。

 似ていたが私は滅多に病気にかかることもなく健康だったが姉の海は走れば喘息発作を起こし話す事でさえ辛そうですぐに病気にかかり入退院を繰り返していた。

 それでもなんとか高校に入る事が出来た。

 海は何か部活に入りたいとずっと言っていた。私はずっと反対していたが、そんな時雅治と出会った。

 雅治は実の親でも見間違える私達を難なく見分けてくれた。

 そして、こう、言ってくれた。

 「海は海。空は空。互いが違うから俺は見間違えない」

 その時からだろう。私と海の中である感情が芽生えたのは。

 それから間もなくだった。

 海と雅治が付き合う事になったのは。そして雅治が入った陸上部でマネージャーをしようと言ってきたのは。


 走らない。叫ばない。体調が悪くなったらすぐに言う。


 固く約束をして私達は陸上部のマネージャーになった。

 仕事はたくさんあるし、すぐに無理をしようとする海を見ながらのマネージャー業は大変だった。

 でも、雅治が海を支え、海が雅治を支えていたためそんな二人を見るのが私の幸せでもあった。

 本当に幸せだった。この幸せが永遠に続きますようにと願った。


 ・・・でも・・・無理だった。


 放課後。

 下校する人もいれば部活に行く人もいる頃。

 海は屋上から飛び降りた。

 即死だった。


 理由もなにもわからないまま姉は死んでしまった。

 雅治と私はしばらく唖然とし現実を受け入れる事が出来なかったが海は死んだ、その現実だけが残っていた。

 身体が弱くても必死になっていた姉。大好きだった笑顔はもう見ることは出来ない。

 どうして、死んでしまったのだろう。どうして、相談してくれなかったのだろう。どうして、私を独りにして居なくなってしまったのだろう。


 どうして?


 その疑問だけがただただ残った。

 海が自殺してから雅治は変わり授業や部活に行かなくなった。そして海の代わりに私に優しくするようになった。


 私は海ではないよ。


 そう言う事は簡単だった。

でも、それを言うと彼をもう一度壊してしまうような気がして私はあえて空ではなく海を演じる事にした。

 それがお互いの為だと思いながら。


 八月。暑い夏。

 今日は海の命日だ。

 私は花と線香と姉さんが好きだったシュークリームを持ってお墓に向かった。

 父は単身赴任で今は家にいない。母は姉さんが死んでから口数も減り外に出る事もほとんどなくなり家に引きこもるようになった。お墓に一緒に行こうと声をかけてはみたが、何も言わずに首を横に振っていた。

 お墓に着くと一足先にお墓を磨く人がいた。

 「早いね、雅治」

 「早く会いに来たくてな」

 まだ雅治は姉さんを忘れていない。ずっと姉さんを思い続けている。

 「綺麗に磨いてくれてありがとう」

 「俺にはこれぐらいしかしてあげる事が出来ないからな」


 そんな事ないよ。雅治がいたから姉さんは幸せそうに笑っていた。雅治が姉さんを支えていたんだよ。


 私はその言葉を言わずに飲み込んだ。

 石を磨き終えて線香をつけてシュークリームを供えて二人で手を合わせた。


 姉さん。今年も桜は綺麗に咲いたよ。陸上部のみんなも元気だよ。幸成は相変わらずだよ。父さんには会えてないからわからない。母さんは外に出るのが嫌みたい。雅治の事見守ってあげててね。また来年も来るからね。

 

 私は手を合わせながら心の中で話かけた。ちらっと横を見ると雅治も目を瞑りなにか話しかけていた。

 何を話していたのだろうか。


 お墓参りも終わり私と雅治は喫茶店に行った。

 部活帰りよく三人で来た喫茶店。なんだかんだで来るのは久しぶりな気がした。

 姉さんが死んでから初めて来るかも知れない。

 「よく三人で来たよな」

 「そだね」

 「懐かしいな」

 「いちゃいちゃ見せつけられてた」

 「俺そんないちゃいちゃしてないと思うんだけど・・・・」

 「冗談だよ」

 雅治はコーヒー、私は紅茶を頼んだ。


 「なあ」


 「ん?」

 それは唐突だった。

 「俺が海を殺したのかも知れない」

 頼んだコーヒーと紅茶が運ばれてきて私達の前に置かれた。

 私は紅茶を一口飲んだ。

 「なんで?」

 「俺、部活なるので精一杯で海の話まともに聞いてやらなかったし体調すぐ崩すの知ってたのに全然支えてやれなかった」


 ああ。そうか。

 私が思う以上に彼は苦しんでいたんだ。

 「そんな事ないよ。雅治が姉さんを大切にしてたのはみんな知ってるし姉さんだってそんな事気にしないよ。わからないけど死ぬほど苦しかったんだと思う。まあ、その理由がわからないんだけどね。肝心な」

 私は今にも泣きそうな雅治の口角をあげて、笑って言った。

 「笑いなよ、雅治の笑顔大好きって姉さん言ってたよ」

 

 ―雅治は笑っているほうがいいよ。雅治の笑顔大好きだよ。


 重なる。


 雅治は私の手を掴んでありがとうと呟き笑いながらコーヒーを飲んだ。


 暑い暑い夏の日の事だった。

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