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ジーヤンニアス  作者: 茅野榛人
第一章
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第一話『殺人ハッカー 前編』

 今日、私の願いが叶った。

 決して私が手を下したわけではない。強いて言えば、私がこの展開になるように導いた。しかし私の計画は、決して確実なものではなく、決してこの展開になるとも限らない方法だったのである。なのに私は、数年続けていた。禍々しい事をしている事は分かっていた。でも、これをやらないと落ち着かなかったし、何より不安だった。今日見た夢にもあいつは現れた。引き下がる勇気はなかった。しかし今日、あいつは死んだ。これでもう……。


 俺の名前は、二里敢太ふたりかんた。職業は驚くなかれ、警察官だ。警視庁刑事部捜査一課の刑事をしている。

 つい数日前に配属されたばかりなのだが、巨大な事件が起きない為、俺の天才的な頭脳は、未だに発揮されていない。そろそろ、頭を動かしたい所である。

 そして今俺が住んでいる場所は、家賃が格安なアパートの一〇二号室である。これからもっと俺が活躍すれば、ここよりもっと良いマンションにでも引っ越そうと考えている。俺の住んでいるこの一〇二号室は、心霊現象が多発する。ノートパソコンが勝手に閉じたり、電気が勝手に消えたり、そして、誰もいないのにインターホンが鳴ったり、玄関扉が叩かれたりする。この部屋には、確実に何者かが存在している。普通なら呪われたりするのが怖くて直ぐにでも引っ越す所だと思うが、俺は兎にも角にも、様々な人達とフレンドリーに接する事だけは非常に得意な為、この心霊現象が起きまくる部屋に住み続けている。ここにいる幽霊とは、いつか友達になりたいと思っている。


「起きろ! おい! 何時まで寝ている! 早く起きろ!」

「うるせえ誰だよもう……夢の中で起こすなよな全く……」

「夢じゃない! 現実だ!」

「そんな訳ねえだろ……」

 現実だったら幻聴だとでも言うつもりなのか。この部屋には、俺と幽霊しかいないんだ。と思っても、つい気になってしまい、開きづらい瞼を無理矢理こじ開けてみる。どうせ誰もいないのに。

 そこには、中年の男の顔があった。

「ああああ! 誰だ! 誰だよお前! ふ、不法侵入だぞ!」

 慌てて逃げようと布団から飛び出し、玄関扉を開けようとするが、何故か開かない。

「あ、開けてくれ! 誰か! 助けて!」

「開かないし聞こえないぞ! 無駄だ!」

「何なんだよお前! か、勝手に入って来て……ん?」

 その男は、スーツを着ているのだが、何故か身体が半透明になっているように見える。まだ寝ぼけているのであろうか。いや、もしかしたら。

「まさか……お前! ここの幽霊?」

「……ああそうだ。ここに十二年前から棲みついている幽霊だ」

 マジか……。

「……めっちゃ年上!」

「おい、何だその反応は」

「いや俺はてっきり、俺と同じ位の年の幽霊じゃないかって思ってたから」

「どうして決めつけてたんだ! 一回も姿を見た事がないくせに。そうやって勝手に決めつけていると、誤認逮捕してしまうぞ」

「は? そんな事するかよ。大体、どうして急に現れたんだよ!」

「もう、耐えられなくなったからだ」

「え?」

「来い。ここに立て」

 そう言って床の上を指さした。一体そこに俺を立たせて、何をするつもりなのであろうか。非常に怖い。

「え……な……何する気だよ怖えって」

「良いからここに立ちなさい!」

「分かった……でもあれだぞ? し……死ぬのだけは嫌だからな!」

「私は殺さない。殺すはずがない」

 ゆっくりと、幽霊が指さした位置に向かい、直立不動になった。

「これで良いか? 本当に何する気なんだよ! 大体お前何者う!」

 突然、幽霊が俺の背中に体当たりして来た。背中が痛い。

「痛て! お前……ふざけ! んな? え……ええええ?」

 掴みかかろうと後ろを振り向くと、なんとそこには、俺がいた。状況が理解出来ない。どうして俺の目の前に俺が……俺がいるんだ? 何が起こった?

「……良し……成功だ」

 俺が喋った。まさか。

「お前……俺の身体乗っ取ったのか!」

「そうだ! その通りだ。うーわ久し振りだな……やっぱり人間の身体でいる方が、気分が良いわ。寒くないし」

 幽霊に乗っ取られた俺が動き、トースターを動かし始めた。

「おいおいおい! 何やってんだよ!」

「何って決まってんだろトースターを余熱してるんだよ」

「いや分かってるよ! なんで急にトースター余熱してんだよ!」

「朝食を用意する為だ! 少しは想像しろ! お前刑事だろ? お前がここに越して来た時から見ていたから知っているぞ」

「……」

 あの中年男性に、ここでの生活を見られ続けていたのかと思い、暫く絶句していた。


「美味い……何年振りの食事だ……私とした事が……普通のトーストで……涙を流しそうになってしまった……」

「おい、聞いてんのか。何で俺の分焼いてくんねえんだよ」

「何を言っている。お前には今身体がないじゃないか」

「え……あ……ああ……」

 自分の身体をよく見ると、あの幽霊と同じスーツを着ていて、半透明になっていた。まさかあの体当たりで、俺の身体の中にあいつが入り、行き場を失った俺が、身体から追い出されてしまい、不必要になったスーツがついてきたと言う事か。確かに少し寒い気がする。

「気付くのが遅い」

「ああああ! ちょっと! おい、俺このままなのか! おい!」

「焦るな、きちんと元には戻せるからそんな叫ぶな。食事中だぞ」

「なら今戻せ。ずっと見て来たなら分かるだろ? この後俺は、警視庁に行かないといけないんだ!」

「警視庁には、このまま行く」

「何を言っている、素人が刑事のふりなんて、出来るわけねえよ! あ! まさかお前マニアか? 生前は刑事ドラマとか警察小説が大好きだったんじゃないのか?」

「マニアじゃない……本職だ」

「え……本職って……え? まさか生前、警察官だったの?」

「ああ、捜査一課の刑事をしていた。お前と全く同じ職業だ」

 マジか、全く予想していなかった。

「でも返せ。俺の研ぎ澄まされた頭を使わないと、解けない事件が起きるかもしれないんだ!」

「私の名前は半場今太はんばこんた、聞いた事はないか?」

「え……」

 半場今太……教育係の先輩から聞いた事がある名前だ。

 確か、先輩の元相棒で、捜査一課の中でも類稀なる天才だったって……そんな馬鹿な!

「あの天才刑事、半場警部補!」

「知っていたようだな。と言う事は、東海林近司しょうじきんじも知っているな?」

「え……いや知っているも何も、東海林警部補は俺の教育係の先輩だ……先輩っすよ!」

「そうか……あいつまだ刑事やってるんだ……安心した。あいつはな、若い頃、事件一つ一つに丁寧に向き合って、こいつはやるぞと思って、徹底的に扱き倒した。でも、俺は途中退場してしまった」

 先輩の話だと、確か半場警部補は、十二年前、自宅に押し入った一人の強盗に、刃物で背中を刺されて亡くなり、犯人は捕まらず未解決になったと言っていた。そしてこの話の最後にはいつも……。

「半場警部補が強盗如きに殺されるはずがない」

 と言っていた。

「この部屋だったんすね……一人の強盗が押し入って……半場警部補が亡くなったのは……」

「……ああ、情けない話だ。刑事である私が、強盗を取り逃がした挙げ句、殺されるなんて。もう俺を尊敬してる刑事なんて、あいつ位しかいないだろ?」

「……ええ……残念ながら……あ……顔! 犯人の顔見てないっすか?」

「覆面をかぶっていて、脱がそうとしたんだが、その前に刺されてしまった。背中をね。あ、触ってみると良い。お前の着ているスーツに残ってるから」

 そう言われて俺は背中を触ってみた。確かに穴があいていた。

「ここを刺されたんですね……じゃあ何か他に……犯人に関する特徴とか……」

「あ!」

「ああ! 何ですか急に! びっくりしましたよ……あ! もしかして何か覚えてるんすか! でしたら教えて下さい! 十二年と言う時を経て届けられるメッセージ……俺が受け取りますいや、受け取らせて下さい!」

「そろそろ出ないと。すっかりトーストに夢中になってしまっていた」

「え?」

 時計を見ると、確かにもう出発しなければならない時間になっていた。紛らわしい驚き方を……。

「ちょっとあの……本当に俺の身体使って行くんすか?」

「ああ、もう決めた事だ。今日からお前が更生するまで、刑事は私がやる」

「……え?」

 何を言っている。てっきり俺は、半場警部補が先輩に一目会う為に、俺の身体を借りただけだと思っていたのに。

「言ってなかったな。私がこうしてお前の身体を乗っ取ったのはな、お前が、刑事に似つかわしくない人間だからだ」

「……はい?」

「帰宅すればそこにある開閉する板……何だっけえっと……」

「パソコン?」

「あ思い出したパソコンだそうだ」

 いや絶対思い出せてなかったと思う。

「そのパソコンとやらにずーっとしがみついて、素行の悪い奴らと、下らない話で盛り上がっている。そしてとうとう昨日は、事件を依頼しようとまでしていた。もう耐えられないね。これでも私は、お前をさりげなく更生させようとしていたんだぞ。なのにお前は、それらをことごとく無視した」

「……そう言う事か」

 ノートパソコンが閉じたのは、もう見るのをやめろ。部屋の電気が消えたのは、もう寝ろ。きっとこのような意味があったのだろう。しかしいくら俺がそれらを無視したからと言って、玄関扉を叩いたり、インターホンを鳴らすのは少々乱暴な気がする。

「これ以上、お前に好き勝手はさせない。良いか? お前は捜査一課の刑事だ。人の命や、人生を扱っているんだ。そのような人間が、天才だと思われたいただそれだけの為に、連続殺人を依頼するなんて……馬鹿野郎! そんな事は刑事云々ではなく、絶対にやってはいけない事なんだ! お前の言葉や行動一つで、多くのものが失われる可能性があるんだ! 命も、人生も、そして信頼も……」

 うるせえ……天才刑事だからって良い気になりやがって……プライベートを覗き見した挙げ句説教かよ……あの会話は全部冗談なのに……何本気にしちゃってんだよ……まあ? 連続殺人の依頼は……半分冗談半分本気だったけどね? それにしても……案外こいつもかなりの承認欲求の塊だったりして……沢山手柄上げて……さぞや気持ちの良い毎日を送ってたんだろうねえ……。

「おい聞いてんのか! 二里敢太!」

「あ? え? いや今は貴方じゃないっすか二里敢太」

「中身は違う!」

「えっと……時間本当にやばいっすよ? 良いんすか?」

「あ……は、話はここに帰って来てからゆっくりとするからな! 行って来る」

「あ、ちょ、ちょっと待って下さい! もう……本当に天才刑事なのかよ! おい!」

 本当に俺の身体を乗っ取ったまま行ってしまった。

 更生するまではあいつが刑事をやるって言ってたが、一体何を更生すれば良いんだ? これまでに俺は、一度もプライベートでしくじってはいないんだ。ただ単に友人と、やや過激な話を繰り広げていただけなんだ。あいつはきっと、実害のない事に口煩く指摘して、刑事人生を取り戻す為に俺の身体を乗っ取って、欲望を満たしたいだけなんだ。どうしてもっと早く気が付かなかったんだ! 気が付いていれば俺は……俺は……。


 久々に人間の身体に戻った、いや厳密に言えば他人の身体を借りて戻った。

 実に気分が良い。胸に手を当てると、心臓がきちんと動いている。

「おはよう! ……ございます!」

 つい当時していた挨拶をしてしまった。やはりまだきちんと自覚が出来ていない。

 あくまでも私は、彼を捜査一課の刑事に恥じない人間にする為に、このような事をしているのであって、決して彼の人生を奪いたいわけではない。その為自分が本当は半場である事は、絶対にバレてはならないのである。

「おう二里。おはよう」

 東海林だ。それとなく容姿は変わっているが、一目で分かった。もどかしい。感動の再会をしているのにもかかわらず、自分が半場だと言う事を言えない。もどかしい。

「東海林……先輩! おはようございます!」

「なんだよ今日はいつになく緊張してるじゃねえか」

「い、いえ! そんな事は」

「それで良い。丁度今日言おうとしてたんだよ、緊張感が足りな過ぎるってな」

「そう、でしたか。私も、いや俺も! 最近思っていた所です。慣れ過ぎていると!」

「ははは、そうか。でもだからと言ってガチガチにはなるな。程よくだぞ?」

「はい!」

 東海林、偉くなったじゃないか。

「二里さん!」

「わ! あ、失礼しました! はい!」

 突然後ろから話しかけて来たのは、同じ係の女性刑事だった。そう言えば二里は、女性刑事の一人とかなり仲が良いと言っていた。確か名前は、優田陽花梨まさだひかり

「何だか今日は随分と頼もしそう!」

「え、そ、そう、ですか?」

「ですかって! 言葉遣いまで違う! いつも、そうっすか? そうっすよねえ……みたいに言ってたのに! 何?」

「いや何と言われましてもその……」

「まあ良いわ、大人になったじゃない! って言ったら今まで子供扱いしてたみたいに聞こえちゃうか! ごめんね!」

「いえいえ!」

 随分と明るい人だ。あ、この人に聞く事にしよう。私がずっと気になっていたあの事を。しかし、知ったかぶりをしながらでなければならない。

「そういえば、あれは衝撃的でしたね。殺人事件だってなったのに直ぐに自殺だと断定された」

「あーあれ? 森の中で血まみれの男性が発見されたあれ?」

「そうです!」

「本当よ! だってせっかく私達が臨場したのによ? 鑑識が、風で遠くに飛ばされた遺書を発見したものだから、臨場損したんだよ。もっと早く鑑識が見つけてればなあ」

「そうですねえ。でも、良く見つけましたよねえ」

「本当よ! あの鑑識の氷沢ひさわさん! こう言う重要なものだけはバッチリ押さえるんだから。って言ったら失礼だね!」

 氷沢さん、良し。


「失礼します」

「ん? 君は確か……」

「捜査一課の二里です」

「あーそうだ。え? 鑑識に何か用?」

「あのー氷沢さんは?」

「氷沢は、僕だけど?」

「すみませんちょっと聞きたい事がありまして」

「聞きたい事? 何」

「あのこの前あった森の中で男性が自殺した事で少し」

「森の中で男性が自殺……ってもしかしてあれ? 一回一課の方々に来てもらっちゃったやつだっけ?」

「ええそうです! 氷沢さんがご活躍した」

「ご活躍って、僕は大した事してないって」

「またまた!」

「聞きたい事って?」

「ああえっと……」


 ドンドンドン。

「おい開けろ」

 やっと帰って来た。身体冷たいわ心臓の鼓動しないわで、本当に気分が悪かった。

 しかしこれは意外と楽しい。今の身体の状態だと、頭でイメージするだけで物や扉を操る事が出来る。今日の朝、扉が開かなかったのは恐らくこれを利用したのだろう。と言う事は防音にする事も……。

「ただいま」

「おかえりなさい。最悪な気分を堪能させてもらいました」

「その最悪の気分を私は十二年味わい続けていたんだ。忍耐力をつけるためだと思って受け入れろ」

「身体を返してはくれませんか?」

「お前が更生したら返してやる」

「もう更生しました」

「そうか?」

「そうっす! 更生したっす!」

「してねえなあ! そうっすって言ったな? まずその言葉遣いを改めなさい!」

 言葉遣い? そうっすみたいな言葉を言ってはいけないのか? なら……。

「分かりました! ならもう一度、正しい言葉で言います! おっしゃられている通りっす! 更生したっす!」

「してない! もう今日は返さん!」

「……あのすみません本当に返してもらって良いっすか? やっぱり、俺じゃないと解けない事件って、あると思うんすよ? 半場警部補も、天才刑事だったらしいっすけれども、その天才刑事でさえも解けない事件が、あるんじゃないかなあと、俺思うんすよ!」

「とある森の中で、一人の男が死んだ。男の名は掌野謙悟しょうのけんご、年齢28歳、無職。ナイフで頸動脈を切断され、出血多量で死亡した。現場から……」

 突然話が始まった……それにこの話何処かで……ってこれあの自殺した男の話じゃないか! どうしてこの話を?

「現場から遺書が発見されなかった点、夏なのに何故か手袋をはめていた点、近くに落ちていたナイフから、掌野本人の指紋さえも一切検出されなかった点を鑑み、捜査一課は当初、他殺の線で捜査を進めようとしていた。ところが鑑識の氷沢さんが、現場からそこそこ離れた茂みの中に、遺書らしきものがあるのを発見。それはA4サイズの真っ白なコピー用紙で、文章がプリントアウトされていた。内容は、今の生活にはもう疲れた、だから死んで楽になると言った内容で、一番下に掌野の名前があった。遺書が発見された事により、残った謎をそのまま置いてけぼりにしたまま、自殺と言う結論になった。謎が残っているのが気持ち悪かった私はまず、自殺の動機となった、今の生活と言うのが、一体どのような生活なのかを確かめるべく、掌野の自宅アパートに向かった」

 はい? まさかこいつ……自殺だとは思ってねえのか?

「ちょっとすみません! あの……もしかして……掌野さんは……自殺ではないと?」

「思わぬ収穫があった。掌野は、ある二人の人間を強請り、金を脅し取っていた。ネタも見つかった。二人とも……」

 ちょっと待って……どうして男の自宅に脅迫のネタがある事を知ってる……。

「ちょっとあの! すみません! ちょっと待って下さい!」

「なんだ!」

「警部補はどうして……男の自宅の事を?」

「今日、行って来た」

「はい? え……忍び込んだんすか?」

「馬鹿野郎! 不法侵入なんてするわけないじゃないか! きちんと管理人に話を通して入れてもらった!」

「話って……事件って決まったわけじゃ……」

「話を続ける」

 やっぱりこの男……天才刑事なんかじゃないぞ……。

「二人とも不倫の瞬間を撮られていて、バラされたくなければ、誰にも言わずに金を出し続けろと言って、多額の金を脅し取られていたらしい」

 さり気なくその二人の人間とやらにも会ってるし……。

「終わりだ」

「……え? あ! お……終わりっすか!?」

「ああ終わりだ。もし私が、お前の身体を乗っ取らずに、掌野を自殺で処理していたら、真相は永遠に分からなかったかもしれない。確かに掌野は善人ではない。だが掌野を殺めた人物が不明な以上、私は決して止まるつもりはない。偽物の真相を用意して、勝ち誇った気持ちでいる犯罪者を、私は絶対に許さない」

「……」

 俺は、何も言い返せなかった。言い返したい気持ちがあるのに、何も出て来ない。やり場のないもどかしさだけが、俺の中にあった。


 何て明るい外なのだろう。何も不安に思わなくて良い、何も怯える必要のない日常。私は思わず、目を瞑りながら、太陽の温かさを感じつつ歩いていた。思わず人と肩がぶつかってしまった。

「すみません大丈夫ですか! お怪我はありませんか?」

 その人は、警察手帳を握った男性だった。

 私は無意識に走っていた。

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