前世の恋は、終わりを迎えたはずだった。
最終話です!
あれから、早いもので5年の月日が流れた。
ハロルドの婚約者として過ごす日々は、毎日が忙しく、充実していて楽しかった。
変わったこと、変わらないもの。
色々あるけれど、何よりハロルドと過ごせていることがこれ以上ない幸せで満ちている。
その後のことを簡単にまとめると、ハロルドと私の身に起きた事件は公にせず、王族とごく少数の貴族のみで留められた。
ただ、公爵の罪は王家殺害未遂罪だけでなく、上げるとキリがないほど出てきたため、一年間に渡る協議の末、公爵位を正式にレスター様に譲渡、元公爵となった叔父は余生を辺境の地で過ごすという名目で、鉱山での労働を命じられた。
こうしている今も鉱山で真面目に働いていることを祈るのみだ。
そして、公爵位を授かったレスター様は、公爵としてウォール公爵領を治め、多額の借金を全て返済、今では黒字までに回復している。
その上で、父親の罪を生涯をかけて償うと、王家に絶対の忠誠を誓った。
さすが私の見込んだ方ね。
キャロル・クレイン様は、現在隣国の公爵令息の元へ嫁ぐために準備を進めているらしい。
彼女曰く、『ハロルドより良い男』なのだそう。そんな男性がいるのかしら、と首を傾げたらハロルドが赤くなって狼狽えていた……本当に可愛い。
そして、残る彼女だけど。
「クレア様、お支度が整いました」
その言葉に、私は笑って答える。
「ありがとう、バーバラ」
「よくお似合いです」
そう言って侍女服に身を包んだ彼女は、今ではすっかり大人の女性へと変貌を遂げ、にこやかに笑みを浮かべた。
三年間厳しい修道院生活に耐え、帰ってきた彼女に労いの言葉と共にスカウトしたのだ。
『私の侍女になりなさい』と。
私の侍女になれば、彼女に十分なお給金を払ってあげられる。且つ、私の身のこなしを見たら勉強になるわよ、とも付け足したところ、二つ返事で承諾したのだ。
『クレア様は私の恩人であり、憧れの方です』
そう口にした彼女もまた素直で可愛らしかった。
「そういえば貴女、いつまで侍女服でいるつもり?」
「え?」
「貴女にもドレス、用意しているわよ。
ほら、今日はレスター様もご招待しているのだから、早く着替えていらっしゃい」
「!?」
その名前を口にすれば、分かりやすく狼狽える彼女にクスクスと笑う。
(レスター様とバーバラ様。年は八歳ほど離れているけれど……、お似合いでしょう)
『バーバラ嬢、私の父が貴女に申し訳ないことをした。
謝って済むことではないと分かっている。
これからは、私にも貴女を出来る限り支援させてもらいたい。他にも何か要望があったら遠慮なく言って欲しい』
『あっ……は、はいっ』
私の侍女になったと聞いたレスター様がわざわざ我が家を訪ね、そう言葉をかけると、バーバラは真っ赤になって狼狽えたのだ。
どちらもウォール元公爵の被害者だもの、身分の差もあるし恋が成就するかは彼ら次第だけど、どちらも幸せになって欲しいわ。
そんなことを考えながら、机の上に置かれていた物を手に取り眺めていると。
「クレア」
「!」
不意に後ろから声をかけられ、驚いて立ち上がる。
「び、びっくりした。驚かさないで、ハロルド」
「何度も外から呼びかけたけど、返事がなかったから心配になって勝手に入ってしまったよ。
……それ、持ってきていたんだね?」
「えぇ、もちろん。だって、貴方が私にくれたものだから」
そう言って、優しい音色を奏で、それに合わせて踊っている二人の人形のオルゴールに目を向ける。
5年前の私の誕生日、ハロルドと私は二人であのお店を訪れた。
店主から買ったオルゴールを、ハロルドから手渡してもらって。
前世を思い出して嬉しくてまた泣いてしまった。
「今日は店主もご招待しているのよね?」
「うん。喜んでいたから、来てくれているはずだよ」
「……あの方は、まるで全て悟っているようだものね」
「そうだね。だからこそ、見守ってもらいたいと思うよ」
彼の言葉に私は頷く。そして、笑みを浮かべて口にした。
「えぇ。今日が私達の……、前世からの恋が、本当の意味で成就する日だものね」
そう、外ではブルーベルが満開に咲いている今日は、私達の節目となる結婚式の日。
白いウェディングドレスに身を包んだ私と、王家の正装服である白い衣装に身を包んだ彼。
……そして、毎度お馴染み私と視線が一向に合わない彼に、思わず笑ってしまいながら口を開く。
「ハロルド。いつも貴方は格好良いけれど、今日は一段と素敵ね。とっても格好良いわ」
「!?」
私から褒めれば、分かりやすく顔を赤らめ狼狽える彼に、クスクスと笑ってしまうと。
「……君こそ」
「!?」
そう言うや否や、彼の唇が私の唇を掠め取る。
「今日の君も本当に可愛い。今度こそ、君は僕のものになるんだよね?」
「っ!?」
「あ、赤くなった」
予想していた反応とは違う大胆な変化球に、頭がクラクラしてしまう。
そんな私の前で、彼は不意に跪いた。
そして。
「ハロルド・カーヴェル。
本日よりクレア・カーヴェルの夫となります。
至らぬ点等ございましたら、遠慮なくお申し付けください。
王太子妃殿下の剣となり盾となり、永遠の忠誠を誓います」
「っ、もう、何度も言うようだけれど、貴方は騎士じゃないって言ってるでしょ……っ」
そう言いながらも、目から涙が止まってくれない。
せっかくのお化粧が崩れてしまうと慌てて拭うけれど、ハロルドは私の片方の手を掴んだまま話してくれない。
「全ては、前世の君が王女で、僕が騎士として出会った時から始まった。
だから、どうか君も僕に永遠の忠誠を」
「!」
永遠の忠誠。
確かに前世、彼から私に誓ってもらったけれど、私からは返していないことに気が付く。
「……そうね。私も誠意を持って返すべきね」
そう結論づけると、彼に向かって前世越しの私からの永遠の忠誠を誓う。
「我が名はクレア・カーヴェル。
本日よりカーヴェル王国の王太子妃、そして、ハロルド・カーヴェルの妻となります。
……愛する夫に守られてばかりの妻ではなく、肩を並べ、胸を張って隣に立てる妻となることをここに誓います。
ハロルド、これからも命尽きるまで末永くよろしくお願いね」
「っ……!!」
「あ、貴方まで泣くの!?」
「だって……っ」
私達はお互いの涙を拭って笑い合う。
「ハロルド、私幸せよ」
そう言葉を紡ぐと、彼も笑って答えた。
「うん、クレア。僕もだよ」
終わりを迎えたはずだった、前世の恋。
そうしてもう一度、巡り会えた私達。
今度こそ死が二人を分つまで、共に笑い、共に悲しみ、共に喜び、共に生きよう。
貴方と二人なら、どんな困難だって乗り越えてみせるわ。
『前世の恋は、終わりを迎えたはずだった。』END
これにて、物語は終了です!いかがでしたでしょうか?
この物語は私の大好きな前世のやり直し、そして、前世報われなかった身分違いの恋を取り入れさせていただきました。
クレアは罪悪感に駆られながらも元王女として、ハロルドは子犬系一途男子でクレアを崇拝傾向にあった騎士として描きました。
また、二人で前世と似た境遇に打ち勝つ!ということで、書き終えてからざまぁタグが必要…?かと迷いましたが、作者の自己判断により、今のところざまぁタグを付ける予定はなしでいこうと思っております。
そして、クレアが前世の記憶を次々と思い出すシーンが多くあり、どれも記憶が断片的で時間軸が分かりづらいと思いますので、もし時系列が知りたい!と思ってくださる方がいらっしゃいましたら、お手数ですが活動報告(https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/1528460/blogkey/3187126/)に掲載させていただきましたので、お読みいただけたら幸いです。
最後になりましたが、ブクマ登録や評価、いいね等下さった皆様、お読みいただいた皆様、本当にありがとうございました!
毎日更新を続けることが出来たのも皆様の応援のおかげです!
また作者の別作品をどこかでお読みいただけたら、大変光栄です。
2023.8.11.




