それぞれの処遇
「これより、処遇を言い渡す」
その威厳ある国王陛下の言葉に、その場の緊張がより一層高まる。
「まずは、キャロル・クレイン嬢」
「はい」
「そなたは調べにおいて無罪であることが証明された。
そして、王太子自らの進言により、そなたの働きがあったからこそ、王太子、ハロルド・カーヴェルの命は救われた。礼を申す」
「もったいなきお言葉でございます」
こういう時も、キャロル様の所作は洗練されている。
その上、彼女は好きな人……ハロルドのために尽力した、影の立役者だ。
「よってキャロル・クレイン嬢は無罪とし、金貨百枚の褒美を授ける」
「ありがとうございます」
正直、金貨百枚では足りないほどの働きを彼女はしてくれた。
私は彼女に、生涯敬意を持って接しようと思う。
「次に、レスター・ウォール」
「はい」
彼についての処遇は、大いに賛否が分かれたとハロルドから聞いている。
ウォール公爵側の人間だと主張するものと、ウォール公爵に反した善人であると主張するもの。
そうして出された彼の処遇は。
「そなたの働きもまた、ハロルド・カーヴェル、並びに婚約者であるクレア・オルコットの命を救った」
「え……」
初めてレスター様が驚いたように目を見開き、国王陛下を見る。
(初めて見たわ、レスター様の素の表情)
そう、私とハロルドと話し合った結果、レスター様は公爵の企みに気付き、身を挺して私達を守ろうとしてくださっていたのだ。
それこそ公爵にバレたら、彼の方こそ危ないのにも拘らず。
(私を夜会の際に助けただけでなく、自らの騎士を雇い私を密かに護衛してくれていた)
ハロルドが毒物を含んで寝たふりをしていた時。動けないハロルドの代わりに私を護衛してくれていたのは彼だったらしい。
そのおかげで、私がバーバラ様に攫われ、森の奥の小屋にいることも全て彼伝いでハロルドに知れたとか。
「よってレスター・ウォールを無罪とし、褒美にウォール公爵位と領土を授ける。
そなたの今後の働きを期待しているぞ」
「っ、もったいなき、お言葉です」
レスター様の声が震えているのは、きっと気のせいではない。
(大丈夫。貴方はもう自由なのだから)
そして。
「最後に、バーバラ・エイデン」
「はっ、はい……」
肩を大きく震わせ、俯く彼女。
そんな彼女に、言い渡される判決は。
「そなたは王族殺人未遂で有罪、本来であれば国外追放は免れない。
しかし、被害者であるクレア・オルコットの進言があり、そなたの判決を改める」
「え……」
彼女が私を見ているけれど、私はあえて知らぬふりをする。
そして。
「そなたはまだ15歳の未成年。家族のために働こうと、愚弟に騙され操られていたに過ぎない。
未来ある若者に背負わせる罪としては些か重罪と考え、情状を酌量する。
よって、そなたは三年に渡る修道院送りの後、身元をクレア・オルコットに引き渡す」
「そんな……っ、納得いきません!」
異議を唱えたのは、他でもないバーバラ様だった。
バーバラ様は涙を流して訴える。
「私はっ、私は決して許されないことをいたしました。分かっていた上で、お金に目が眩み、皆様を危ない目に遭わせました。
下手をしたら死んでいたというのに、私」
「お黙りなさい」
「!?」
静かにそう言葉を発したのは、他でもない私だった。
私は国王陛下に「失礼致します」と断りを入れてから、バーバラ様に向き直って言った。
「この判決は、厳正なる判断に基づいたもの。
それに異議を唱えるとは何事ですか」
「だって」
「だってではありません。国王陛下のお言葉ですよ。異議を申し立てるなどもっての外です。
……それでもまだ何か、不平不満があると言うのならば後で私の元へ来なさい。
納得するまで話し合いましょう」
「……ひっ」
……今の悲鳴は、聞こえなかったことにしてあげるわ。
バーバラ様を何とか黙らせた私は国王陛下にもう一度頭を下げると、国王陛下は少し笑って言う。
「さすがは未来の王妃となるハロルドの婚約者だ。これからも、末長くよろしく頼むぞ」
「……はい。ご期待に添えるよう、精進いたします」
こうして公爵以外の、それぞれの判決が言い渡されたのだった。
「クレア様!」
大広間を出る寸前、彼女は騎士達の横をすり抜けて私の元へ来る。
「駄目よ、騎士の元を離れては。貴女の罪は罪なのだから」
「わ、分かっております! ですが、私、そんな……情状酌量なんて」
「情状酌量と言っても、貴女が送られる修道院は凄く厳しいらしいわよ」
「えっ……」
顔を上げた彼女に笑みを浮かべて言う。
「それくらいの方が貴女のその態度も少しは改められるでしょう。
淑女に程遠い、まだ野生児といったところかしら。……だけど、貴女は家族思いの良い子なのね」
「え……」
「エイデン男爵領へ伺って、事情聴取をしたわ。貴女、家族に“優しい人が支援してくれている”と偽って、元公爵からもらったお金を一銭も使わず、そのままこっそり夫人に渡していたわね?」
「……っ」
「あぁ、男爵のことは気にしないで。ハロルドが良い人材を派遣してくれるらしいから、今までのように好き勝手にはさせないと思うわ。
……貴女がきちんと、罪を償っていればね」
彼女の瞳から涙がこぼれ落ちる。
それを拭うことはせず、代わりに肩を優しく叩いてから、踵を返した。
「ク、クレア様! 私、精進します! 必ず、このご恩はお返しいたしますから!」
「……お手並み拝見ね」
私は笑みを浮かべると、今度こそ歩き出す。
そして。
「クレア」
私に向かって手を差し伸べてくれたハロルドに、笑みを返してその手を取る。
そして、その隣にいた二人の人物……キャロル様とレスター様は肩をすくめて言った。
「何だか、全てが上手く行きすぎて全てこの二人の手の内感あるわよね」
「同意。しかも、私達がいなくてもこの二人無敵なんじゃない?
一体貴女達は何者? 恋人……というには息ぴったりすぎて怖いんだけど」
「「!」」
勘の鋭いレスター様にそう尋ねられた私達は、顔を見合わせて笑い合う。
(だって前世では王女と騎士で恋人同士だったらなんて言ったら、御伽話だと笑われてしまうでしょう?)
けれど、これは御伽話でも何でもなく本当のこと。
(私だって未だに信じられないし、それにこの事実は私達だけの秘密)
そう思いながら顔を見上げれば、こちらを見るハロルドと目が合って。
「クレア」
「何?」
彼は小さく笑うと私の手を取って言った。
「少し、付き合って欲しいところがあるんだけど。ついてきてくれる?」
その言葉に、私はすぐに頷いた。
「もちろん」




