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犯人と黒幕

「……っ」


 前世の最期の夢を見たせいか、それともこの状況のせいか。

 身体の彼方此方が軋む。


(最悪の目覚めだわ……)


「ご気分はいかがですか? クレア様」


 そうにっこりと嫌味のように笑みを浮かべられた私は、吐き捨てるように、それでも品を保って答える。


「おかげさまで最悪よ。どうしてこの私が縛られているのかしら?」

「言ったではありませんか。お話があるって」

「今更私と、こんな状況でお話しすることって何かしら?」


(話し合いをするには最悪の場所ね)


 湿っぽく薄暗い上に狭い屋内。高い位置に辛うじてある窓から見えるのは、鬱蒼とした木々。

 どうやらここは、どこかの森の中の小屋らしい。

 そんな中で、椅子に手足を縄で縛り付けられた状態の私と、仁王立ちしているバーバラ様は対峙していた。


「それで? 黒幕さんはどちらに?」

「今向かっているところらしいです。ですので少し、私とお話ししましょう?」

「こんな状況で貴女と何をお話しすることがあると? これは対等に話し合いをする姿勢ではないわね?」

「ご名答です、クレア様」


(本当、どこまでも神経を逆撫でしてくれるわ)


 我慢我慢、と自分に言い聞かせ、まずは彼女から情報を少しでも聞き出そうと尋ねる。


「それで? こんなことまでして私に対するご要望は一体?」

「ふふ、簡単なことです」


 彼女は可愛らしく笑うと、小首を傾げて言った。


「私に、王太子殿下をくださいな」

「……は?」

「あ、さすがのクレア様でも今のは本心ですね! そうなんです、私が欲しいのは王太子殿下……というよりも、王妃の立場が欲しいのです!」

「…………」


(呆れた)


 何を言っているのかしら、この人、と白けた目をする私に、彼女は勝手にぺらぺらとお話ししてくれる。


「だって憧れるではないですか? 王妃の立場。

 お金だって沢山使えるし、おしゃれなお洋服は沢山着られるし!

 お金さえあれば、幸せになれるではないですか!」


(あぁ、今のは本心ね)


「それに、クレア様は確かに完璧なお方ですけど、言ってしまえば今まで社交の場に出たことのない深窓のご令嬢気取りだったでしょう?

 そんなクレア様が選ばれたということは、私でも王妃になれるのではと思ったんです!

 だってクレア様、王妃にあまり興味ないでしょう? 仮だというお噂も聞きましたし。

 それなら私に、ハロルド様の婚約者という座、くださいな!」


 そう言って身を乗り出す彼女に、私は心の底から……笑ってしまう。


「ふふふっ」

「……は?」


(良い度胸じゃない)


 この私を、何より、彼を侮辱した物言いを。


(私が、許すはずがないでしょう?)


「私が選ばれたのだから、貴女でも未来の王妃となる彼の婚約者が務まる?

 ちゃんちゃらおかしいわね。顔を洗って……、いえ、一回では済まないわね。数百回洗って出直してらっしゃい」

「なっ……!」

「悪いけれど、婚約者候補のことは一通り調べさせてもらったから、貴女のことももちろん知っているわ」


 その途端、彼女の顔色が初めて変わる。


(ふふ、良い反応ね)


 そうして調べた彼女のことを誦じる。


「バーバラ・エイデン。エイデン男爵家の長女である貴女は、婚約者だった伯爵家の嫡男に婚約を破棄させられた。それが丁度王太子殿下の婚約者を決めるという御触れが出る数日前ね。

 そしてエイデン男爵家は、とんでもない額の負債を抱えている。

 それも、酒乱である男爵の賭博などで抱えたのだとか」

「……やめて」

「そんな男爵には貴女の他に病弱な夫人と歳の離れた弟がいる。

 その人達を支えるために何が何でもお金が必要だとしたら、貴女の一連の行動も頷ける」

「やめてって言ってるでしょう!?」


 激昂した彼女が私の胸倉を掴む。

 そんな彼女に、私は静かに諭した。


「……今なら、まだ間に合うわ」

「え……?」

「引き返すのなら今の内よ。その手を黒幕の言いなりになって染めるのは、惜しいと思うわ」

「っ、引き返すなんて今更無理よ! 私は、あの方に一生仕えるという約束でお金をもらっているもの!!」

「喋りすぎだ、エイデン」

「!?」


 そう声がしたと共に、バーバラ様の身体が横に吹っ飛ぶ。

 声を上げようとしたところで、顎を強く掴まれた。


「っ!」

「さすがは国王夫妻が認めたご令嬢。一筋縄ではいきませんな」


 その言葉に、前世で私達を散々苦しめた男と重なり、キッと睨みつけてその名を口にする。


「ウォール公爵……」


 そう、国王陛下の弟にあたり、ハロルドの叔父にあたるこの人こそが、今回の黒幕。


(睨んだ通りだったわ)


「その目は、全て分かっていた目だな?

 どうして私が裏で糸を引いていると分かった?」

「簡単なことよ」


 公爵相手にも臆することなく、敬語なんて使わずに答える。


「バーバラ様は、王太子の婚約者候補に相応しくない」

「……っ」


 その言葉で、倒れていたバーバラ様が目を見開く。

 それを横目で見ながら言葉を続けた。


「最初からおかしいと思っていたわ。

 試験は公平に行われているはずなのに、なぜキャロル様のような完璧な淑女教育をこなしている方々の中に、教育を受けていないバーバラ様が……付け焼き刃感が否めない方がいらっしゃるのか」

「そこまで気付いていらっしゃったとは。さすがですな」

「気が付かないと思っている方がお馬鹿さんよ。だってどうひっくり返っても、彼女のようなマナーがなっていないご令嬢はいずれ王太子妃となる彼の婚約者には相応しくない。そうは思わないかしら? バーバラ様」

「……っ」


 彼女に話を振れば、彼女は顔を真っ赤にして俯く。


(少し苛めすぎたかしら)


 まあ、彼女も心のどこかで気付いていることを願うわ、と息を吐きながら目の前の男に向かって口を開く。


「それに、そんな彼女の前に金をちらつかせている貴方の姿を、私見たもの」


 それは婚約者パーティーが行われた日。

 レスター様に助けていただく前にほんの一瞬だけど、公爵がお金が入っていると思われる袋を、茶色い髪をした女性に渡しているところを見た。

 それでもしかして、と疑ってみれば案の定だった。


「そうしてお金が必要な彼女につけこみ、お金を握らせて言いなりにしようとした愚か者は貴方ね?」

「愚か者だと!?」

「えぇ、愚か者よ。それ以外のどの名前が相応しいかしら?

 愚者? 大馬鹿者? ……ふふっ、どれもしっくりくるわね。まあ、全く笑えないけれど」

「貴様……っ!」

「っ」


 バーバラ様の口から声にならない悲鳴が上がる。

 それは、公爵が私の首にナイフを突き付けたからだ。

 そして公爵は、愚か者に相応しい言葉を紡ぐ。


「……それ以上生意気な口を聞いてみろ、生きて帰れなくしてやるぞ」


(これくらいで良いかしら)


 きっとナイフを突き付けられた首には血が滲んでいるはず。

 それも全て、私の望み通りだから。

 一度目を閉じる。

 公爵がその後も何か喚いているようだけど、深呼吸をして、もう一度目を開けたその時、公爵はハッと驚いたように目を見開いた。

 そして。


「跪きなさい」

「!?」


 そう口にした途端。

 愚かな公爵は、私の言いなりになるようにその場で崩れ落ちるように跪いたのだった。

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