プロローグ
新作連載開始いたします!
シリアスに見せかけてのハッピーエンドですので、楽しんでお読みいただけたら幸いです。
「クレア・オルコット嬢」
形の良い薄い唇から紡がれた、私の名。
それたけで、私の心はいとも簡単に打ち震えた。
「この出会いは運命だ」
もう二度と、会うことはないと思っていたその人が今、目の前にいる。
「結婚するなら君とが良い。君は、どう思う?」
だからこそ、同じ“過ち”を繰り返さないために。
(私が、貴方に伝えるべき言葉は)
逸る鼓動を落ち着かせる為に少し息を吸い、逸らしていた視線を彼に向けた。
(……っ)
涙が、出そうになった。
燃えるような赤色の前髪から覗く、凛とした金色の瞳。
昔から変わらぬ出で立ちの彼が、そこには立っているから。
(貴方がこうして生きてくれていることこそが、私の幸せ)
ゆっくりと、その瞳を真っ直ぐと見つめ、私は言葉を紡ぐ。
「……ハロルド・カーヴェル殿下」
(だから、どうか)
「私は、貴方の婚約者になることは出来ません」
「……!」
彼の金色の瞳が、少し見開かれる。
「……ごめんなさい」
(私のことを、許さないで……)―――
私の名前は、クレア・オルコット。
オルコット伯爵家の長女として生を受けた私だけど、物心がついた時から既に、“もう一人の自分”として生きた記憶があった。
もう一人の自分の名は、“クレア・ワイト”。
皮肉にも同じ名前の私は、なんと前世でワイト王国という小国の第一王女だったのだ。
その記憶を思い出したのは、初めて馬車に乗ったとき。
ガタゴトと舗装されていない道を走ったところで、突如走馬灯のように記憶が思い出されたのだ。
クレア・ワイトとして生きたこと、自分の信念、そして最愛であり唯一愛した“彼”のこと。
そして、そんな彼と交わした約束を果たせぬまま、17年という短い生涯を、馬車の事故で終えたことを。