殿下、ご飯は美味しく頂くのが一番のルールですよ
初投稿です。楽しんでいただけたら嬉しいです
王家が主催するパーティーの真ん中に、その少女達はいた。一方は怯えた様な少女の手を掴み、庇うように前に出ている 王子 ジキニス。
もう一方にはジキニスの婚約者 ルルリーナとそれを筆頭に少女が数人並んでいる。
ルルリーナ達をひと睨みしてから、声高らかにジキニスが宣言した。
「ルルリーナよ、お前との婚約を破棄する!」
婚約破棄、という言葉に、ピリッとルルリーナの後ろにいた少女達の空気が変わる。だがそんな少女達の心を知ってか知らずか、ルルリーナの顔は涼やかだ。
「理由をお聞きしても?」
こてん、と首をかしげる。
その仕草がジキニスには酷く自分を見下しているように映り、顔を真っ赤にさせながらも勝ち誇ったような笑みを浮かべ、尚も言い募った。
「この新しくツティリート男爵家に養子として入った エミに食事の作法を教えないばかりか、そこの令嬢達と共にエミを嘲笑ったという報告が来ている」
この国では『食』が一番とされている。そう考えるとルルリーナ達の行動は正しくないであろう。
しかし、
「殿下、エミの食事作法は正しくなっていますよ」
知らないのですか?、とも言いたげな言葉にジキニスは怒りをあらわにする。
「それはエミの努力によるものだろう!お前たちの力ではない!」
「いいえ、たしかにエミに食事作法を教えたのは私達です。この会場にいる皆様に聞いても構いませんよ」
ジキニスが周りを見るといつの間にか野次馬が集まっていた。その中には有力貴族の顔もあって、一瞬たじろいだが、まだルルリーナ達の罪は沢山あるのだ、問題ない。
「だがルルリーナ。お前はエミに食事作法を教えずに食事をしていたのもまた、沢山の人が目にしているぞ」
あの食べ方は決して綺麗とは言えなかった。可哀想なエミ、とジキニスは後ろで震えてるエミに同情した。
だがまだルルリーナの余裕は崩れない。その顔にはむしろ笑みが浮かんでいるようにも思える。
「たしかに私はエミに食事作法を教えませんでした」
ジキニスは勝ち誇った顔に変わる。だけどルルリーナの話はこれで終わりではなかった。
「ですがそれは『最初のうち』だけですわ」
「『最初のうち』、だけだと?」
ルルリーナはそばにある机の上においてあったローストビーフを手に取ると、パクリと大きな口で食べてみせた。それはもう美味しそうに。
「殿下、ご飯は美味しく頂くのが一番のルールですよ」
「なっ!!」
絶句した。そんな食べ方美しくはない。けどそんなジキニスには気にも止めず、ルルリーナは話しだした、事の真相を。
「たしかにエミの食事作法はあの頃、お世辞にも綺麗とは言えませんでした。ですがエミは平民上がり。まずは貴族の食事になれることが先決だと思ったのです」
たしかに、その場面を見たものは口を揃えて「楽しそうに食べていた」と言っていたような気がする。
「だが、お前達は、エミを嘲笑ったりしたという報告も来ているぞ」
「それは、彼女達の言葉遣いの問題ですわね。しかし彼女達は親身にエミに食事作法を教えてくれましたわ」
淀みなくルルリーナは答える。ジキニスは今度こそ自分の勝利を確信した。
「お前がそう言っても、エミがお前達にいじめられた、と証言したらお前達は終わりだ!」
ジキニスは後ろを振り向く。エミは相変わらずぷるぷると震えて下を向いていた。
「エミ、もう我慢しなくていいんだよ」
優しく問いかけるとエミがなにか喋った。聞き取れなくて顔を近づけると、キッ、と顔を上げエミは叫んだ。
「いいえ!皆さんは私にとても優しくしてくれました!これ以上、お姉様達を侮辱しないでください!」
そのままエミはジキニスの手を振りほどくと、ルルリーナ達のところに走り出した。そんなエミを少女達は抱きしめる。
意味がわからないと言いたげな王子に、エミは言う。
「殿下、私が虐められたというのは誤解です。お姉様達は私にとても良くしてくれました」
そんな、とか擦れた声がジキニスの口から溢れる。たしかにその光景から不仲は感じられない。
ザワ、と空気が変わる。見るとそこには国王 メビウス陛下がいた。
「ち、父上、、、」
「ジキニス、お前にはがっかりしたぞ」
その言葉にガクッと膝をつく。
ただジキニスは少女を助けようと思っただけだったのに。
今日も今日とてルルリーナ達はエミと食事をする。その顔は、とても楽しそうだ。




