第20話 決戦
狙いは完璧だったはず、しかし銃弾の軌道は親父の目の前で不自然に軌道を歪め真横に逸れていった。
「ふふはははは、言ったろ?私がマザーを創ったと、いわば私は創造主なのだよ。
お前がこの世界にいる限り、私は誰の手も触れられぬ神そのものなのだ」
「この世界に貴様という人間は必要ない、貴様も母と同じ運命を辿るがいい。
ここで死ねクレア」
親父が懐からハンドガンを取り出すのをみて、私は横に飛び込み、親父の撃ち込む銃弾を避けた。
受け身をとり直ぐ様態勢を整え、すかさず親父にむけ3発弾丸を打ち込んだ。
しかし親父の軌道上にあった弾丸は、はたまた面白いように軌道をかえてゆき、親父は残りの一発の弾丸をコントロールし私に跳ね返した。
「無駄だ、私に跪け」
まるで読めない軌道に避けることもできずに、銃弾は私のふとももに着弾した。
私はその場で倒れ込み、親父はすかさず次の引き金を引く。
「だめっ!!」
リィナが身を乗り出し腕を伸ばすと、リィナの力によって弾丸が私の目の前で動きを止めた。
「この小娘が、まだそんな力が残っていたか」
「クレア逃げて、私をおいて逃げるの」
銃弾をよくみると小刻みに揺れ、親父の力と拮抗してることが分かった。
私は銃弾の軌道から逸れ、コンピュータの裏側に周りこんだ。
「そんなことできるわけ」
「逃がすものか、世界の秘密を知ったんだ。誰も生かしては帰さん」
親父はリィナの髪を引っ張り上げ、そのまま地面に叩きつけた。力の作用が消えたことで宙に停滞していた銃弾はその軌道線上に飛んでいった。
「マザー、クレアを消したあとでお前の意思もすぐに消してやる。
元々意思など残る予定ではなかったからな。
さぁ出てこいクレア、決着をつけようじゃないか」
私は息を殺しコンピュータに背中を預けていた。「くそ足が」それは撃たれた脚が痛み動く度に血を滲ませていたからだ。
「クレアなぜ争いは起こると思う?」
親父がゆっくり忍びより私に語りかける。私は勿論居場所が悟られないよう黙ったままだが、自分の中で答えははっきりしていた。
するとリィナが私の心を読み取り、代弁して喋った。
「お互いの要求が話し合いの場で解決しないから暴力に走る」
親父もリィナが代弁してることに気が付きそちらに耳を傾ける。
「それも一理あるが、もっと根本的問題だよ。人に幾多なる選択肢が存在するからだ。
だから人間はこれまで多くの誤った道を選択してしまった。だがこの世界はどうだ?決められた人生を歩める、選択を迫られることもない。これこそが争いのおこらない世界というものだろう?」
「じゃー私はその反逆者第1世って訳だ」
「それはお前がマザーによって真実を吹き込まれたからに過ぎん。戻ってこいクレア、外の世界は過酷で辛いことばかりだぞ。この世界なら辛い労働さえも楽園のビジェンに変えられる」
「そんなの現実じゃない、幻想でしかないじゃない?」
「幻でも本人がそれを自覚しなければそれは現実だ!!」
「もう交渉の余地はない戦闘再開よ」
空のカートリッジを取り外し、震える手で新カートリッジ装填しようとするがカートリッジが手から滑り落ち床の鉄格子の隙間から落ちてしまった。
「貴重な弾を1つ無駄にしたな、お前の弾は残り5発か、私には全てお見通しだ。
だがリィナの力を借りればもしかしたら勝てるかもしれんぞ」
これは親父の誘惑だ、親父は自分の勝ちを微塵も疑っちゃいない。
それはこちらの武装を完全にコントロール出来るからだ。リィナは体力の限界が近い、リィナの力を当てには出来ない。
でも今ので私にも勝機が見えた。
私はシリンダーに何もつけずに親父の前に出てリボルバーを構えた。
「無駄だ。さぁ撃て」
親父は腕を広げて私の銃弾を受けるつもりだ。
ダン!!
銃声が響いた。フェイントなんかじゃない。私のリボルバーから放たれた弾は
親父の胸を貫いた。
「馬鹿な」
親父はすぐさま下がり、マザーシステムの暗闇へと姿をくらませた。
「ようやくあんたの弱点が分かったよ。あんたが自分で口を滑らせたんだ。
この世界のものじゃなければあんたは物体をコントロール出来ない」
クレアの手に握られているリボルバー、それは黒ではなく黄金に輝く母の形見、つまりこの世界に迷い込む前からクレアが持っていたものだった。銃弾も同様に輝いている
「残数5発喋りすぎたね、あんたは私のゴールドリボルバーの残弾数までは把握できていなかった。そこでひらめいたんだ」
「おのれ、っぐふっ」
親父が吐血して体を大きく揺らした。
私は親父を追い詰めたとみて裏に周り階段を見つけ、親父との決着をつけるために、身を潜めゆっくり近づいてゆく。
「やってくれたな、だが相手に手の内を見せるとは馬鹿な娘だ。今度は容赦はせんぞ」
親父も銃を構えて戦闘に備える。
親父にも考えがないわけじゃない。確かに外から持ち出されたものはコントロールできない。しかし自分の弾薬をコントロールし私の弾丸にぶつける事で相殺させ、弾切れを狙う策だ。
私は二階の暗闇の足場の上でゆっくり銃を構え足をとめて、耳を済ませると荒く苦しいそうな親父の吐息が僅かに聞こえてきた。
親父は近い、私は音のなる方に発光弾を投げ入れその場所に走り混んだ。
親父の姿を確認しゴールドリボルバーで狙いを定め弾切れを起こすまで撃ち続けた。
親父も直ぐ様引き金を引いた。
狙いを定める必要なんかない。撃ったあとにコントロールすればいいのだから。
親父の弾丸は全て私の撃った弾に直撃し両者の弾は粉々に砕けた。
「終わりだ」
親父が勝利を革新してニヤリと笑った。親父の銃にはまだ残弾が残ってる、親父の扱う銃火器はハンドガンで私の使うリボルバーよりずっと装填数が多い。
親父が私に銃口を向け万事休すと思われたが、走り込んだ私達の距離はもう、すぐ目の前まで迫っていた。
私が親父が引き金を引く前に、右足を大きく振り被り、親父の銃を天高く蹴り上げた。
「なに!?」
そしてそのままマガジンを宙に投げ込み、体を回転させると、宙に舞うマガジン向けリロードを試みた。
それを見ていたリィナが、力を使いマガジンの角度をコントロールしようとしたが、その角度は完璧でリィナが手を加える必要もなく全弾全てきれいに装填された。
回転し終え、親父の眉間に銃口を突き付ける。
少しの間の後私は躊躇なく引き金をひいた。
バンと大きな音がなる。しかし銃先から弾丸が出てこない。
不思議に思い顔をずらし銃先を確認すると銃の側線を突き破り弾丸がこちらに飛んできた。
私は反射的に身体を反らし、銃弾は頬を、かすめ血が吹きでる。
親父は私がリロードする際に宙に浮くマガジンの色が黒だと確認していたのだ。
私は怯まずに次の引き金を引いた。
「無駄だ」と強きな表情をみせる親父だったが、引き金を引くと(カスっ)と空転する音が聞こえた。
身構えていた親父が計算が狂いっ一瞬ハッとした。
私はその一瞬を見逃さず闇雲に引き金を引き続けた。
何発のも銃弾が親父の体を貫いた。
弾が一発入ってなかったのは先程鉄格子の下に落としたマガジンだったからだ。それが2発目装填されていたのは偶然の産物だったが勝利に変わりはない。
「クレアもう止めて」
動かなくなっても発砲を止めない私をリィナが制止した。
私は我に返りその場に崩れた。
「クソ親父を殺しても涙なんて出ないと思ってたのに。
親父もこうなる前はいい親父だったんだ」
忘れた記憶が1つ蘇ってきた。家族みんなで仲睦まじく食卓を囲んだあの日こと。