第10話 目まぐるしい1日
ピピピーー
朝を知らせるアラームがなり私は目を覚ます。
「あれリビングが明るい?」
私は眠い目をこすりながら隣に目を向けるとリィナの姿がない。私は立ち上がりリビングへと向かった。
リビングにつくと良い香りがその場を立ちこめており、リィナがキッチン台でフライパンを手に調理に奮闘していた。
「おはよう、リィナ」
「おはようクレア」
リィナがフライパンを片手に振り向いて言った。
「朝食作っててくれたんだ。こりゃ楽しみだ」
「うん、昨日役割を決めて料理は私が担当だからね」
私が感心していると、オーブンも稼働してることに気が付いた。
「オーブンも使ってるんだ、パンの香りがする。でも同時にやって上手くいくのリィナ?」
「私の体内時計は正確だから任して頂戴」
リィナが得意げに言い、焼いたハムの上に卵を割り、どうやらハムエッグを作ってるようだ。
「便利な体だね」
私は少し羨ましそうに言った。
結果出来た朝食が黒焦げの食パンにハムエッグこちろも底が真っ黒焦げ。
「体内時計ねぇ疑わしいもんだ。こんな黒いパン始めてみたよ」
「見た目はあれだけど味は問題ないはずよ」
「じゃー頂きます」
当たり前のように焦げた苦味がするけど、1人じゃないせいか、こんな朝食でも不思議と美味しく感じれた。
「じゃー行ってくるよ」
「はーい行ってらっしゃい」
「さて洗濯と掃除っと」
リィナ私が家を出た後もせわしなく家事をこなすのであった。
リィナが朝食を作っててくれたおかげで、今日は大分時間にゆとりを持って出勤できる。無駄にアクセルをふかすこともないし、精神的にもずっと健康的だろう。
「おはようフタバ」
職場につき休憩所でフタバに挨拶を交わした。
「おはようクレア」
フタバは挨拶を返すなり何かに気付いたのか私に言った。
「何かいいことあった?」
「どうして?」
「顔に書いてあるよ。朝からニコニコしちゃってまぁ」
「そうかな?」
しまった顔に出てたか。
「あっ男だ、そうでしょ?」
ぎく、フタバの顔色が変わった。このモードに入ったフタバは面倒なんだよな。
「クレア白状なさい」
「なんでそうなるのさ」
フタバは私の肩を揺らし私に詰め寄っていると、休憩所に上司のレイチェルさんが顔を出した。
「皆さんちょっといいかしら、今日は朝礼がありますので一度広間に集まるようお願いします」
レイチェルさんの指示通り私とフタバは広間に向かうと久々の朝礼が行われた。
「昨日起きたマザーシステムとの通信トラブルは依然今も改善されていません。上層部が復旧作業を進めておりますが、この問題は長期化する恐れも考えられます。
今現在あなた達スタッフの中でマザーシステムに頼らず、マニュアル操作が可能な者は2名しかいません。サイジョウさんとクレアさんです」
大勢集まる中で突然私の名前を呼ばれたものだから体がビクッとなってしまった。
「お二人みんなに分かるように手をあげてもらえる?」
私とサイジョウさんが手をあげるとみんなの視線が私達に注がれた。サイジョウさんは何ともないようだけど、私は注目されて妙に恥ずかしい気持ちになった。
「みんなには分からないことがあれば、この二人から指示をもらい対応するようお願いします。メンバー振り分けは各自のパソコンに送信しましたので確認するように。それでは今日も1日お願いします。」
あーあとんだ大役を任されたもんだ。もう責任重大だよ。
私がうなだれているとレイチェルに肩を叩かれた。
「クレアさん肩の力を抜いていいわ、こんなトラブル初めてだもの、手探りで頑張りましょう」
「はい」
とはいうものの憂鬱だ。今まで人に指導なんてしたことないのに、どうすればいいんだろ。
「クルア、私の先生はあなたよ」
フタバが嬉しそう私に言った。
そうこうしてる内に振り分けられた人たちが私の前に集まり、私はあたふたしながらも、それぞれ簡単なコードを一人一人に対応してもらうよう割り当て、分からないことがあれば私に聞くよう説明した。
私は私で自分の仕事もあるので、目まぐるしく忙しく時間はあっという間に過ぎていった。
「クレアさんそろそろ休憩とらない?」
レイチェルから声をかけられ私は「はい」と答えた。
「休憩室にサイジョウさんがいるから、声かけて交代してもらえる?」
「はい、わかりました」
休憩室につくとサイジョウさん見つけた。しかしフタバから聞いた話もあり中々話しかけられずにいると、サイジョウさんが私に気付いた。
「あれクレアさん?」
「お疲れ様です、えっとサイジョウさん」
「お疲れ様です」
「レイチェルさんから休憩を交代するようにいわれまして」
「わかりました」
サイジョウさんは席を立つと職場に戻っていくと途中で足を止めた。
「あの、、、今日は大変な1日になりそうですね」
「そうですね、当分は。サイジョウさんもヘルメットつけてなかったんですね。私以外にもそういう人がいたなんて知りませんでした」
「僕も驚きました。お互い頑張りましょうね」
サイジョウさんは嬉しそう言い持ち場に戻っていった。
私も休憩をすませるとまた忙しい時間がはじまり、みんなに分からないと呼ばれ今日はずっと振り回されっぱなしな一日だった。
「さて帰りましょクレア」
フタバが今日は私と仕事が出来て嬉しかったのかいつも以上に浮かれた顔をしている。
私達が帰ろうとするとレイチェルさんに引き止められた。
「あのクレアさん少し残ってもらえる?大事な話があるの?」
「分かりました。フタバ今日は先帰ってて」
「わかったわ」
レイチェルさんについて行くとそこにはサイジョウさんの姿もあった。
「あなた達ふたり、管理職を目指してみない?またこんなことが起きるともわからないし、そろそろ私達の上の世代も世代交代の時期に差し掛かってるし。
あなた達良かったらどうかしら?」
「僕はぜひお願いしたいです」
サイジョウさんは迷いなく即答で答えたが私は一歩踏み込めずにいた。
「クレアさんはどうかしら?」
「少し考えさせてもらっていいですか?」
「ええ、もちろん。そんな返事をせく話じゃないから、一旦自宅に持ち帰ってじっくり考えてみて」
「はい」
私達はその流れで一緒に帰ることになった。
「クレアさんも一緒に頑張りましょうよ、君ならきっと」
サイジョウさんは私に説得するように言った。
「ありがとうサイジョウさん、でも私なんかで務まるのかなって思って」
「やらないことの方が後悔すると思いますよ。せっかくのチャンスじゃないですか」
確かにサイジョウさんの言うとおりだ、挑戦しなければ後悔するって分かってる。それでも私は挑戦することにどうしても恐れを感じて躊躇してしまう。