第1話 ラズベル
そこに私の住む世界はあった。光の届かぬ地、海にかこまれた孤島の都市razvell。
薄暗い世界に街灯がぽつぽつと明かりを灯し、ガラス張りの高層ビルが乱立し都市全体を覆い尽くしていた。その中心には一際、存在感を放つ超大型高層ビルがある。
マザーセントラルビル。この世界の核をなす存在マザーセントラルは、この世界のシステムともいうべき膨大の情報を明くる日も明くる日も休むことなく管理、処理をおこなっている。
それは人が二度と悲しみをうまぬため、人が二度と思い上がらぬための戒め。
この世界に朝日が登ることはない。太陽が消滅したとかそういうことじゃない、ここではそれが普通なんだ。だから誰もこの世界に疑いを持とうとしない。
それに朝が訪れない事は、さして私達にとって問題ではないのだ。全てを照らす光も、そこに映し出されるであろう色も私達の目には白か黒かでしかないのだから。
白と黒の世界、まるで個性という名の色を否定された世界で、私達は日々を消耗させ生きている。
「お母さん」
「お母さん!」
「お母さん!!」
私は小さな体で暗闇の中、目の前に見えるお母さんの背中を必死に追いかけていた。
しかしいくら走っても一向にお母さんに追いつく気配はない。むしろお母さんの背中は小さくなり遠ざかる一方だ。
「お母さん!!」
必死の思いで叫んだ声とともに私は目を覚ました。そこはいつもの朝でベッドの中、どうやら私は悪い夢をみていたようだ。
「クレアまだ寝てたのね、お寝坊さんね」
様子をみにきたお母さんが私に言った。
「お母さん」
私は悪夢の不安からお母さんに抱きついた。
「どうしたのよクレア」
お母さんは少し戸惑った様子だった。
「怖い夢をみたの、お母さんがいなくなる夢。お母さんどこにもいったりしないよね?」
「大丈夫よ、お母さんはいつもクレアのそばにいるでしょ。だから支度して」
「うん……」
私は服を着換え、洗面台にいき歯を磨いた。
それからリビングに行くとお父さんとはちあわせた。
「クレア駄目じゃないか、顔を洗ってきなさい。今日は特別な日なんだろ?」
私はお父さんに道を阻まれ、洗面台に押し戻されてしまった。
「そうなの?でもまだ外明るいよ」
蛇口をひねり顔を洗おうとするが、水が冷たく控えめに洗った。
「ははは、そうだな」
「そうねまだお日様登ってるものね。でも今から準備しないと間に合わないわよ」
お母さんが化粧しながら言う。
「そっか」
それから支度を済ませ出掛ける準備が整うとお母さんは先に外へと出てしまっていた。
「お母さん先にいかないでよ」
私がすぐにお母さんの背中を急いで追いかける。
「もうクレアいらっしゃい、もう今日は甘えたがりなんだから」
お母さんが振り返り私に手を差し出し、一緒に手をつなぎ車を目指した。
「クレアはもう何歳になるんだ?」
お父さんがその姿を微笑ましくみながら私にきいた。
でも私はその質問に答えられなかった。
それを見かねたお母さんが私に助け舟を送った。
「ロウソクは5本よねクレア?」
「え、何言ってるのだって私……」
その時何かが崩れさる音が聞こえた。
「私もう17だよ」
ピピピ、ピピピ。
私ははっとなり体を起こした。そこは私の部屋で昨日設定した目覚まし時計がアラームを鳴らしていた。
私はアラームを止め、首に掛けていたペンダントを手に取ると中身を開いた。
「どこにもいかないって言ったのにお母さんの嘘つき……」
私はそれからいつものように、顔を洗い、背中まで伸びた黒い髪をクシでとかした。手早く支度をすませると、上下黒のスーツを身に纏い出社した。
その頃マザーセントラルビルでは異常事態が発生していた。
「どうなってる?マザーシステムからの出力がどんどん下がってるぞ」
白髪に無精髭を生やした中年の男性が言った。
「ダメです、マザーからの反応がありません」
「なんだと、コンピュータそのものはここにあるのに、心だけ逃げ出したというのか?
すぐ探しだせ、そう遠くはいってないはずだ」
前作小説、アサの旅完結してますのでこちらも是非お願いします。
https://ncode.syosetu.com/n5210hp/
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小説投稿日は月火休みで、水〜金18時40分投稿。土日13時より投稿します。