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勇者と魔王がくっ付くなんてフィクションの中だけだと思ってました

「勇者よ、我が妻となれ。さすれば世界の全てをやろう」

「なんて?」


 あ、どうも。

 私はアストライアと言います。

 17歳、ピッチピチの女の子。


 なんと、勇者なんてやってたりします。

 勇者……自称すると照れますね!


 今は、魔王城に絶賛カチコミ中です。

 仲間達の『ここは任せて先に行け!』×5を受けて、何とか魔王の前まで辿り着いたんですが。



「勇者よ、我が妻と――」

「もう一回言えって意味じゃないです」



 なんと、魔王にプロポーズされました。

 え、ホントに?

 何かの間違いじゃなくて?


「この魔王城では、部下のことを『妻』と称する文化があるんですか?」


「どんな男尊女卑な文化だ。妻と言えば妻だ。嫁、女房、家内、奥さん、マイハニー」


 【悲報】魔王、『マイハニー』と口走る。


 どうやら本当にプロポーズのようです。

 確かに、自慢ですが私は可愛いです。自慢ですが。

 赤いもっさりヘアーが鬱陶しいんでツインテールにしたら、村の子達から『あざとい! アスティあざとい!』って言われました。

 おっぱいもお尻も中々大きいです。



 が、そうゆう自信は、先日魔王軍のサキュバス部隊と戦った際、粉々に砕け散りました。

 きっと目の前の魔王は、あんな人外の美女達を毎晩アハンハン言わせているはずです。

 私の色香など通用しないでしょう。


「あと、世界全部って言いました? こうゆう時って、普通半分では?」


「君さえいれば、世界なんていらない」

「ぐっはぁっ!?」


 ヤバいです、直球火の玉ストレートです。


 この魔王、イケメンなんです。さらにイケボ。

 しかも、ぱっと見歯の浮くようなセリフとか言わなそうな、堅物系。

 めっちゃ好み。


 ヤバいです、頭が熱持ってくらくらしてきました。

 これはまさか、私の溢れ出るオーラ的な何かに恐れをなした魔王が、上手いこと言って籠絡しようとしているのでしょうか。


 おのれ魔王、なんて卑怯な。

 さっさとあの口を閉じなければ、もしかすると私は、このまま魔王城で朝チュンすることになりかねません。


『魔王城でおはよう』


 タイトルは爽やかですが、内容は深夜の5分エロアニメです。

 私はまだ17歳なので、こんなものに出演しようものなら、コンプラがどうとかでエライことになるはずです。


 というわけで覚悟、魔王っ!


「キリッとした顔も可愛いぞ、アスティ」

「その口、今すぐ塞いでくれるっっっ!!!」




 ◆◆




 ――チュンチュン、チュチュン、チュンチュン……。



 魔王城の庭でも、スズメは鳴くらしい。


 おはようございます。勇者アストライアです。

 気持ちのいい朝ですね。


 この無駄に広くてふかふかのベッドもまた、凄く気持ちがいいです。

 というわけで、魔王城でおはよう第1話『アスティ、朝チュンをする』、お楽しみいただけたでしょうか?



 私は全然楽しくないです。


 昨日、あれから全力で魔王に切りかかったんですが……もうダメ、全然ダメ。

 何をやってもふんわり受け止められてしまって、まるで手のひらの上で転がされてる感じ。


 コロコロアストライアです。


 またこの『お前の全てを受け止めてやる』って感じの、余裕の顔も気に入りません。

 私は包容力のある男に弱いんだっ!


 てかね、私、かなり強いはずなんですよ。

 魔王四天王とか、舐めプして生捕りにして、ちゃんとおうちに返してあげられるくらいに。


 4人目の闇神官っぽい奴がトチ狂って呼び出した、太古の邪神とかも瞬殺でした。

 その邪神ちゃん(幼女)は、今ウチのパーティでタンクやってます。


 そんな感じで、私、強いんです。

 でも無理! あの魔王無理!


 魔力障壁とかはあっさり破れるんですけど、何故か体に傷一つつかない。

 理由を聞いたら『いいプロテインを使ってるから』と返ってきました。

 私の攻撃は、筋肉で弾かれたようです。


 んなアホなっ!


「朝からいい百面相だ、アスティ」

「ままままままま魔王っっっ!!?!」


 魔王です。朝からイケメンスマイルです。

 やめろ、歯を光らせるんじゃあ無い。

 そもそも、乙女の寝室にノック無しで侵入とは何事か!


「すまんすまん。起こしちゃ悪いと思ってな」

「乙女の寝顔を覗くのはもっと悪いです!」


 朝から心臓に悪いです。


 あ、そうそう、こんなタイミングでなんですが、どうやら私の純潔は守られたっぽいです。

 起きた時に背伸びしても『いててっ』てならなかったんで。

 うちの魔法使いさんは、戦士さんと初めてそんな感じになった日の朝は、ずっと『いたたっ』てしてました。


 だから、きっと大丈夫。大丈夫ですよね?

 信じてるぞ魔王!


「はっ! そういえば、私の仲間達はどうなったんですか!?」


「朝飯食って、今は客間で寛いでるぞ」


 なにみんな朝ご飯ご馳走になってんの!?

 ここ魔王城ですよ!?


「最初は警戒してたんだが、例の邪神が1人でガツガツ食い始めて、あとは全員釣られてズルズルと」


「邪神ちゃん……!」


 魔王城でも、変わらず食いしん坊です。

 まぁ、食べてしまったものは仕方ありません。

 私の分はありますか?

 ある? それはよかったです。


 何せ私、昨日は魔力も体力も空になるまで暴れ回ったんで、お腹ペッコペコなんです。



 ……はい、私、昨日は疲れてぶっ倒れました。

 魔王はパンチ1発打ってません。

 文句言ったら、『俺をDV旦那にするつもりか!?』って怒られました。


 まだ結婚してないし! いや、そもそもしないし!


「また来い。今度は城の奴らにも、話通しておくから」

「遊びに誘うテンションで言うのやめてもらえます!? いや、また来るんですけどっ!」


 私は勇者、貴方は魔王。

 私がここに来るのは、貴方を倒すためです。

 その辺、ちゃんとわかっといて下さいよ?




 ◆◆




「待っていたぞ、勇者よ。俺と結婚してくれ」


 わかってませんでした。

 2回目の魔王城攻略に挑んだ私を待っていたのは、白いタキシードに花束持って跪く魔王。


 なんですその格好?

 ここで私が『はい』とでも言ったら、そのまま結婚式をするつもりですか?


「よくわかったな。お前のドレスも用意してある」

「結婚式舐めんなよ!? 私の方の出席者、旅の仲間だけになるんですけど!? もっと友達いるわっ!」


 あと、ブライダルエステとかもしたいです。ドレスだって自分で選びたい。

 披露宴もありますよね?

 会場選びとか、料理とか、お花とか、BGMとか、余興とか。

 1年くらいかけてじっくりと準備を――じゃないっ!


 なに結婚を前提にした予定を立てようとしてるんですか、私!

 しっかりしろ! 今日こそ勇者の使命を果たすべし!


「勝負だ魔王! 卑怯な罠に囚われてしまった仲間達の思いも込めて、今日こそお前を倒す!」


「あぁ、そういやアイツら、何やってんだ?」


「戦士さんと魔法使いさんは、宝物庫で美術館デート的なことをしています。僧侶さんは悪魔司教さんと宗教談義を。賢者さんは、そちらの参謀さんとなんか難しい話してました。邪神ちゃんはオヤツ食べてます」


 みんな2回目にして羽目を外しすぎです。

 特に邪神ちゃん! 入る前からウッキウキにならないで下さい!


「デートか、いいな。次までに魔王城デートコース考えとくわ」

「お前に次はない! 覚悟おおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!」










 ――チュン、チュンチュン。




 魔王城のベッドは、今日も気持ちいいです。




 ◆◆




 それから私は、何度も魔王討伐に挑みました。




「勝負だ魔王!」

「デートコース考えたぞ。きっと気にいると思う」


 カジュアルファッションに身を包んだ魔王を追いかけながら、強制的に魔王城デートさせられたり――




「勝負だ魔王!」

「腹減ってないか? いい竜の肉が手に入ったんだ」

「いただきます!」


 人間の抗えない本能を刺激する卑怯な罠で、お腹いっぱいにさせられたり――




「勝負だ魔王!」

「今日は流星雨が降る日だな。ウチの城の天辺は、絶好の観測スポットだぞ」

「見ます!」


 お星様が好きな、どうしようもない乙女の心を利用されて、思わず魔王の本名を呼んでしまいそうになったり――




「魔王!」

「最近城の中にプール作ったんだ。一緒にどうだ?」

「私の水着姿を見ようたって、そうは行きませんよ! でも、あとでメイドさん達と入らせてもらいます」

「無念……!」


 時に、冴え渡る頭脳で、魔王の企みを見事防いでみたり――




 そんな激しい戦いや、時に頭脳戦を繰り広げ、残念ながら、いつもあと一歩力及ばす、その度に魔王城で朝を迎え続けました。


「おはよう、アスティ」


「おはようございます。今日の朝ご飯はなんですか?」


「目玉は鯛のカルパッチョと、オムレツだな」


 よし、今日は大当たりの日です!

 魔王城の朝食はビュッフェ形式で、出るもの全部美味しいんですが、その中でも私好みの当たりの日があるんです。

 朝ご飯が美味しいと、一日元気に過ごせます。


 そういえば、もう何度もここで朝食をいただきましたが、私が目覚める部屋は毎回同じ部屋です。

 何か意図があるので……はっ!


「まさか!? ここ貴方の部屋とかじゃないですよね!?」


 うら若き17歳の乙女を自分の布団で寝かせるとか、許されざる行為です。

 魔王は純デーモン族のはずですが、中身はギラッギラのライカンスロープ(狼男)だとでも言うのでしょうか。


「心配するな、ここはお前の部屋だ」


「そうですか、よかったです。なんだ、私の――ちょっと待てい」


 私の部屋? どうゆうこと? ここ魔王城ですよね?


「この部屋は王妃の私室として、俺が用意したんだ。王妃、つまりお前の部屋だ」


「ワタシノヘヤ」


「気兼ねなく寛ぐといい。私物も置いてっていいぞ」


 朝チュン10回目にして衝撃の新情報。

 魔王城に、勇者()の私室がありました。




 それからも、私は何度もこの城を訪れました。

 衛兵さん達とは笑顔で挨拶を交わすようになりましたし、メイドさんとは近くの街に遊び行くくらい仲良くなりました。

 今日は見かけないと思っていた仲間が、魔王城でポーカーをやっていることは日常茶飯事です。



 はい、そうですね……いつしか私は、この生活を『楽しい』と感じるようになっていました。


 それでも、私は勇者です。

 人々のため、魔王を倒さねばなりません。



 でも、『人々』って誰のことでしょう?

 この魔王国には人族もかなり住んでますけど、皆さん魔族の方々と仲良くやっています。


 国境の向こうの、私の国の人達の方が、よっぽど辛そう。

 その理由は、重税やら、貴族や騎士の横暴やら……魔王は何か関係あるんでしょうか?


 魔王本人に聞いてみたら、『ウチとの国境線に攻め込むのをやめたら、軍事費分は税が軽くなるかもな』、だそうです。



 はい、ウチの国は、戦争を仕掛ける方です。

 『防衛戦』と称して、何度か国境付近に送られたことがあって、その度に魔族の街を略奪する、人族の兵士を見てきました。


 私は、誰のために魔王を倒すのか、わからなくなっていました。

 でも、勇者である私がそんな迷いを持っていることは、許されないことだったのかもしれません。





 ――少なくとも、私の国の偉い人達は、許してくれませんでした。





「アスティ、デートにその格好はどうかと思うぞ」


 魔王が、珍しく不機嫌そうに『私』を見ています。

 一向に魔王討伐を果たせない勇者()に業を煮やした偉い人達は、私に一つの兵器を与えました。



『聖神機ガルガンド』



 古より伝わる命なき巨人。

 どんな魔法や武器も跳ね返し、どんな障壁や鎧も貫く、魔を滅する最終兵器。

 私は今、その胴体に取り込まれています。


 魔王は、私のミニスカートがヒラヒラして、中身がチラチラするのが大好きでしたから、自分の5倍もある鉄巨人の姿は、さぞ気に入らないことでしょう。



 ごめんなさい。私はもう、貴方にそれを見せてあげることはできません。



 この巨人の動力は、勇者の命。

 私がここから出られるのは、ミイラになった後です。

 それまで私は、近くに魔族を見つけては、この巨人が殺戮を繰り返すのを、ただ見ていることしかできません。


 だから、乗り込む前に仲間に頼んで、避難勧告とか出してもらったんですけどね。



 なのに……。



『なんで……残ったんですか……』



 貴方が逃げてなかったら、意味ないじゃないですか……!



「ここにいれば、お前が会いに来てくれるからな。お前が勇者である限り、俺がこの椅子を誰かに明け渡すことは無い。絶対にだ」


『なんですか……それ……っ』


 この巨人、今まで何人も魔王を殺してるんですよ?

 そんな馬鹿な理由で目の前に立つなんて……ホント……馬鹿なんですか……。

 あ、だめ……っ……もう、抑えが……!



『…………逃げてっ!』


「断る」


『大馬鹿ぁっ!』



 巨人が、動き出しました。

 こんな巨体とは思えないほど、速い動き。魔王は何とか躱していますが、今までの戦いと違って、無表情です。

 そりゃそうです、当たったら死んじゃいますから、さすがに真面目な顔にもなるでしょう。



 ……嫌です……っ。



 魔王を倒すのは、勇者の使命。

 私も、ずっとそう思っていました。

 でも、ここで魔王と過ごす内に、それがどんどん薄れていって……。


 そうです……私もう、勇者の使命なんて、どうでもいいんです。


 魔王なんて倒したくない。


 ここでずっと、魔王に挑んで、力尽きるまで暴れて、ぐっすり寝て、朝は魔王におはようを言って、美味しいご飯を食べて……ずっと、そうしていたかった。


 巨人が、魔王を壁際に追い詰めて、腕を振り上げました。



 嫌です……私……貴方を殺したくない……。


 嫌……嫌……っ。


 死なないで……行かないで……!





「ゼクトっっ!!」










 ――やっと、俺の名を呼んだな。


「あっ」


 振り下ろされた腕は、魔王の腕にガッチリと掴まれていました。

 巨人はそれを振り解こうとガチャガチャ動いてるんですが、魔王はピクリとも動きません。



 うん、ちょっとそのままストップ。頭が付いていけていません。

 あと、感情も迷子。



「ほいっと」


 魔王消えた!? あ、右肩のところにいる。

 んで、肩と腕を掴んで……ちょぉいちょいちょいちょいちょいっっ!!?


 ――メキメキメキメキメキメキッッ!!


 引きちぎりました! 巨人の腕、魔王が引きちぎっちゃいました!

 古の! 魔法も武器も効かない! すんごい巨人の腕を!

 何やってんのこの人!?

 ……あっ!?


『いいプロテインを使ってるから』


 筋肉! それ全部、筋肉でやってんですか!? 筋肉凄ぇっ!


「待ってなアスティ。すぐにそのおじいちゃんが選んだダサい服ひん剥いて、俺好みのエロ可愛いフリフリ超ミニスカート穿かせてやる」


 究極の選択っ!

 寧ろ命吸われてなかったら、おじいちゃんチョイスの方がマシです。

 でも、これ着てると死んじゃうんで、私に選択肢はありません。


「くっ……脱がせ……!」


 なんか、女騎士みたいになっちゃいました。

 勇者なのに……でもいっか、もう勇者やめるし。


 魔王は凄くいい顔です。私の超ミニスカ姿でも想像しているんでしょうか。

 ちょっと早まったかもしれませんが、もう後には引けません。


 魔王は残った左腕ももいで、たった今、私のいる胴体に手刀を突き刺しました。

 魔王の手はどんな伝説の剣よりも切れるって噂は、本当だったようです。


 そのまま胴体も引きちぎるつもりみたいですね。機体がメキメキバキバキいってます。


 あ、カメラとマイクが死んだ。

 残念ながら、私はメインカメラがやられたら、何も見えなくなるタイプなので、聞こえてくるのは機体がひしゃげる音と――



「その女を離しやがれ、ガラクタ野郎……!」



 亀裂から入ってくる、彼の声だけ。


 でも、いいんです。

 だって今、私が一番聞きたいのは、その声なんですから。



「そいつは……俺の花嫁だっっ!!」



 巨人の胴体が左右に裂け、私は宙へと投げ出されました。

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