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七ニャン 猫の為に生まれた

「そっか。又田尾さんなら、絶対気に入ってくれると思ったよ。」


「えぇ、この子はとても『順応力』に優れています。

 初対面の私に対しても、こうしてすぐにリラックスしてくれる上に、人間の手の感覚を把握す

 るのが早い様子です。

 その上、彼は『相手の目』をしっかり見て、相手がどんな人なのかを見極める『眼力』も兼ね

 備えています。

 決して人の誰もに懐くのではなく、しっかりと相手を選んだ上で甘えているのが伝わります。

 誰にでもよく懐くのは確かに微笑ましいですが、彼の隠され田『観察眼』に惹かれてしまいま

 した。

 まだ一才にも満たない子猫にしては、少し体が小さい気もしますが、毎日のご飯3食に加え、少

 しずつ

 おやつを挟む事で、徐々に大きさを平均並みにしていきたいと思います。

 あと、彼の足の筋肉はとても発達していますので、なるべく天井が高いケージを設置して、自

 由に動き回れるようにします。

 去勢は・・・まだみたいですね。確かにこの体の小ささでは、ちょっとリスクが大きいですか

 らね。

 去勢は引き取る前でも構いませんし、引き取った後に私がタイミングを見計らっても構いませ

 ん。うちには『かかりつけの動物病院』もありますから、あらかじめ連絡しておきます。」


かなり饒舌にベラベラと喋るかつおに、職員も彼もポカーンとしてしまう。

しかし、かつおの言っている内容は、決して当てずっぽうでもなければ、適当に言っているわけでもない。

かつおはわざわざ彼の体をひっくり返し、去勢をしているのか否かをしっかり確認した上で、去勢がされていない要因についての推理もほぼ当たっていた。

彼は、生まれた時からずっと『食べ物とは呼べないモノ』を食べて生活していた為、保護された時点で体重や体格が、同い年くらいの子猫に比べると小さい。

普通のキャットフードにはもう慣れているものの、それでも体重が平均にいくまでは、まだ少し時間はかかりそうであった。

また、かつおは彼が『元・野良猫』である事も見抜いていた。外の過酷な環境で生き延びようと努力すれば、当然その影響は体にも起こる。

小さい体ながらも、懸命に生きた彼の生命力は、かつおの心をガッチリ掴んだ。

だからこそ、かつおは彼の力強さを成長しても残していきたいが為、彼が生活する環境にも工夫を入れる予定を、譲ってもらう事を決めた瞬時には決めていた。

彼の家には既に、『猫の個室』用のケージがいくつも保管されており、それぞれ『大人ねこ用』『子供ねこ用』と、種類も様々である。

家に保管されているのはケージだけではなく、猫用トイレの予備・猫砂・餌入れ・水入れ・首輪・リード・キャリーケース・子猫用の餌・・・等。保護施設と同じくらい、物がしっかり常備されている。

その猫グッズの数々は、適当にネットやペットショップで買い揃えた物ではなく、かつお自身がしっかり吟味した上で、評判を調べたり、直に見に行ってよく確認して、かつおの厳しい目をクリアして購入した品ばかり。

だからこそ、まだ巨大なケージ猫用トイレに慣れていない彼に対しても、かつおは柔軟に対応できる。

それに、彼自身がもし気に入らなければ、オーダーメイドで作らせても構わないつもり。

今はおやつ入れやおもちゃを、個人の業者に頼んでオーダーメイドする人も増えている。

それは、世界にたった一つしかない、その猫の為だけに作られた品をプレゼントしたい・・・と思う、飼い主の愛情である。

そして、彼の健康状態を見て、どれくらいご飯を与えれば良いのか、おやつはどんな物がいいのか・・・等もしっかり考えている。


「そ・・・そうですか・・・

 それでは手続きを・・・」


職員もかつおの勢いに押され、すぐさま手続きの準備をする。

その間、かつおは自分の両手の上でリラックスしている彼を手放すだけで、数分は時間を費やした。それくらい手放したくなかったのである。

彼自身も、まさかこんな人間を自分が好いてしまうなんて、考えもしなかった。

さっき出会ったばかりなのに、淡々と自分の事をあれこれ語るかつおに、最初は鳴き声も出せないほど驚いていた。

しかし、それと同時にかつおの真剣な熱意が彼にも伝わり、「この人なら大丈夫」という確信を得られたのだ。

だからかつおの両手の上でウトウトしていても、全然怖くなかった。

かつおは息を止めながら、彼を慎重に慎重にケージまで戻し、起こさないようにゆっくり入り口を閉めると、ホッとため息をつく。

だが、あまりにも長時間息を止めていた上、動悸を起こす程緊張していた為、手続きの為にテーブルへ行きたくても、フラフラで上手く歩けない。

そんなかつおを見兼ねて、職員がかつおをテーブルの前まで行く。周囲の来場者は、かつおの様子を見て固まりながら青い顔をする。

だが、そんなのかつおにとっては気にする事でもない。運命的な出会いを果たせた喜びで、胸が張り裂けそうなくらい嬉しかったのだ。

今までも、かつおは『4匹』との運命的な出会いを経験している。その時の、『電撃』にも似た衝撃は、ある意味かつおにとっては『至高の快楽』であった。

そして、椅子に座ったかつおは、淡々と契約書や手続きを済ましていく。その最中、職員もあまり口やかましく色々と教えなかった。

何故なら教えたところで、「もう知ってます」と言われるのが目に見えているから。かつおの『猫に関する知識』も、ネット界隈ではかなり有名。

事細かに『里親』や『猫の飼い方』、『猫に関するトラブル』や『猫の病気』等も、『動画』や『SNS』で頻繁に配信している為、かつおに対して余計な口を挟むのは、ある意味『素人』が『猛者』に挑むようなもの。


そう、かつおの職業は 


『動画配信者』

しかも、配信しているのは『ゲーム』でもなければ、『ラジオ』でもない


家で飼っているネコとの生活を配信する

『猫動画配信者』


その人気ぶりは、県の知事が正式に『表彰』する程。かつおは動画で得た収益を、ほぼほぼ猫の為に注ぎ込んでいる・・・と言っても過言ではないのだ。

かつおの家で飼われている家猫に対してももちろんだが、保護猫や施設に対しての支援金だったり、譲渡会等への募金。

難病を抱え、手術しなければいけない猫をSNSで事細かに説明して、協力を募る・・・等。かつおの活動、かつおの人生は、もはや『全て猫の為』



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