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四ニャン 初の『友達』

「・・・なぁ・・・『新入り』・・・」


「・・・・・・・・・・」


自分と同じ種族を見たのも初めてだったが、初めて話しかけた相手にいきなり怒鳴られたら、人間でもショックを受ける。

彼は、外に出るのが怖くなり、寝床から一切出てこないまま、数時間が経過しようとしている。職員が声をかけても、全く動く気配を見せなかった。

母猫以外の猫に、勇気を持って声をかけた結果、心が完全にポキっと折れてしまったのだ。

そんな彼の様子を、横からじっと見つめている猫。怒りが治まったのか、勢いに任せて怒鳴りつけてしまった彼を心配していた。

だが、落ち込んでいる彼自身は『新入り』という言葉を、まだ全然知らない。

声をかけても何の反応もなかった為、隣の猫はもう一度声をかける。


「なぁ、怒ってるのか?

 ・・・さっきは、すまなかった。つい・・・」


その言葉で、ようやく自分が話しかけられている事に気づいた彼は、ゆっくりと寝床から顔を出し、隣のケースの中にいる猫の様子を伺う。

お隣さんは、短い尻尾をした、三毛猫であった。彼の姿も、三毛猫・・・とまではいかないが、白い体に黒い斑があちこちにアクセントとして入っている。

ネコによっては、『大きさ』も違えば、『柄』も『色』もそれぞれ違う。

それをつい最近知った彼にとって、自分とは違う柄のネコ、この保護施設で生活している全てのネコが、彼にとっては興味の対象である。


「僕・・・ごめん・・・その・・・」


「・・・お前、『野良』か? それとも『飼い』か?」


「『野良』?? 『飼い』??

 僕は・・・ずっと路地で暮らしていたから・・・」


「そうか、じゃあ『野良』だな。俺は『飼い』だ。」


「???」


会話の意味が上手く理解できず、首を傾げる彼。そんな彼を見兼ねて、その三毛猫が『野良猫』と『飼い猫』の違いを彼に教える。

彼はその会話の中で、何回も何回も驚いていた。

自分と同じように、外で懸命に生きている猫が沢山いる事、人間に飼われている猫がいる事、猫にも『柄』や『色』だけではなく、『雑種』や『血統』等、細かな種類がある事・・・等。

彼が驚く度、三毛猫はだんだん彼の反応を楽しむようになり、ついでに色々とこの施設の事も教え始める。


「此処はな、俺達みたいな猫が、人間に回収される場所だ。ちなみに、俺は『60日以上』此処に

 いる。」


「そっか・・・・・

 君は僕と違って、『かいねこ』なんだよね?

 君を飼っていた人は?」


「・・・・・さぁな。」


彼の問いを聞いた三毛猫の顔が、一瞬にして暗くなってしまった。その反応に気づいた彼は、慌てて取り乱してしまう。

だがそんな様子も、『先輩』である三毛猫にとっては、かわいい反応であった。

慌てた拍子に腑抜けた鳴き声を発したり、ケースの中を暴れ回ったり、三毛猫が今まで施設で知り合ってきた猫の中では、初めて見る反応。

それが面白くて、つい彼を黙って眺めてしまう。彼は、自分が生きてきた世界が、どれだけ小さかったのかを思い知らされたのだ。

そもそも、『食べ物の認識自体』がおかしかったのだから。


「そうか・・・

 まぁ俺も、『同じようなもの』を食べて生きてきたようなものだからな。」


「アレって何ていう食べ物なんだろう?

 茶色くて・・・あったかくて・・・良い匂いで・・・」


「前に人間から聞いたな。

 『うぇっとふーど』っていう食べ物らしい。」


「うえ・・・ふ・・・??」


「フフフッ・・・」


聞きなれない言葉に、思わず首を傾げる彼を見て、三毛猫は手で顔を隠しながら笑う。


そんな二匹の微笑ましい姿を、職員達は『驚いた表情』で見ていた。

何故ならあの三毛猫は、人間にも同族の猫にもなかなか心を開かない、施設の中では有名な『問題児』だったからだ。

もちろん、職員達も色々と手を尽くした。

しかし、彼の心に刻まれた『苦しい過去』はなかなか消えず、同族の猫にも牙を剥け、職員の手を引っ掻き傷でいっぱいにしている。

以前は、少しケース同士の距離が近いだけで、隣のケースにいる猫を引っ掻いたりして、大騒ぎになった事も。

それくらい、三毛猫は心を頑なに開こうとはしなかった。

しかし、三毛猫は彼の慌てふためく様子を、ただひたすら、穏やかな表情のままずっと見ている。職員達は、ただただ唖然としながら二匹を見守っていた。

もちろん、不安もあった。だが、しばらく様子を見ていると、そんな不安が不要である事が分かってくる。

不安から変わった安心感と同時に、職員達の『希望』が芽吹き始めた。「いつか三毛猫も、心を開いてくれるかもしれない・・・!!」と。


「・・・・・お前には、きっと良い飼い主が見つかるよ。」


「・・・『飼い主』?」


「『飼い猫』を飼う人間、それが『飼い主』って言うんだ。まぁせいぜい、それまでにそのちっ

 ちゃい体にご飯を詰め込んでおきな。」


「・・・うん! ご飯、いっぱい食べる!!」


三毛猫は、もう既に諦めていた。この施設に来た猫の、最終的な目標である、『飼い猫』になる・・・という目標を。

そもそも、三毛猫本人が願い下げだった。だから、職員や他の猫に対して、そっけない態度を取っても、別に平気だったのだ。

まるで、「僕は悪い子だから、怒られても叱られてもへっちゃらだ!!」と豪語する幼児の様だが、彼にとって『人間と共に生活をする事』は、『苦しい生活の幕開け』と同義であった。

だが、今回知り合った彼には、『愛される素質』が十分にあった。人嫌い・猫嫌いな三毛猫でも丸め込まれてしまう程の・・・


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