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俺が新撰組だ! 〜土方歳三は最後まで武士です〜  作者: 足軽三郎
第一章 京都にて 〜新撰組、活躍の時〜
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第十九話 とある秋の風景

「ここも手狭になってきたな」


 歳三は修練所を見渡した。

 一度江戸に帰り、新撰組の隊士の募集をかけた。

 それなりの応募があったのは良い。

 だが人数が増えれば、場所が必要になる。

 壬生の屯所では些か狭くなってきた。


「私は慣れてますけどね、こういう狭さには。ほら、試衛館の道場もこんな感じでしたよ」


「あそこと比べるな、総司」


 沖田の返答に歳三は笑った。

 試衛館はぼろ道場であり、確かに狭かった。

 しかしあの頃とは立場が異なる。

 池田屋事変から数カ月が経過した。

 今や新撰組は幕府直下の剣客集団として勇名を確立している。

 歳三はその副長であり、沖田は一番隊組長なのだ。


「そうですかね。あ、でも言われてればそうかな。もう試衛館時代とはやってることも違いますしね」


「分かればいい。伊東さんらも直に京都にやってくる。それなりの広さの場所に移らねばなるまい」


「ああ、伊東甲子太郎(いとうかしたろう)さんでしたか。江戸の道場畳んで参加するって覚悟決めてますね」


「そのくらいは必要だろう。新撰組の仕事は片手間ではやれん」


 歳三は伊東の顔を思い浮かべた。

 江戸で募集をかけた際に、山南敬助が是非にと推してきた人物である。

 剣は北辰一刀流免許皆伝の腕前。

 学もある。

 一時は水戸天狗党への加入を志したこともあった。

 その経緯から分かるとおり、尊皇攘夷論者でもある。


「土方さん、どうしたんですか。黙りこくっちゃって」


「何でもない」


 沖田に無愛想に答えた。

 考え続ける。

 伊東甲子太郎は確かに有能だろう。

 顔立ちも立派だ。

 弁舌も爽やかであり、門下生にも慕われている。

 切れ者なのは間違いない。

 だが、切れ過ぎはしないか。

 最近、歳三と山南の仲は良くは無い。

 表立ってはいないが疎遠になっている。

 その山南の推薦というのも気になった。


 "考え過ぎか"


 黒い思考が頭を占めるのは、自分が策略家だからだろう。

 歳三の脳裏には一つの考えが浮かんでいた。

 山南敬助が伊東と組む。

 彼らは北辰一刀流の同門である。

 近藤らを追い落とし、新撰組の実権を握る−−こういう筋書きだ。

 自分で考えておいていやになった。


「なあ、総司」


「何ですか、土方さん」


「お前みたいに俺も素直に生きていけたらな。少しばかり羨ましいよ」


「あ、何ですか、その言い方。人を馬鹿みたいに言わないでください!」


 沖田は憤慨した。

 歳三は「馬鹿にはしていない」と真顔で言った。

 話題を変える。


「ところで山南さんはどこにいるか知らないか?」


「山南さんですか。うーん、あ、そうだ。近所の子供に人形芝居を見せるとか言ってましたね。だから屯所の裏かな?」


「またか。よく飽きないな」


「元々子供好きですから。山南さんは」


 呆れ顔の歳三とは違い、沖田は笑顔である。 

 沖田も近所の子供とは仲が良い。

 もっとも彼の場合は石けりや鬼ごっこなどをするのだが。


 "山南さんは必要な人材ではある。だが、いいのか"


 沖田の言う通り、歳三は屯所の裏手に回った。

 既に十一月の下旬であり、紅葉もそろそろ終わりである。

 冬もすぐだなと思いながら歩くと、何人かの声が聞こえてきた。

 山南の声が子供達の声に混じっている。

 垣根を曲がり、そっと顔を覗かせる。


「それではね。今日はこの人形を使ってお芝居を見せよう」


 歳三の視線の先で、山南敬助が子供達に話していた。

 質素な絣の着物姿から新撰組副長と想像するのは難しい。

 誰にでも人当たりが良いのは山南の美点である。

 両手に竹ひごで作った人形を持っていた。

 子供達が群がる。


「どんなお芝居ー?」


「これお侍さんの人形かなー」


「お江戸で流行ってるのー?」


 ぴーぴーとうるさいが、山南は嫌な顔をしない。

 上手にあしらいながら、人形の説明をしている。

 こういった技術は歳三には無い。

 心和む光景だった。

 何も言わず、歳三は物陰から様子を見ていた。


 "俺とは確かに気が合わない。負傷以来、山南さんの存在感は薄い"


 副長としての任務は全て歳三がこなしている。

 はっきり言えば、山南の地位は閑職に近かった。

 正確に言えば、歳三がそのようにしたのである。


 "負傷してから山南さんは積極的ではなくなった。前線に出られないなら、せいぜい相談役にしかならない"


 新撰組を再編する時、歳三はそのように考えていた。

 二人の副長が同格では命令伝達が滞る懸念もあった。

 人当たりがいいので、山南は組織の潤滑油として置いておく。

 だが、新撰組が勇名を馳せた今、彼の重要性は低い。


「さあ、お立ち会い。源頼光、すらりと刀を抜いて鬼へと突きつけた。待てい、そこの鬼。これ以上の狼藉は許さぬ。この頼光と勝負せよ」


 山南が子供達に語り続けている。

 巧みに両手で人形を操りながらだ。

 器用なものである。

 どの子供も目を輝かせて見入っていた。

 山南が人として正しいことをやっているのは分かる。

 けれども、歳三の内心ではもやもやするものがあった。


 "山南さん、あんたそれでいいのか。志は多少異なる部分はあった。正直俺はあんたが好きじゃない。だが、あんたも武士だろう。子供相手に遊ぶだけでいいのか"


 大人しくしていてくれるのは助かる。

 反面、どうにも歯がゆい。

 自分が仕向けたことなのに身勝手ではある。

 けれども歳三はこの矛盾を処理しきれていない。

 江戸の頃を思い出す。

 山南は食客として試衛館に居着いていた。

「自分の剣を日本の将来に役立てたい。帝のご威光を立てて、現在の幕府一強体制から緩やかに政権移行出来ればいい」と話していたではないか。

 あの時の山南敬助はどこに行ったのか。


 "いいさ、山南さん。あんたは大人しくしていろ。血なまぐさい部分は俺がやる"


 苛立ちとある種の哀しみを噛み締めた。

 歳三はそっとその場を後にした。

 山南の声が晩秋の京都を遠ざかっていく。

註 実際はこの時期、山南は総長というポジションに就いています。ただいちいち何故変わったかを説明するのもテンポを悪くするため、この物語では副長のままです。

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