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俺が新撰組だ! 〜土方歳三は最後まで武士です〜  作者: 足軽三郎
第一章 京都にて 〜新撰組、活躍の時〜
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第十五話 奮戦

 近藤、沖田が池田屋の二階で暴れている頃。

 一階では永倉新八が奮戦していた。

 怒号と悲鳴が渦巻く中、長州藩士目掛けて刀を振るう。


「新撰組二番隊組長、永倉新八だ。大人しく捕縛されるなら良し。と言ったところで」


 苦笑した。


「今更大人しくする気などあるわけがないか。なあ?」


 呼びかけを挑発と受け取ったのか。

 長州藩士の一人が刀を抜いた。

 土間を挟んで向かい合った。

 間合いは約一間半である(一間=約1.8メートルのため約2.7メートル)。

 お互いの表情がはっきりと分かる距離だ。


 "たまらんな"


 ピリピリとした感触が永倉を包む。

 土間の土埃を通して、相手の殺気がこちらに刺さる。


 "こうまで激しい乱戦に自分が身を投じようとは"


 思考は一瞬。

 鍛え上げた身体が動いた。

 相手の動きは待たなかった。

 鋭い踏み込みに連動し、上段の構えから撃ち込む。

 気持ちいいほど真っ直ぐな剣筋だ。

 相手の防御が間に合う。

 素直な攻撃だけに読みやすかったのだろう。

 だが、ここからが永倉の真骨頂である。 


「がっ!?」


 相手が怯んだ。

 防御から返そうとしたが出来ない。

 永倉のあまりの剣撃に体勢が崩れたのである。

 恐るべき威力である。

 この一撃を以て、永倉は主導権を握った。

「ぜっ!」と次、そのまた次の連撃を入れる。

 相手の防御は間に合うが、それだけだ。

 返しを入れる余裕は無い。

 永倉の三撃目が入った時、相手の刀が吹っ飛んだ。

 握力さえも奪ったということである。


「いただく!」


 四撃目も先程と同じ。

 なんのてらいも無い真っ向からの面打ちだ。

 だがそれで十分だった。

 綺麗に相手の脳天に入る。

 ゴシュ、と鈍い音と共に仰け反った。

 額から入った傷は頭部の半ばまで届いている。


 永倉の学んだ神道無念流は力の剣術と称される。

 その名に恥じず力強い撃ち込みを特徴とする。

 相手の防御が間に合っても構わない。

 そこを起点に体勢を崩す。

 無論、そのためには卓越した膂力と鋭い剣撃を必要とするのだが。


「ふうぅ……」


 長く呼気を吐き出した。

 だが休む暇も無い。

 別の相手が向かってくる。

 仲間を殺られ、完全に頭に血が上っているようだ。

 小手、これは鍔で受ける。

 押し返そうとした。

 それより先に相手が退く。

 上手い。

 逆上していても冷静だ。

「やりやがる」と永倉は舌打ちした。

 ならばここは。


 構えを変えた。

 上段の構えから青眼へ。

 剣先をぴたりと相手の方へ向けた。

 相手は自分の左を取ろうと動く。

 だが身体を回し、側面は取らせない。

 じりじりとした攻防が続いた。

 その均衡が突然崩れた。


 焦れた相手が突っかかる。

 声にならない叫び声がほとばしった。

 上段の構えは奇しくも永倉と同じ。

 だが永倉の動きは相手よりも速い。

 それも動き出しを読んだ上で、純粋な反応速度で上回ってだ。


「ぶち憎々しいんじゃ、おどりゃあ!」


「遅い!」


 ゴ、と永倉の剣が唸った。

 青眼の構えから真っ向からの面打ち。

 恐ろしいほどの剣速が乗っている。

 鍛え上げられた体幹と膂力が可能にする絶技であった。

 相手の面打ちと打ち合う。

 弾き合う、いや、その暇さえ与えず弾き飛ばした。


 "殺った"


 まごう事なく確信。

 その確信に沿って、最後まで剣を振り下ろした。

 鎖骨から絶ち割り、背中まで刃が通っていた。

 豪剣と呼ぶに相応しい神道無念流の真骨頂である。


「次!」


 死体を蹴り飛ばし、永倉は叫んだ。

 返り血を拳で拭う。

 血の跡が頬に残り、凄惨な面持ちだ。

 ある意味壬生狼の異名に相応しい。


「いやあ、永倉さん流石に強いですね。これなら安心だ」


「何を悠長なことを言っているのだ、藤堂君。一階は我々二人しかおらぬのだぞ」


「無論承知しております。っと、危ない」


 永倉と話しつつ、藤堂平助は敵の攻撃を避けた。

 この青年も腕利きの剣客である。

 生真面な性格であり、剣は北辰一刀流を学んだ。

 つまり副長の山南敬介とは同門である。


「山南さんの分まで働く所存。いざ!」


 眼光鋭く、藤堂は敵に斬りかかった。

 背後の永倉のことは特に気にしていない。

 下手に庇おうとすると、永倉の動きの邪魔になりかねない。

 むしろ自分が好きなように暴れることにした。

 敵の注意を惹きつければ、それが永倉への援護になる。


 "来い"


 一気呵成の攻めより、藤堂は待ちが得意だ。

 剣先をゆらゆらと揺らし、相手を牽制する。

 鶺鴒の尾と呼ばれる一刀流独特の動きである。

 どれほど足捌きを使おうとも、藤堂は隙を見せない。

 崩れない。

 次第に相手が焦り出す。


「っ、ちぃ!」


(ぬる)いな!」


 飛び出してきた相手の剣を横薙ぎで迎撃。

 返す刀の下段斬りで足を払った。

 浅い。

 皮膚一枚掠めたのみ。

 だがそこで止まらない。


「しいいっ!」


 左足を軸に時計回りに回転。

 相手にわざと背中をさらす。

 わざと作った隙が生じる。

 それをも計算に入れて後方に跳ぶ。

 着地待たずの右片手の横薙一閃。

 飛び込んだ相手の手首を払った。


 "手応えあり"


 切断まではいかない。

 だが、相手は苦痛に右手首を抑えている。

 もはや戦闘不能だろう。

 思い切り腹へと蹴りをぶち込んだ。

 剣客らしからぬ力技でぶっ飛ばす。


「足癖が悪くなったな」


 永倉がぼそりと突っ込む。


「使えるものは何でも使う主義でしてね」


 藤堂は真顔で答えた。

 戦闘開始から四半刻(約三十分)。

 池田屋の屋内にて血煙は濃くなる一方だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 池田屋事件  新撰組といえばこれですよね [気になる点] この時点で結構いい刀使ってるのか? 刀がよく無事だこと 「虎徹」と「之定」は有名だけど
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