第7話〜享年22歳、新生8歳
転生してから十日たった。
どうにかボロは出さずに過ごせてはいる、と思うが、そろそろ我慢の限界だ。
これのどこが自由じゃ!
朝から晩まで勉強、剣術、魔法に習い事。
しかも就寝中以外は侍女が付いてくる。
着替えはおろか入浴までサポートされるとかプライベートも何もあったもんじゃない。
これでアルの記憶がなければとっくの昔にこの屋敷を抜け出してただろうな。
今の俺の状況は違和感なく二人分の記憶と経験が一つになってるというややこしいものだ。
普通は不都合が生じて混乱の一つも起こりそうだけど、自称神がうまく調整したのかもしれん。
それに見た目が子供な所を除けば、アルの記憶を持ってるお陰で言語は通じるし、8歳という年齢の割りに体は動く。
それでもさっさと屋敷を出て自由にならないのは、ある意味でこの環境自体は好都合でもあるからだ。
◇◇◇
アルタ=ベル=カスターニャ。
年齢は数えで8歳。
地方貴族の三男で、二人いる年の離れた兄の邪魔にならないよう別邸で習い事漬け。
年に数回しか会わない父親は悪人と言うわけではないが、アルのことを兄たちの予備としてしか見ていない。
母親はアルが生まれて数年で流行り病で死去。
この別邸は元々病弱だった母親の療養目的で用意されたものだ。
ある意味放置されているようなものだが、決められた習い事でアルの一日は埋められている。
内容的に大したことはやっていないし、中身は一応成人してるわけだから簡単にこなせるが、面倒な事この上ない。
まぁ屋敷の中ではほぼ途切れることなく監視されてるようなものだし、8歳の子供がいきなり要領よく動き始めても不審に思われるだろうから適当に手を抜いてるけどな。
以上が俺が転生し、記憶と体を引き継いだアルタことアルの現状になる。
つまり暮らしに困ることはなく、衣食住が満たされ、さらに生きていく上で必要なものを学べる環境にあるということだ。
習い事ばかりなのも、この世界で生きていくのに必要なものだと思えば納得できる。
貴族の三男坊で予備扱いってのは自由な人生を送るには意外といいかもしれない。
無一文で放り出されたり、どこかの村人になって一生働き詰めになるよりはずっといい。
とりあえずはこの世界での成人である15歳までは、こつこつと凡人として爪を研いでいくとしようかね。
◇◇◇
まぁそれにしても、
「まさか貴族に転生するとはね………」
宮嶋崇、享年22歳。
生まれ変わったら貴族の三男坊(8歳)になりました。
誰に言うでもなく、そう呟いてみた。