第15話〜家庭教師ボアの推察
ボア=アイン=アカードと申します。
私は昨年イナホ学院を次席で卒業し、お父様の進めもあって伯爵家の三男、アルタ=ベル=カスターニャ様の家庭教師を勤めることになりました。
今年で19歳になります。
アルタ様はまだ8歳で、学院に入学するには後二年あります。
実に可愛らしいですね。
初めてお顔を拝見した際には性別を聞いていたにもかかわらず女の子と間違えてしまいそうになりました。
まるで精巧なお人形のようで、きっと抱き締めたら夢心地に………コホン。
しかし、貴族のご子息であるならば家庭教師を付けられるにはやや遅いくらいの年齢。
もっとも、アルタ様は三男ですので、年齢的には妥当と言えるかもしれません。
熟練の家庭教師ではなく、卒業して間もない元学生に教えさせている辺り、雇い主であるアルベルト様は勉学についてはアルタ様にあまり期待はされてないのかもしれませんね。
一介の家庭教師風情が詮索していい事柄でもありませんが。
もしかしたらアルベルト様はアルタ様を騎士にしようとお考えなのかもしれません。
何度かお話しした剣の指南役であるロバート様はとても高名な方ですし、騎士になるならば魔法も使えて損はありません。
勉学も必要ではありますが、重要なのは剣の腕前と素質ですから。
あの小柄で愛らしいアルタ様が成長なされば男女問わず目を奪われるような麗人のようになるのではないでしょうか?
そうしたらきっと男ばかりの騎士団の中で、性欲をもて余す者たちに囲まれて衆道の道へと誘われて………。
………コホン。
アルタ様はお勉強や習い事を複数掛け持ちしているようですが、私は午前に座学を全般的にお教えさせていただいています。
まだ勤め始めてからほんの半年程度ですが、アルタ様は聡明な方で、私がお教えする内容をまるで予め知っていたかのごとく吸収してしまいました。
やや苦手なご様子でしたイナホ王国の歴史と地理学も今ではすらすら暗唱してみせてくれます。
そればかりかまだ入学前だというのにとても高度なご質問をされることもあります。
その都度私はみっともないことですが、答えに詰まってしまうことが多々あります。
慌てふためく私のことをアルタ様はにこやかに眺めているのですが、これではどちらが大人なのか分かりませんね。
アルタ様は神童といってもいいほどの頭脳をお持ちでした。
時おり無邪気なご様子で私に抱きつき、胸元に顔を埋めてくることもありますが、アルタ様のお母様がすでに亡くなっていることは聞き及んでおります。
そんなところは年相応に母親の温もりが恋しいのでしょう。
もう私が就学前にお教えできることもあまりないのですが、試しに学園で習うような高度な内容をお教えしてみましょうか。
アルタ様はそれすらも簡単に修めてしまいそうですが。
どうやら私は、アルタ様に母性のようなものを感じているようですね。