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3話 姉弟は冒険者組合へ向かう

日常回=イチャイチャ。

こう思ってください。いいですね?

 2人が最初に向かったのは古着屋。

 門番にしても、街中で歩く時にしても、高確率で人が振り返る。その理由は、紗香と優花が美少女だからというのも当然あるが、質のいいワンピースを着ているのも理由の1つだろう。


「な、何で、僕までスカートなの……?」


「もちろん、尻尾があるからですよ?」


 鼻歌を歌いながら優花の服を選ぶ紗香。

 対して、ミニスカートは勘弁して欲しいと思う優花。……現実とは残酷なものだ。尻尾があるせいでスカートしか穿けないのだから。

 まあ、尻尾穴という選択肢を思い付かないように、紗香が言葉巧みに誘導しているのだが。


「あ、これなんて良いんじゃないですか?」


「で、出来るだけ地味なのでお願い……」


「えー? どうしましょうかー?」


 結果を言うなら、優花の望み通りになった。

 紗香、街に入る前の仕返しが出来ただけで満足な様子。ただ、着飾るのはお金が溜まってからというだけで、今は辛うじて首の皮1枚繋がった状態なのだ。


 残金だが、初期は2人合わせて2000エル。服が400エルだったので、現在は1400エル残っている。

 古着屋の店員に聞いてみると一人150エルで泊まれる宿があるそうなので、遅くなる前に泊まる場所を確保しようとそこに向かう2人。


 現在時刻[13:42]


 宿に入ると、年季を感じる……言い換えると、内装がボロかった。


「いらっしゃいませ」


「えっと、2人部屋って空いてますか?」


「ええ。1部屋だけ空いてます」


 200エルを払いながら、意外と空いてないなと思った2人。

 亭主に話を聞くと、冒険者組合と言う、ファンタジー小説に出てくるような組織があるらしく、冒険者の中でも稼ぎの少ない人がこういう安宿に泊まっているのだとか。


「冒険者、ですか……」


「これは行くしかないね」


 異世界という前提で考えるなら、簡単に仕事を得られるチャンスなのだ。そうして次の目的地が決まった所で2階の部屋に入る。


 汚い訳では無いが、パッと見ただけで老朽化が目立つ。小さなテーブルと椅子が2つあり、ベッドと合わせると残りのスペースはほとんど無い。


「まあ、安いから仕方な……い?」


「ベッドが……」


 戸惑いの声と共に2人が固まった。

 何故か、ベッドが1つしか見当たらないのだ。先に言っておくと、部屋を間違えたりはしていない。


「そういえば、聞いてた話より100エル安いのはどうしてかと思ってたんだけど、こういうこと?」


「ゆ、優くん、どうしますか……?」


「どうしようか……」


 一緒に寝ること自体は何の問題もない。

 2人が躊躇っているのは、一緒に寝ると"気分が盛り上がってしまう"かもしれないからだ。盛り上がった後にどうなるかはちょっと言えない。


 悩んだ末、優花から切り出す。


「僕は、さや姉と一緒に寝たいかな」


「わ、私も、優くんと一緒がいいです……」


 少しの間見つめ合った2人は、赤くなった顔を逸らす。


「あれだね、お金が無いから仕方ないとは言え、お風呂がないのは辛いかも……」


「そ、そうですねっ! いっぱいお金を稼いで、もう少しちゃんとした宿に移りましょう!」


「その言い方は怒られるんじゃ……?」


「え? ……えと……さっ、早く行きますよ!」


「相変わらず、強引な誤魔化し方だなぁ……」


 強引でも無理矢理でも、優花がそれで誤魔化されているからこそ、紗香の誤魔化しスキルは熟練度最低なのだ。

 今回も例に漏れず、ニコニコしながら紗香の後を追う。


 ……その前に、慌てて戻ってきた紗香と着替えだ。


「はぁ……どうして僕が女の子に……」


 程よく肉のついた瑞々しい体。


 シミひとつない真っ白な肌。


 モデル顔負けの理想的な脚。


 女なら誰もが羨むくびれた腰。


 それなりに大きく形の良い胸。


 自分で見ていて照れてしまう程に整っている。自分の体と言うよりも、紗香を見ている時に近いだろうか。不思議な気持ちになった優花は、本当にこれが自分なのかと触って確かめ始める。


「優くーん、何してるんですかー?」


 優花が1人で唸っていると、背後からの奇襲。


「ひぅ……さ、さや姉、どこを触ってるの?」


「おっぱいですよ。それにしても……可愛い声でしたね?」


「いや、さも当然かのように言われても……声は、うん、聞かなかったことにして」


「絶対に忘れてあげません!」


 実にいい笑顔である。

 紗香の中では優花=可愛いであり、多少女の子らしい悲鳴を上げたところで、『優くんが可愛すぎて辛いです〜っ!』と1人の時にベッドの上を転がるだけだ。


「意外と大きい……早くブラも買わないといけませんね。合うのが売ってると良いんですけど……」


「さ、さや姉、まだぁ……?」


 優花の震え気味な声を聞いた紗香は、何気なく胸の一部を触って理解してしまった。


「……こんなに硬くして、気持ち良くなっちゃったんですか? 大きさを確かめてただけなのに」


「さや姉に、触られてるんだから……当たり前、でしょ……?」


「っ……ふふっ、嬉しいです、優くん……」


 軽く意地悪しようと思ったら、予想外の返答にキュンとしちゃったお姉ちゃんの図。更に、優花をギューッと抱き締めて幸せオーラを撒き散らす。

 そして優花は、『いつまでこの格好で居れば……?』とパンツ1枚しか穿いていない自分の体を見下ろす。


 この妙な状態は、5分ほど続いたそうな。


 着替えたのは先程購入した地味めな服。

 だがしかし、2人が美少女故か、あるいは紗香のセンスが良いからか、近くで見なければ安物の古着には見えない。


 視線を感じながらも歩く事10分。


「……冒険者組合の建物はあったけど、その隣にあるのってダンジョンの入口かな?」


「あれで違うものだったらビックリですね」


 地下へ続く道が閉ざされていて、その門を数人で警備しているのが見える。出入りするのも武装した者だけと来れば、ダンジョンである事はすぐに分かる。


 ダンジョンは、2人がプレイするつもりだったゲームで重要な役割を持つ。この世界がゲームと同じかは分からないが、ゲームでの役割はこうだ。


 1つ、地上の魔素を少なくすること。

 魔素とは、空気中に漂う魔力の中で負のエネルギーと言っていいもの。魔素が溜まると魔物が生まれやすくなり、あまり溜まり過ぎると凶悪な魔物になることも。

 そんな魔素を吸収してくれるのがダンジョンという訳だ。勿論、ダンジョンに溜まっても魔物は生まれるが、地上のどこに溜まっているかも分からない状態よりはマシである。


 2つ、有用なアイテムを宝箱として配置。

 さすがに地上の魔素全てを集中するのは危険なため、武具や装飾品、希少な素材等に変え、それを入れた宝箱をダンジョンのどこかに配置するのだ。

 原理は不明だし、誰がそうしたのかは異世界となった今では不明である。だがしかし、あると便利なのは間違いない。


 他にも、何かがあるとか無いとか。……発売して間もないゲームだったので、そこまで情報が出てきていないのだ。


 何はともあれ、冒険者組合に行くしかないだろう。


 そう結論付けた2人は、建物の扉を開ける。


「うっ……」


 途端、アルコール臭が鼻をつく。

 白狐の優花は涙目になる程度で済んだが、もしも犬の獣人であれば悲惨なことになっていたかもしれない。


 見渡してみると、酒場と言われた方が納得出来る程に、顔を真っ赤にした酔っ払いやバカ騒ぎしている者達が居た。

 しかし、テンプレのように絡んで来る様子は無く、どちらかと言えばお祝いをしているような雰囲気だ。

 漏れ聞こえる話から察するに、冒険者同士で結婚をしたらしい。


 それなら仕方ない、と納得しつつ(優花はちょっと残念そうに)、受付と書かれた場所まで進む。


「冒険者組合、キーリカ支部へようこそ! どのようなご用でしょうか?」


 ここで明かされる街の名前。

 受付嬢はごく普通の若い女性で、同僚が仕事を放り出している中、彼女1人で真面目に仕事をこなしているようだ。優花達も同情せざるを得ない。


「ホント、幸せそうな顔しちゃって……私は昨日フラれたばっかりだっていうのに……」


 ……どうやら、あそこに混ざりたくないらしい。


「普通過ぎる? 君と居ても面白くない? 理不尽よ! 普通の何がいけないわけ!? 私だって頑張ってるのよ!?」


 今度は別の意味で同情する2人。


「……し、失礼しました。どのようなご用でしょうか?」


「あ、無かったことにするんだ」


 同情の視線に耐えられなかったのだろうか、最初と同じ笑顔を浮かべる。今しがた聞いた話を踏まえると、その笑顔に何かが含まれている気がしてしまう。


「え、えっと、登録って出来ますか?」


「はい! 正確には、試験に合格する必要がありますが」


「「……試験?」」


(ダンジョンの知識とかないんだけど……)


 もしも筆記試験があれば、どう頑張っても受かることはないだろう。この世界での一般常識だとしても、来たばかりの2人には無理がある。


 だが、そんな心配は杞憂だったらしい。


 試験は10日に1度行っているようなのだが、その内容はダンジョンでの戦闘だからだ。ベテラン冒険者が戦闘センス、判断力、人格等を見極め、危険な時にはフォローに回る……との事。


「試験は今日の3時からとなっています」


「きょ、今日ですか!?」


「試験まで30分も無いじゃん……」


 ある意味では丁度いい。

 冒険者にならなければダンジョンにも入れず、する事もあまりないのである。そんな訳で、資料室にて僅かな時間を有効活用することにした2人。

 時間になれば呼ばれるので、安心して没頭できるだろう。


 見始めたのはステータス関連。


 まず、この世界ではステータスを確認する術は多くない。優花達のように自分で確認できる者は『鑑定』のスキル持ちだけ。

 一般人向けに作られたのがステータス測定器……だったのだが、作成費が馬鹿にならず、大きい街の冒険者支部や、騎士団などにしか置いていない。


 次にスキルの取得方法。

 基本的には職業レベルを上げることで手に入るのだが、スキル本という物でも取得可能な場合がある。

 気軽に手の出せる値段では無いが、才能さえあれば取得することは出来る。才能の目安としては、自分が選択出来る職業にあるスキルだ。


「確か……鑑定士の職業ならあったかな? うーん、鑑定はあると便利そうだし、偽装とかも欲しいなぁ……」


 取得経験値上昇は、バレるとあまり好ましくない状況が出来上がるだろう。鑑定は……確かに便利だが、テンプレというのが1番だったり。


 すると、優花が顔を上げた直後に扉が開いた。


「――試験を受ける女が2人居るって聞いたんだが、お前らで合ってるよな? 俺は今回の試験官、リチャードだ」


 ……どうやら、試験官の方から来てくれたらしい。

あ、本来は犬と狐の嗅覚は同じくらいらしいんですけど、白狐はそれ程でもないです。

次回は、7/7 20:00に投稿予定。


評価、ブクマ、感想、どれもありがとうございます!

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