プロローグ 自分勝手なあいつ
初文字書きです……!
色々足りない点等あると思いますが、何卒……
「……!」
気がつくと、そこは白い空間だった。人が三人いる以外、何も無い。
「あ、薪くん。ごめんね、突然呼び出しちゃって」
そう言って笑うのは、俺の親友の椎名朝陽。中学高校が同じで、俺とは親友と言っても差し支えない間柄だ。
というかちょっと待て。俺は今家でご飯を食べてて……?なんでここに……。んー。あれ、あれぇ?
意味が分からず困惑していると、朝陽が笑いかけてきた。
「ははは、驚いたよね。ごめんね突然」
「あ……ああ。っていうか、これどういうことだ?」
本当に訳が分からない。俺は家で晩御飯を食べていたはずだが……。
「いやー、ねぇ、ちょっと聞いてよ。あのね、僕召喚されちゃったんだ、この女神様に。ヤバくない?」
彼は少し横に座っている女性を指差した。
端整な顔立ち。ふわふわとした薄い紅色の羽衣。長く揺蕩うしなやかな黒髪。女神だと言われてすぐに納得できるほど、人間離れしたその美貌。
「いや意味わかんない。召喚されたってどういう……」
「なんか異世界に行けるんだって!僕が!すごくない!すごくない?」
これまで見たことのないほど目を輝かせている。
「異世界?は?いや、そんなものあるわけ……」
「あるわ」
「えっ」
横から口を挟んできたのは女神。
「異世界はある。もっとも、さっきまで君たちがいた世界と別の世界を『異世界』と定義するなら、の話だけどね」
「ま、まあ異世界つったらそうだろうな」
「そう。分かったならいいわ。私はレットよ。君たちがいた世界と、もう一つ別の世界の二つを管理している女神よ。よろしくね」
「お、おう」
神様に自己紹介されちゃったよ俺。
頭をぽりぽりと掻くような仕草をして朝陽が言う。
「そう、それでー、ちょっと一人で異世界行くのは寂しいなーって思ったら、その女神様が一人くらいなら連れてこれるわよって言ってくれてさ、だから薪くんを呼んだんだ」
「へー」
「それでさ、良かったら僕と異世界に……」
「嫌だ」
「そ、即答!?」
「当たり前だ。なんで俺が異世界に行かなくちゃならんのだ」
「えー?いいじゃん異世界!二人で冒険してさ、モンスター倒してさ、魔王まで倒しちゃったりして!えへへ」
俺は『異世界』という単語に舞い上がり我を忘れている親友を、奇しくも冷たい目で見ることしか出来なかった。
「もういいわ、帰る。異世界は一人で行ってろ。あ、でも明日の学校はちゃんと来いよ」
「ねえ、お願いだよー。こんなチャンス二度と無いよ?いいのそれでも。後悔しない?」
「しないわ。もういいだろ。行きたいなら一人で行ってろよ。俺さーまだ今日やることあんだわ」
朝陽にお願いされればいつもなら二つ返事でOKするのを、ここまで無意識に拒んでいるのは、果たして夕食を邪魔されたからだろうか。
「とりあえず嫌だ。異世界には行かない。現世にやり残したことも、言い出したら今日が終わるくらいある。だからお願いだ。早く家に帰せ。どうにもここは居心地が悪いんだ」
改めて辺りを見回す。白かった。
変な空間だ。気持ち悪い。
「そっか……残念。そんなに嫌がるとは思ってなかったけど、ま、しょうがないね」
「あ、ああ」
「じゃあ女神さん、いいよ。やっぱり異世界は僕一人で行くから、薪くんは元の世界に帰してあげてください」
「……無理」
「「え!?」」
「だから、無理よ。言い忘れてたけど、この空間は一方通行なのね。君らのいた世界から、別の世界へ行くね。だから、む、り。諦めなさい」
「おい朝陽どういうことだ」
「いやそんなこと言われても!知るわけないじゃん!僕も今言われたんだよ!?」
「『知るわけない』だと?お前それはないだろ……俺を呼び出したお前の責任だろ……」
「いや、僕は悪くない!悪いのはこいつだ!!こいつが最初に言わなかったのが悪いじゃん!」
朝陽は真っ赤な顔で女神を指差していた。
「はぁ?貴方が最初に聞かなかったんでしょう?私は知らないわ。貴方が勝手にやったことよ。私に責任を押し付けないでもらえる?」
赤かった顔が、更に朱に染まる。
「そ…そんなことあるかっ!僕は知らない!悪くない!悪くないだろ!」
「一回落ち着けよ朝陽。今まず優先するのはなんだ?巻き込まれた俺だろ?」
「チッうるさいなぁ黙れよ!!あーー」
「おい朝陽!!お前なんなんだよ。頭大丈夫か?まずは俺に、ごめんなさい、だろ」
「もううっさいなぁ!!今更謝って何になるんだよ。どんまい薪くん、君も強制的に異世界だ!はは!」
あぁ駄目だ、落ち着け、落ち着け、ふぅーー。ふぅー。大丈夫だ。キレるな、落ち着けよ俺。
ふぅ。大丈夫。冷静に。
「おい、もうそろそろその辺に……」
「うるさい!なんなの薪くんはまじでさっきから一人で冷静気取ってさぁ!それ、うっざいんだけど」
瞬間、俺の中にある、何か大事なものがぶっ壊れた気がした。口の中から勝手に文章が零れ落ちていく。
「はぁ、おい朝陽。お前死ねよ。自分の欲望のために勝手に人様の人生ぶっ壊して一人で焦って狂って神に責任転嫁したかと思えば今度は被害者様に逆ギレか?いい加減にしろよ」
「……分かった。あーあー分かりましたよ。いい加減にするよ。もう異世界行くわ。じゃあね、ま、き、くん。はは、精々頑張って、ね」
そう言って朝陽は急に走り出す。何もないところに、いきなりゲートが出現した。朝陽はそれに飛び込んでいき、ギュン、という音と共に、消えてしまった。
この空間には俺と女神の二人が残された。
「え……なんだったんだ、あいつ……」
「……ふ……ふふ……」
すると、気味の悪い笑い声とともに女神は話し出した。
「ふふ、いいもの見せてもらったわ。貴方は薪と言ったかしら、ありがとう」
どうしたんだいきなり。
「少しズルをしてしまったけれど、いいわ。満足したわ。ここまで来ると、こいつも使い捨ては勿体ないわね……」
「お、おい。何をさっきからブツブツと……」
「あら、ごめんなさい?それにしてもどうするの?どちらにせよ貴方も異世界には行かなくちゃならないわよ」
「あー……やっぱそうかぁ」
「そうね、やっぱり少し可哀想だわ。ちょっとだけなら手助けしてあげてもいいけど」
「ありがたい同情だなぁ……どんな手助けですか」
「居場所を作ってあげるわ。異世界に」
「居場所?」
「みんな貴方のことを知っている、居場所。きっとここなんかよりずっと心地いいわよ」
「そう……か。どちらにせよここは出るんだもんな。んじゃあ、お言葉に甘えて」
「じゃあ、あとはあのゲートに向かって走るだけね。貴方の居場所はもう作ったわ」
「早いな。どんな立場なんだ?」
「ーー魔王、よ」
「え」
気付いた時には足が勝手に動いていた。ゲートが迫ってくる。色鮮やかな渦巻きに吸い込ま……れ……る…………。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
二人が消え、その空間には神だけが残った。
「はぁ…っ!くぅー……最高なものを見せてもらったわ…っ!!」
一人、先程の出来事に興奮を抑えきれていなかった。
「あの子最高ね……本当……やっぱりいいわね……」
彼女は人間の『修羅場』を見るのが好きだった。
毎日世界を覗いては、人間同士のいざこざを眺め楽しんでいた。
「でもやっぱり真近で見ると……こう、迫力が違うわ!」
しかしそれも数百年経てば飽きるもの。
彼女は新たな刺激を得るために、人間をここに呼ぶことに決めた。
適当に選んだ人間ーー椎名朝陽。
もう一人召喚しようと思ったが、彼は自分からもう一人連れてくることを望んだ。
それがーー黒奈薪。
あとはどちらかを追い込んで様子を観察するだけだ。
「この空間に人間は長くはいられないからしょうがないけど、異世界ではどのような修羅場を見せてくれるのかしら……ふふ……楽しみが増えたわ」
女神は一人で笑っていた。
いかがでしたでしょうか。
実はもっと明るくしたかったんですが、思いの外ダークになってしまいました……。
次回からはきっと明るくライトに進むと思います!(笑)