表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
再生者の異世界転生  作者: 風林太郎
1/1

はじめに


「や、やめてお願い痛くしないで」


この声は妹のものだ。奴が帰って来たのだ、日中は何をやっているかは知らないが夜8時を過ぎると必ず帰ってくる。


「ウルセェ!今日の俺は気分が悪いんだ何発か黙って何発か殴らせろ!」


そう、毎日のようにコイツは俺と妹をストレス発散のためにサンドバックさながらボコボコにしに帰ってくるのだ。


「パパ、みゆ今日はいい子にしてたんだよ?だからお願い殴らないで?」


「親には敬語を使えと前に言ったよなぁ。このクソガキが!黙って殴られてろ!」


このように、このクソ親父はとにかく何かと理由をつけて暴行をしてくる。今日は、たまたま廊下に出ていた妹が運悪く見つかってしまったようだ。


それ見ろ始まった。


「お前らガキはなぁ、こうやってお父様に黙って殴られて殴られてればいいんだよ!」


「い、いやぁ!」


みゆは、逃げようとするがまだ幼いく、小さい体ではとても大人の男の手からは逃れられない。すぐに捕まえられ、グッと胸ぐらを掴まれ壁に勢いよく押さえつけられる。


「けふっ」


っと肺の空気が抜ける音がする。続いてドゴッ!という嫌な音がする。


「うぐ、うげぇぇ」


鳩尾に強烈なパンチが1つ吐いてしまうのも仕方ない。しかし…


「うっわテメェ!服が汚れちまっただろうが!どうしてくれんだよ!」


「ごべんなざぃ、ごべんなざぃ〜。」


妹は泣きながらクソ親父に謝罪をするが、彼方はさらにイライラを募らせたようで、意地汚くも服で肌が見えないような部分ばかりを狙って殴り始めた。

そして数分後クソ親父は満足げに部屋を出て寝室へと入っていった。最悪だ、またなにもできなかった。とりあえず妹の元へとかけよる。


「大丈夫か?」

「うん…大丈夫だよお兄ちゃん」


チラととみゆの体を見る酷い有様だった。新しいモノは皮膚の中に血が滲み内出血して赤くなっていた、そして赤黒く痣のようになっているのは今まで殴られて来た跡だろう。また、そんな跡があるのは妹だけではなかった俺も無数の切り傷、擦り傷、打撲の痕が痛々しく体に残っていた。

そんな妹を見ていると、止まらぬ悲しみと怒りとがこみ上げてきた。悲しみは、なぜ俺たち兄弟が惨めな思いをして暮らさないといけないのか、怒りは妹を助けようとしなかった自分へのものだ。


「お兄ちゃんそんな顔しちゃダメだよ。みゆは、ちゃんと元気だから」


みゆは、ニコッと笑ったしかしそれは見るからに空元気であった。笑顔は引きつり今にも泣きそうだ。もうダメだと思った。我慢の限界だと思う。もう何年こんなこ事を繰り返して来ただろうか、今年で俺は15才、みゆは8才になる。

クソ親父は俺が11才の時に俺の母と離婚し、みゆの母と結婚した。しかし、みゆの母は浮気性だった。夜は帰って来ず朝になると、決まってきつい香水の匂いを家の中に漂わせて帰ってきた。

クソ親父は怒った。当たり前だ浮気なぞされて嬉しい人間はいない。早いものだった半年もせずに離婚した。離婚したと言うより、みゆの母の方がある夜から姿を見せなくなったのだ。

その頃からだ。この終わるのかもわからない虐待という名の地獄は。もういいだろう、そろそろ限界なのだ自分が痛みに悶え苦しむのも、妹が殴られ体も心も壊れていく様子を間近でマジマジと見せつけられるのも。


よし、決めた。終わりにしよう。この終わりのない地獄に終わりを。

そして、みゆにこう言った。


「あのなお兄ちゃんな…」




翌日。

クソ親父はいつもどおり俺たちを殴りに来た。俺はキッとクソ親父を睨むすると。


「なんだぁその目は?あぁ?そんなに俺になぐられてぇのか!」


アホだ。ガキの安い挑発に簡単にのってしまう。まぁ、これも計画どおりだ。


「あぁ、そうだな」

「クソがぁ!」


クソ親父が飛びかかってくるそれを、うまくサイドステップでかわし後ろ手に持っていたクソ親父の飲み散らかした酒瓶を振り上げた。クソ親父もまさか避けられるとは思っていなかったのだろう、うつ伏せに倒れいい具合に後頭部を晒している。


一振り。


ガッシャーン!と大きな音を立てクリーンヒット、まともに食らった頭部から血を流しクソ親父は動かなくなった。


やってしまえば実になんて事はなかった。

しかし、これで怯えて暮らすことも無くなると考えると、それだけで心が軽くなった。


「みゆ出ておいで」


トイレに隠れているように言ったみゆが出てくる。周りを見渡しクソ親父を見つけ「ひっ」と声を上げたがただそれだけだ。みゆが俺に駆け寄って抱きついてきた。


「ごめんねお兄ちゃん…ごめんね…」

「いいんだ、みゆこれでよかったんだ。」


殺しは重罪だということ は充分に理解している。だが、これ以上良いやり方がもうわからなかった。心は壊れていた。

俺もみゆを抱きしめ泣いた。ここ数年泣いたことがあっただろうか?わからない。


「みゆ、もう大丈…」


顔をあげて言葉を発した時にはもう遅かった。みゆの背後に、砕けた酒瓶を大きく振りかぶり血を滴らせたクソ親父が見えた。

ザン!目の前には酒瓶の破片で首元を切られたみゆがいた。


「み、みゆぅ!」


すぐさま傷を見るが絶望した。ドクドクと赤い鮮血がとどめなく出てきて、止まる気配がまるでない俺は必至に傷に手を当て「治れ治れ治れ!」と念じるがそんな事があるはずも無く、どんどんみゆは冷たくなっていく。


「お兄ちゃん、本当にごめんね」


みゆは、絞り出すようにそう言い、それきり動かなくなってしまった。


「ぅぐっ、うぁあぁぁ」


俺はだらしなく泣き叫んだ自分の油断した事によってみゆは死んでしまった。生きる意味を見出せなくなった、いつもそばで自分と共に戦い傷付き慰めあって共に自由になろうと願ったパートナーが、目の前で。


それでも俺は一矢でも報いてやろうと前を向くが、その瞬間グザッ!っと俺の喉笛になにかが刺さった。酒瓶の破片だった。


「ぐぶっ!」


喉と口から血が溢れ出てくる鉄の味がする。声を出そうとするも、うまく力が入らず血がどんどん出てくるだけでなにも言葉にできない。意識が朦朧として来た、今思えば悲しみばかりの人生だった。負けてばかりで、何もいいことなんてありゃしなかった。みゆも死んでしまった。最悪だ。俺がこんな事考えなければ

今のような最悪の事態は避けられたのだろうか?

血が足りないのだろう、もう思考がままならない。

そして意識を手放す前に思った。次があるなら…次があるなら必ず…2人で自由なりたいと。

俺はそこで意識を手放した。


そして何故か、もう2度と目を覚まさないだろうと思った俺は再び意識を取り戻した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ