はじめてのシニョン
メディカルセレモニーが終わり、夜になった。
セレモニーでは固く編んだ三つ編みを上に一本ずつ上げてもらい、ピンで留めてもらう。結構ダサい髪型だけど、みんなそれを外そうとはしなかった。
お風呂の時にようやくみんな外して、
「ああ、明日からシニョンなんだなー。」
「ついに!医療従事者になったって感じがするぅ!」
と大興奮だった。
これまではただの黒いゴムだったけれど、シニョンにすると式典の時などにはシニョンの根元に校章があしらわれたかんざしを刺せることになっていた。それもまた私たちには特別なことだった。
ところが、翌朝になると、手際が悪いのか、朝の準備に大変な時間がかかる。
朝、学校へついてから制帽をとると、もうそれだけでシニョンが崩れてしまう。学校では身だしなみのチェックがあるのでこれは由々しき事態だ。
崩れていないのは准看学校に通っていたハルヒだけ。
教員にも怒られ、みんな早くも泣きたくなった。
ハルヒが、「こうやってやるんだよ」と会った時に教えてくれた時のことを思い出しても、なかなかうまくいかない。
そして、学校で二年生や三年生を見ると、不思議なくらいみんなシニョンが崩れない。朝、巴原さんがいつもスムーズにやっていたのがとても偉大なことだったと分かった。
解剖学の授業中に、前の席の女の子のシニョンが崩れて来た。それなのに教員は「それじゃ、神田、上肢の骨の名前を挙げてみろ。」なんて言っている。
シニョンが崩れて来ているのでそわそわしながら「上腕骨、橈骨、尺骨……。」とフラフラ低空飛行気味で答える神田さん。相当頭のいい子だけど、これじゃ時限爆弾を抱えているようなもの。
なんとか神田さんが言い終えた瞬間、シニョンがずるっと下がった。すると、教員は「今すぐ直しなさい。」と言ったきり、「春日井、下肢の骨は?」と、神田さんの恥ずかしさはなかったことのように言った。
私は微かな違和感を覚えながら、ハルヒの崩れないシニョンと、淀みない答えを聞いていた。
「さっすが、パーフェクト・准看。」
「シニョンのやり方だって心得てんのよ。だから1人だけ怒られないのよ。」
低い声で、神田さんと隣の内海さんが話すのを聞いた。