8話 初めての出動は屋根から
ユナは、ケーキ店から少し離れた裏路地に移動した。
周囲に人がいないことを確認してから、学校で使う鞄から、マントとマスクを取り出して身に着けた。能力の検証をする一方で、家にあった布などを使い、自分で縫い上げたものだ。
「これなら、私だってわからないよね」
正義の味方は正体を知られてはいけない。ヒーローものの常識だ。
それに、こんな小さい子供がとんでもない力を持っていると周囲に知られたら、いったいどうなることか。
奇異の視線を向けられるだけならば、問題はない。恐れられたとしても、まだ問題はない。
問題は、権力者がユナの力に目をつけた場合だ。
囲い込まれるかもしれない。都合のいいように利用されるかもしれない。研究されて解剖されるかもしれない。最悪、ユナだけではなくて、家族や友達に被害が及ぶかもしれない。
それは、絶対に避けねばならない事態だ。
故に、ユナは自らの正体を隠す。
ユナは、きちんとリスクを考えることができる、しっかりした子だった。
「よしっ、それじゃあ、いきますか!」
ユナはそっと目を閉じて、集中した。
心の中の太陽に触れて、鍵を開ける。
「んっ」
目を開くと、ユナの瞳は金色に輝いていた。
体の奥底から無限の力が湧き上がってくる。
「えいっ!」
ユナは、ケーキ屋の方に向かい、地面を蹴って跳躍した。
重力を振り切り、小さな体は翼を得たように空を飛んだ。
そのまま放物線を描いて、ケーキ屋の屋根に華麗に着陸……する計画だった。
バキィッ!
「ひあああっ!?」
落下の勢いが強すぎたのか、屋根が傷んでいたのか、はたまたユナが重すぎたのか。
ユナは屋根を踏み抜いて、店内に落下してしまう。
「あいたたた……失敗しちゃった。これ、後で怒られないかな……あっ」
武装した三人組の強盗とバッチリ目が合った。
「い、いきなり天井に穴が開いて……どうなってやがる!?」
「なんだこいつ!? 小さいけど、ガキか!?」
「て、てめえ、何者だ!? なんで天井から落ちてきた、言えっ」
動揺する強盗達の視線を浴びながら、ユナはゆっくり立ち上がる。
そして、ビシッと指を突きつけて、鋭く言い放つ。
「悪に名乗る名前なんてないよっ!」
「な、なんだと!?」
「うーん……ちょっと、インパクトに欠けるかな? 登場シーンは大事だから、台詞はもっと考えた方がいいね。要改善、っと」
「なにぶつぶつ言ってやがる! 答えろ、なんなんだてめえは!?」
ユナは、わめく強盗を無視して、素早く店内の様子を確認した。
手前に三人の強盗。店の奥に人質が八人。
強盗と人質の間には距離があり、すぐに危害を加えられる心配はなさそうだ。
うん、いける!
そう判断したユナは、足に力を込めた。
「だから、悪に名乗る名前は……ないんだよっ!」
ユナは風のように駆けて、一足で強盗との距離をゼロにした。
全力……はまずいので、5%くらいの力で殴る!
ドカッ!!!
強盗はオモチャのように吹き飛んだ。
壁に穴を開けて、そのまま外に吹き飛んでいく。
ありえない光景に、残りの強盗たちは目を丸くした。
そして、ユナも目を丸くしていた。
「び、びっくりしたぁ……5%でもこんなになっちゃうんだ。もうちょっと、検証しておいた方がよかったかな? それにしても、あんな大きな穴……うー、これ、怒られるよね? どうしよう?」
ユナは、両親に叱られた時を思い出した。
思わず頭を抱えて、うーうー、と唸ってしまうのだった。
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