46話 ただいま
「あれは……」
後方で補給や怪我人の手当をしていたステラは、指揮官の聖騎士と話をしている人物が見えた。
ブレイブ・ハートだ。
以前と違い、鎧を身につけていたけれど、確信した。命の恩人を見間違えるはずもない。
「あの子が助けてくれたんだ……」
聖騎士や腕利きの冒険者たちを、全滅寸前に追いやったゴーレムたちを、さらに圧倒的な力で粉砕した。
とても人間業とは思えない。
ブレイブ・ハート……いったい、誰なのだろう?
声や背丈からして、小さな女の子であることは間違いない。
ただ、あんな超人的な力を持った女の子なんて知らない。話を聞いたこともない。
「でも……なんか、引っかかるのよね」
もしかして、どこかで会っていないだろうか?
記憶を探るものの、答えにたどり着けない。
モヤモヤしたものの……それ以上は、考えるのをやめた。
怪我人の手当、被害状況の確認、ゴーレムの残骸の調査……今は、やらないといけないことがたくさんある。疑問は後回しだ。
「ブレイブ・ハート……か」
最後に、もう一度だけ、ブレイブ・ハートの勇姿を思い返した。
ゾクゾクっと心が震えた。
「新しい英雄の誕生かしら。それとも……」
――――――――――
シェルターに集まった人々が帰宅を許されたのは、夜になってからだった。
結局、何が起きたのか、詳細は知らされていない。
避難した人々は、そのことに文句や不満を口にしつつも、他にすることもないので素直に家に帰る。
「……」
ティータは家に帰らなかった。
侍女や従者を待たせることを申し訳なく思いながらも、シェルターの入り口から動かない。
祈るように空を見上げながら、じっと待つ。
親友の帰りを待つ。
そして……
「あっ……!?」
曲がり角から、ひょっこりとユナが顔を出した。
いたずらをした子供のように、ちょっとだけ気まずそうな顔をしていた。
「えっと……待たせちゃったかな?」
「ユナちゃん……」
「ごめんね。できるだけ急いだんだけど、けっこう、時間がかかっちゃって……」
「ユナちゃんっ!!!」
「わわわっ」
ティータに飛びつかれて、ユナは尻もちをついてしまう。今は能力を開放していないから、普通の女の子と変わらない。
ティータは力いっぱいユナを抱きしめた。
「ユナちゃんっ、ユナちゃんっ、ユナちゃんっ!」
「えっと……心配かけちゃったかな? ごめんね」
「いえ……こうして、無事に戻ってきてくれたのですから……あっ、無事ですよね!? 怪我はしていませんか!?」
ハッとなり、ティータはユナの身体を確認した。
服があちこち汚れているものの、怪我らしい怪我はない。
「大丈夫、なんともないよ」
「よかったですわ……ユナちゃんに、何かあったらと思うと、私……」
「安心して、ティータちゃん。私は正義の味方だから。正義の味方は絶対に負けないし、大事な友達を悲しませたりなんかしないんだから。それは、絶対の絶対だよ」
「……はい。そうですね、ユナちゃんは正義の味方ですからね」
ユナもティータを抱きしめた。
そして、いつもの調子で告げる。
「ただいま」
「おかえりなさい」