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4話 目覚め

「待ちなさいっ!」


 悪は絶対に許さない。

 ユナは正義の心で瞳をメラメラと燃やしながら、強盗の前に立ちはだかる。


「なんだ? このガキ」

「ゆ、ユナ……危ないから、逃げて……お願い、早く……」

「そ、そうだ、ユナ……母さんは俺が助ける。だから、お前は安全なところに避難していなさい……!」

「私だけ逃げるなんて、できないよ!」


 男にも事情があるのかもしれない。

 しかし、だからといって、他人を傷つけていい理由にはならない。


 生まれてから初めて遭遇した他人の暴力……理不尽に、ユナは恐怖はせず、むしろ、純粋な怒りを覚えた。


「おかーさんを離して! それと、こんなバカなことは今すぐやめなさい!」

「おい……このガキはなんだ?」

「こ、この子は関係ありません……お金なら渡しますから、ひどいことは……」

「あー……俺、ガキは嫌いなんだよね。特に、生意気なガキは大嫌いなんだよね」


 男は凶悪な笑みを浮かべた。

 ターゲットを変更するように、ナイフの切っ先をエレナからユナに向ける。


「一人くらい殺った方がスムーズに進みそうだな……ってわけで、ガキ。とりあえず死んでおけ」

「あぁ、ユナ!」


 我が子の危機を察して、思わず、エレナは涙した。


 母の涙を見た瞬間、ユナの中で何かが弾けた。

 体の深いところ……心の内側……魂の中……


 そこに隠されて、秘められていたものが、今、現出する!


「おかーさんを……いじめるなーーーっ!!!」


 ユナの目が金色に変化した。



 ダンッ!!!!!



 ユナが床を蹴る。

 たったそれだけのことで、轟音が響いて、木製の床に穴が開いた。


「は?」


 次の瞬間、ユナは強盗の懐に潜り込んでいた。

 誰もユナの動きを目で捉えられない。突然、ユナが消えて……直後、強盗の目の前にユナが移動していた。

 まるで瞬間移動だ。


「悪は……許さない!!!」


 ユナは拳を振りかぶり、強盗に向けて叩きつけた。


 子供の小さな拳だ。強盗を倒すことなんてできない。

 無理だ。

 ありえない。

 世の理が不可能だと告げている。


 それなのに……



 ドガァアアアアアッ!!!!!



 ユナが強盗を殴り飛ばした。

 重力が真横に切り替わったみたいに、強盗の体が勢いよく飛ぶ。


「っ!?!?!?」


 強盗は背中から壁に叩きつけられた。

 まともに悲鳴を上げることすらできず、そのまま気絶する。

 一応、生きてはいるみたいだが、骨の数本は折れているだろう。


「私の目が黒いうちは、強盗なんて絶対に許さないんだからねっ!」


 ユナは仁王立ちして、ふんすっ、と鼻を鳴らした。




――――――――――




 その後……


 強盗は、客の通報で駆けつけた冒険者によって連行された。そのまま、国の騎士団に引き渡された。国の平和を守る騎士団は、どのような事情があれ、臣民……王の財産に手を出そうとした物を許さない。

 法と秩序の番人として、相応の処罰を下すだろう。



 そして、ユナはというと……



「ふぁー、疲れたぁ……」


 ユナは、自室のベッドに大の字になって寝た。


 ついさきほどまで、両親から説教を受けていたのだ。

 あんな危ないことをしてはいけない、大人に任せないといけない……などなど。

 最終的に、両親は無事を喜び、涙を流してユナを抱きしめた。


 ユナが強盗を殴り飛ばしたことは、大して気にしていないらしい。というか、何かの間違い……もしくは、白昼夢だと思っているようだ。

 正確には、そう思い込んでいる……だ。


 それも仕方ない。小さな女の子が大の男を殴り飛ばすなんて、できるわけがないのだから。

 周囲にいた常連客も、両親同様に、白昼夢と思い込んでいて……結局、ユナの活躍は表沙汰になることはなかった。


「おとーさんとおかーさん、また、困らせちゃった……うーん、私って、生まれ変わってもヤンチャなところは治らないみたい」


 ユナは布団の上をゴロゴロと転がる。

 それから、自分の手を見た。


「……私がやったんだよね?」


 昼のことを思い出した。


 両親を含めて、周囲は白昼夢と思い込んでいるが、ユナは強盗を殴り飛ばしたことを覚えている。

 しかし、いまいち実感が湧かない。

 この小さな拳で、大の男を殴り飛ばした?

 常識的に考えて、そんなことはありえない。

 ありえないのだけど……現実に起きた。

 逃避するのは簡単だけど、それではなんの解決にもならない。


 ユナは、がんばって考えた。

 うーん、うーん、と唸る。


「あっ!」


 ぴこーんと、ユナは閃いた。


「もしかして、これが正義の味方の力……?」


 天使は、ユナが正義の味方になれる能力をプレゼントすると言っていた。

 だとしたら、この異常な力は、そのプレゼントなのかもしれない。


「明日、試してみよう」

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