27話 正義の味方
準備は整った。
正義の味方として、本格的に活動を開始しよう。
王都の平和は私が守る!
ユナは意気込み、王都のパトロールをはじめた。
するとまあ、出てくる出てくる。
悪人がゴキブリのように湧いて出てきた。
冒険者が治安維持に努めているものの、それでも、王都のような巨大な街になれば、全てをカバーすることはできない。
人々の目の届かないところで悪の芽が育ち、人々に害を与えていた。
――――――――――
日の届かない裏路地で、中年の男性が若い男三人組に囲まれていた。
若い男たちは逃げ道を塞ぎ、その上で、ナイフをチラつかせる。
「なっ? おっさんも痛い思いはしたくないだろ。だったら……わかってるよな?」
「ま、待ってくれ。これは会社の金なんだ。これがなくなれば、私だけではなくて、会社のみんなまであぐぅ!?」
腹部を殴られて、中年の男性はうずくまる。
若い男たちは笑いながら、中年の男性が抱えていたケースを開ける。中は札束と無数の書類、それといくらかの宝石類が収められていた。
「おー、けっこう持ってんじゃん。おっさん、金持ち―♪」
「おっ、財布も発見。良い素材使ってるな。これも、もらっとくね」
「その顔覚えたから。次もよろしく!」
「ま、まって……それは……本当に……」
痛みに震えながらも、中年の男性は若い男の足にすがりついた。
舌打ちが響く。
「あー……うるさいな。もう一発いっとく?」
「一発じゃ足りなくない? 完全に黙らせて……」
「待ちなさいっ!」
鋭い声が響いて、若い男の動きが止まる。
「罪なき人に暴力を振るい、金銭を強奪するなんて許せない! その悪の心、このブレイブ・ハートが打ち砕く!」
いつの間に、背後に回ったのだろうか?
小さな人影が、若い男たちの前に立ちはだかる。
立派な鎧のようなものを身につけているが、明らかに子供と見てわかる体格のせいで、威圧感というものは皆無だ。
「……なんだ? こいつ、ガキか?」
「声は、それっぽいが……っていうか、このコスプレは?」
「あー、正義の味方ごっこじゃね? 知らんけど」
若い男の一人が、無造作に歩み寄り、拳を振り上げた。
「とりあえず、消えろ」
ギィンッ!!!
金属が震えるような音が響いた。
「いっ!? あっ、あああ、手、手が!?」
若い男は、ブレイブ・ハートを名乗る子供を殴った……が、その拳はバイザーに弾かれた。
皮が裂けて、骨が痺れた。
当たり前の結果だった。
ティータ特製のセラフィムハーツは、王都の武具店が驚きのあまりひっくり返ってしまうような、ありえない強度を誇る。
そんな鎧を力任せに殴れば、誰でもこうなる。
「えいっ!」
「ふぎゃっ!?」
ブレイブ・ハートは、若い男の頬を張った。
たったそれだけで、若い男は空中できっかり三回転して、壁に激突した。
ぴくりとも動かない。完全に気絶している。
「は?」
仲間があっけなくやられて、残りの二人は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
その間に、ブレイブ・ハートは手の平を男二人に向けた。
意識を集中して、魔法を練り上げる。
「走れ、走れ、走れ。
貫き、穿て。
顕現するは、紫電の一撃也。
疾走する雷鎚っ!!!」
ガガガッ!!!
雷撃が疾走して、男たちの身体を打つ。
男二人は抵抗することもできず、そのまま意識を失った。
「よいしょ、っと」
ブレイブ・ハートは、意識を奪った三人を一か所に集めた。
ロープを取り出して、それぞれ、身動きできないように固く縛り上げた。
「正義、完了!」
ブレイブ・ハートはケースと財布を拾い、ぽかんとしている中年男性に手を差し伸べる。
「大丈夫ですか? 怪我は?」
「え? あ……はい。だ、大丈夫です」
「はい、ケースをどうぞ、大切なものなんですよね? あっ、この財布も」
「あ、ありがとう……ございます」
「路地裏はこういう人たちがいるから、昼でも避けた方がいいですよ」
「そうですね……私がうかつでした」
「今度は、気をつけてくださいね」
「あ、あの、ぜひお礼を……」
「いえ、気にしないでください。当たり前のことをしただけですから」
「そんな、でも……なら、せめて名前を教えてください!」
「弱気を助け悪をくじく! 闇を照らす光、善なる願いの使者……私の名前は、ブレイブ・ハート! 正義の味方です!!!」
ブレイブ・ハートは、ビシッと決めポーズを披露した。
前世でいう、なんとかライダーの決めポーズによく似てる。
さんざん迷った末に、ちょっと拝借することにしたのだ。
「さらば!」
「あっ」
ブレイブ・ハートは地面を蹴り、空高くに飛翔した。
あっという間に姿が見えなくなる。
「……ブレイブ・ハート……」
残された中年の男性は、恩人の名を胸に刻むように、その名を呟いた。
「おらっ、強盗だ! 全員、手を挙げておとなしく……」
「正義の味方ぱんち!」
「あぁん? 金が返せないだと? てめえ、今日が期限ってことを忘れてんじゃねえだろうな?」
「し、しかし、あんな利息なんて聞いていません……」
「それはてめえのミスだろうが。いいか? 今日中に金を用意しないなら、その体を……」
「正義の味方きっく!」
「ああっ、誰か! 木の上に、降りることができなくなった子猫が!」
「正義の味方救助!」
「その悪の心、このブレイブ・ハートが打ち砕く!」
「正義、完了!」
「弱気を助け悪をくじく! 闇を照らす光、善なる願いの使者……私の名前は、ブレイブ・ハート!」
――――――――――
ユナは毎日毎日、正義の味方として活動した。
悪を許さず、正義を貫いた。
悪人を成敗するだけではなくて、小さい命も助けた。
その結果……
『ブレイブ・ハート』の噂が広がるのに、さほど時間はかからなかった。