2話 プロローグ2
「あっ……思い、出した……そっか、私、トラックに……それで、死んじゃったんだ」
ショックで混乱していた記憶を思い出して、日向は茫然とつぶやいた。
死んだ。
つまり、ここは死後の世界だろうか?
綺麗だから、天国なのかな? だとしたら、うれしいな。天国でありますように。
日向は、そんな呑気なことを考えた。
「思い出しましたか?」
「はい……思い出しました。って、そうだ! 一つ聞いてもいいですか?」
「なんでしょうか?」
「男の子! あの男の子はどうなったかわかりますか!?」
「……大丈夫ですよ。あなたが助けた男の子は、軽い怪我で済みました」
「そうですか……ふぅ、よかった!」
「こんな状況なのに、他の人を心配するなんて……あなたは、とても優しい人なのですね」
天使は慈愛に満ちた笑みを浮かべて、話を続ける。
「すでに察していると思いますが、ここは死後の世界です。あなたは、これから天国に旅立つことになります」
「あっ、私、天国行きなんですか。よかったー!」
「地獄に落ちるとでも思っていたのですか?」
「うーん……嫌いなもの残したりしたし、けっこうヤンチャしてお父さんとお母さん困らせちゃったし……ひょっとしたら、なんて思っていました」
「ふふふっ、心配しないでください。それくらいで地獄に落ちるなんてありえませんから」
「でも……お父さんとお母さんより先に死んじゃう、っていう親不孝をしちゃいましたけど……」
「それは罪ではありません。結果として、そうなってしまっただけです。あなたは、一つの命を救った。主は、あなたの行動を褒め称えるでしょう」
「そうですか……悪いことじゃなかった、って言ってくれて……うれしいです」
両親より先に死んでしまったことは、とても申し訳ないと思う。
しかし、あの両親ならば、男の子を助けたことを褒めてくれるはずだ。悲しむかもしれないが、納得はしてくれると思う。
日向はそう考えて、未練を断ち切る。
「えっと……天使さまは、私を天国に?」
「はい。案内をするためにやってきたのですが……実は、もう一つ選択肢がありまして」
「えっ? どういうことですか?」
「人生をやり直してみませんか?」
「私、生き返ることができるんですか!?」
「あっ、申し訳ありません。言葉足らずでした」
頭を下げる天使を見て、生き返ることは不可能と悟る。
ただ、話はまだ続きがあるらしい。
ちょっと期待して、耳を傾けた。
「死後、天国に行く、地獄に落ちる……という判断は、生前に積んだ善行の量で決まります。善い行いをすれば天国、悪い行いをすれば地獄というように」
「私は天国……なんですよね?」
「はい。あなたの善行は、類を見ないくらいの量で、すばらしいものです。天国以外の選択肢はありえませんが……自らの命を惜しむことなく、迷わずに他者の命を助けたあなたに、主は深く感動いたしました。よって、地球とは異なる世界で、新たな人生をプレゼントしたいとのことです」
日向の頭の中に、『異世界転生』なんて言葉がぽーんと思い浮かんだ。
最近、流行りの物語だ。中には、ヒーローもののような熱い物語もあり、日向もよく愛読していた。
なので、なんとなく、天使の言いたいことを理解した。
「突然、このようなことを言われて戸惑っているかもしれません。しかし、新しい人生を送ることは、決して悪くない話だと思いますが……どうでしょうか?」
「よろしくおねがいします!」
「あれっ、即答なんですか?」
驚いたように、天使は目を丸くした。
重大な決断を下すのだから、迷うのが当たり前だ。即答されるなんて、思ってもいなかったのだろう。
「はい! 人の善意を意味なく断ってはいけない……それが、正義の味方のすることですから!」
「な、なるほど……」
天使は、よくわからない……というような顔をしていた。
やがて、深く考えることは諦めた様子で、話を続ける。
「では、異世界に転生して新しい人生を送る……ということで、よろしいでしょうか?」
「はい、お願いします!」
「かしこまりました。それでは、希望を聞いておきたいのですが、何かありますか?」
「希望……って、なんのことですか?」
「あなたがこれから転生する異世界は、いくらか文明レベルが劣っています。それに、人間だけではなくて、魔物と呼ばれる凶暴な種族も存在します。現在のまま転生しては、色々と不都合が出るでしょう。なので、それらの問題に対処できるように、何か一つ、あなたが望む能力をプレゼントしましょう。力、知識、運……なんでも構いません」
「うーん……能力、か」
日向は考えた。
考えて、考えて、考え抜いた。
そして、ピーンと閃いた。
「私、正義の味方になりたいです!」
「……はい?」
「ですから、正義の味方です! 弱きを助け、悪をくじく! 人々を導く希望の翼! ピンチに陥ることはあっても、最終的に、絶対に悪に負けない強い心と力! そんな正義の味方になりたいんです! あの……そういう能力はダメですか?」
「なるほど、正義の味方ですか……少々お待ちください。私、そういうことには疎くて……今、資料を探してみますね」
女性は、明後日の方向を見た。周囲に光のスクリーンが浮かび上がり、次々と現れては消えていく。おそらく、資料とやらを検索しているのだろう。
言われるまま、日向は30分ほど待った。
まだかなー? なんて飽きてきた頃、ようやく女性が日向に視線を戻した。
「……わかりました。これが、正義の味方というものなのですね」
「あの……できますか? 私、正義の味方になれますか?」」
「ええ、問題ありませんよ。悪に負けない、絶対正義……最強の力……その能力をプレゼントいたしましょう」
「やったー! ありがとうございます!」
正義の味方になれると聞いて、日向は無邪気に喜んだ。
……この時、もう少し考えて発言をしていれば、後々、色々な苦労を背負うこともないのだが、それはまた別の話だ。
「それでは、これからあなたを異世界に転生させます。準備はよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします!」
「あなたの第二の人生が、幸せなものでありますように……」
天使は、祈りを捧げるように両手を合わせた。
瞬間、光があふれて……
日向の意識は、再び途切れた。
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