17話 つい出来心で
「ふしゅーっ……ふしゅーっ……」
鼻息も荒く、ユナは肩を上下させた。
金色に輝く瞳で、キョロキョロと屋内を見る。
……怨敵は見つからない。
「ユナちゃん、ユナちゃん」
「あっ」
「大丈夫ですか?」
我に返ると、ティータが心配そうな顔をしていた。
そんな親友を見ていたら、少し冷静になった。
ユナは深呼吸をして、バクンバクンと暴れる心臓をなだめる。
「すー……はー……すー……はー……んっ……ふぅ」
「落ち着きました?」
「うん……ごめんね、心配かけて」
「いいえ、気になさらず。それよりも……」
ティータが、困ったように周囲を見た。
あちこちに男が倒れていた。中には、凍りついている者もいる。
錯乱して覚えていないが、これは自分がやってしまったのだろうか……?
ユナは、さーっと顔を青くした。
「わ、私、なんてことを……」
「落ち着いてください、ユナちゃん」
「で、でもでも……!」
「大丈夫ですわ。正当防衛ですので」
「えっ?」
「ほら、見てください。この方たち、全員、武装しているでしょう?」
「……あっ、本当だ。あの時の強盗みたい」
「惜しいですわ。この方たちは、おそらく盗賊でしょう」
盗賊と聞いて、ユナは両親の話を思い出した。
王都の外に盗賊が出没するらしいから、決して外に出ないように……と。
「あわわわっ、どうしよう、完全に忘れていたよ」
両親に怒られてしまう。
運が良くて説教。下手したら、お尻ぺんぺんだ。
あれは痛い。
その時を想像して、ユナは涙目になってしまう。
前世と合わせれば、精神年齢は28歳くらいになるが、子供というのはどんな歳になっても親には叶わないものなのだ。
「ユナちゃん?」
「あっ……ううん。なんでもないよ」
とりあえず、両親のことは後にしよう。
今は、こちらの対処をしないといけない。
そう判断して、ユナはティータの話に耳を傾けた。
「ユナちゃんは、王都の外に出没する盗賊のお話、ご存知ですか?」
「うん。おとーさんとおかーさんが、この前、教えてくれたよ」
「おそらく、この方たちが、噂になっていた盗賊なのでしょう。先にここを見つけて、根城にしていたのではないかと。そこに私たちがやってきて……たぶん、誘拐を企んだのではないでしょうか? おとなしくしてください、というようなことをおっしゃっていましたから」
「なるほど、なるほど。うん、そうかもね!」
ティータの名推理に、ユナは感心した。
もしも自分だけならば、男たちの正体に辿り着くことはできなかっただろう。その目的もわからないまま、ただ、あたふたと慌てていただろう。
ティータのおかげで、状況を的確に把握することができた。
自分一人だったら、こうはいかないだろう。頭を使うことは苦手だ。
ユナは、改めて、ティータという頼りになる味方に感謝した。
「この人たち、どうしよう……? 凍ってる人とか、早く解凍しないと死んじゃうかもしれないよね……?」
「ここに、冒険者の方を呼べればいいのですが……それだと、色々と面倒なことになりますね」
これからの活動にあたり、なるべく自分たちのことは秘密にしておきたい。
この廃墟のことも秘密にしておきたい。
しかし、冒険者を呼んだら、全てを話さないといけないだろう。
ついでに、両親のおしおきは確定だ。
「秘密裏に処理するしかありませんね」
「処理……っていうと?」
「こう、サクッと」
ティータは笑顔で首を切る動作をした。
ユナの顔がさーっと青くなった。
「だ、ダメダメダメっ! それはダメだから!?」
「ふふふっ、冗談ですわ」
「まったく笑えないよ……」
「そうですね……全員、身動きをとれないようにして、ここから遠く離れた場所に移しましょう。それから、匿名で冒険者ギルトに通報すれば、問題はないと思いますわ。もっとも、ユナちゃんには、色々とお手数をおかけしてしまいますが……」
「気にしないで。元々、私が暴走して、こうなっちゃったんだから。それに、この人は盗賊なんだよね? なら、これも正義の味方としての活動だよ」
よーし、とユナは気合を入れた。
それから、鞄に入れておいたロープを取り出した。高いところを掃除するのに必要かと思い、持ってきたものだ。
再び力を発動させて、魔法を詠唱する。
「集え、集え、集え。
結び直す者よ。
ここに発現せよ、汝は強化の力也。
拘束する手!」
ユナが魔法を唱えると、持っていたロープが淡い光を帯びた。
そのロープを、はい、とティータに渡した。
「ティータちゃんは、これで、この人達の手足を縛ってくれる? 魔法で強化したから、これなら絶対に解けないから」
「わかりましたわ」
「私は、残りのロープに魔法をかけて、それから順々にこの人達を遠くに運んでくるね」
「分担作業というわけですね。がんばりましょう、ユナちゃん」
「うん、がんばろーっ!」
二人は作業を分担して、それぞれの仕事にとりかかった。