13話 秘密基地
「秘密基地、ですか?」
「うん、秘密基地!」
時間ができたユナは、さっそくティータの家に向かい、かねてから考えていたことを口にした。
「それは、どういうものなのですか? 基地というからには、軍事施設なのでしょうか?」
「うーん、惜しい! でも、ちょっと違うかな」
「では、正解は?」
「正義の味方の活動拠点だよ! これからの活動にあたって、拠点は必要だと思うんだ」
「私の家ではいけないのですか?」
「うーん、ティータちゃんの家は大きいけど、秘密基地には向いてないかな。大きいけど、普通の家だもん。それに、秘密っていうくらいだから、誰にもバレたらいけないの」
「なるほど、道理ですわ」
「それに、いざっていう時は、戦場になる恐れがあるからね」
秘密基地は物語の序盤か終盤か、どちらかで敵に襲撃されるパターンが多い。ヒーローもののお約束だ。
親友の家を、そんな危険に晒すわけにはいかない。
「秘密基地の条件は、どういうものなのですか? 秘密、という以外に条件があるのですか?」
「うーん……まずは、王都に近いところかな。いざっていう時、迅速に行動できないと意味がないからね。次は、ある程度の広さがあることかな。トレーニングルームとかリラックスルームとか、装備を収納する武器庫とか、色々な部屋が必要になると思うし。あとは、拡張拡大できること。状況に応じて、施設を広げる必要も出てくるからね。うーん……こんなところかな?」
「なるほど……だいたい、理解しましたわ」
ティータは、キラキラと目を輝かせた。
「なんだか、楽しそうですわ。私、ワクワクしてしまいます」
「わかる!? だよねー、楽しいよねー! 秘密基地はロマンだよね!」
がしっ! と握手をする二人。
ここに、また一つ、新しい友情が刻まれた。
「でも、都合のいいところがないから困っているんだよね……」
「確かに。ユナちゃんが仰ったような条件を満たす物件は、そうそうないでしょうね……あったとしても、とんでもないお値段がついているかと」
「世の中、世知辛いねえ……」
コスチュームしかり、秘密基地しかり。
正義の味方として活動するには、まずはお金が必要なのだ。
そんな現実を突きつけられて、ユナとティータは、揃ってため息をこぼした。
「うーん、どうすればいいのかな?」
どこかに、条件がぴったり当てはまる、都合のいい物件はないだろうか?
そして、タダ当然の値段で手に入れられないだろうか?
そこのところ、天使の力でなんとかならないだろうか?
ユナがわりと真剣に無茶なことを考えていると、ティータが、何か思いついたように声をあげた。
「……あっ、一つだけ心当たりがありますわ」
「えっ!? 本当に!?」
「はい。王都に近い、という条件からは、少しズレているのですが……」
「この際、ちょっとくらい離れていてもいいよ。走ればなんとかなると思うから」
この前、30%くらいの力で50メートルの記録を図ったら、1秒フラットだった。
多少、遠いところに秘密基地があっても、本気で走れば間に合うだろう……ユナは、そんなことを考えていた。
もっとも、ユナが本気で走れば、音速を超えて周囲に衝撃波をまき散らし、なにもかも滅茶苦茶にしてしまうのだが……
まだ子供だからか、それともうっかりしているからか、そこまでは思い至らないユナだった。
「王都を出て少し歩いたところに廃墟があるのですが、そこはどうでしょうか?」
「廃墟? うーん、なんか汚いイメージが……」
「確かに、今は汚れているでしょうが……なんでも、その廃墟は古代の技術が使用されているらしく、とても頑丈という噂ですわ。それに、この家以上に広く、非常用の隠し通路もあるみたいです」
「隠し通路……いいっ!」
ついついテンションが上がり、ユナはサムズアップした。
隠し通路とか、ロマンの塊ではないか。ユナの琴線に触れる。
「掃除は、私たちでがんばりましょう」
「二人でできるかな……?」
「とても大変でしょうが……ですが、正義のためです。がんばりましょう」
「あっ……そうだね! 汚いとか大変とか、そんなことで立ち止まっていられないよね!」
ティータの言葉で目が覚めたユナは、やる気を出した。
ゴゴゴゴゴッ、とユナの背後でやる気のオーラが燃えた。
「ただ、問題がありまして。その建物は、とある貴族の所有物らしいのです」
「そうなの? 廃墟なのに?」
「おそらく、王都の外という不便な立地に嫌気がさして、管理を放棄したのでしょう。かといって、権利まで放棄するのはもったいない……そのうち、年月が流れ、今のような廃墟になってしまった……という感じではないかと」
「おー、なるほど! ティータちゃん、すごいすごい。なんか、名探偵みたい」
「ふふふっ、ユナちゃんに言われるとうれしいですね。頭脳労働は任せてください」
「じゃあ、その貴族の人に頼んでみる? 廃墟の権利をくださいって、お願いして……なーんて、無理だよね、そんなこと」
いくら所有者が管理を放棄しているからといって、勝手に使用しては問題になる。
秘密基地として使用するならば、権利をもらわないといけない。
しかし、何も知らない人にとって、ユナは小さな女の子だ。
いらないものとはいえ、自分が所有する財産の一部を分け与えるなんてことは、まずありえない。
ユナは、そんな当たり前の結論に至るが、ティータは違うらしく、ニヤリと笑う。
「そのことなのですが、可能性はあるかもしれませんわ」
「えっ? どういうこと?」
「廃墟を所有している貴族の方に、少々心当たりがありまして」
「もしかして、ティータちゃんの知り合い?」
「いえ、面識はありませんわ」
「んー? うー? それじゃあ、いったい……?」
あれこれ考えすぎて、ユナは知恵熱が出てきた。
ぷしゅー、と頭から湯気が出る。
「その貴族の方と面識があるのは、ユナちゃんなのですよ」
「えっ!? 私!? でも、貴族の人に知り合いなんていないけど……」
「お忘れですか? 先日の事件で、ユナちゃんは貴族の方を助けたでしょう?」
「先日の事件、っていうと……ケーキ屋の強盗? ……あっ! そういえば、あの時、人質の中に貴族の人がいる……って」
「ビンゴ、ですわ。ユナちゃんは、強盗から貴族の方を助けました。その見返りとして、廃墟を要求しても罰は当たらないでしょう」
「でも、うまくいくかな……? 私、正体を明かしていないし……そもそも、話をしたら、正体をバラすことになっちゃうし……」
「手紙で伝えるのはどうでしょうか? それならば、ユナちゃんの正体は守られます。あの時身に着けていたマスクを同封すれば、恩人からの本物の手紙ということに気づいてもらえるでしょう」
「なるほどっ、それなら完璧だね!」
「廃墟の権利証を無事にいただけたら、私が管理しておきますね。あれはあれで、色々と手続きが面倒なものですし、ユナちゃんが持っていたら、そこから正体がバレる可能性もあるので」
「うぅ、なにからなにまでありがとうね。ティータちゃんが手伝ってくれて、本当に心強いよ!」
「気にしないでください。それが私の担当ですから。では、私が手紙を書いてしまいますね。ユナちゃんは、あの時のマスクを用意してくれますか?」
「合点承知の助!」
「しょうちの……すけ?」
「あっ、ううん、なんでもないよ! なんでも」
うれしさのあまり、ついつい、前世のわけのわからない挨拶が飛び出してしまうユナだった。
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