プロローグ
燃え盛る業火、湧き上がる黒煙、鼻をつく様な悪臭、そして悔しそうに、悲しそうに泣いている1人の少年。
「死なないでよ!」
銀髪の少年はただただ泣き叫ぶ。血に染まる大地に倒れ込んでいる1人の銀髪の少女に向かって。
周りには少女と同じ様に血を流して倒れている人々が数え切れない程にいるが、少年には目の前の少女しか瞳には映っていない。
力無く片手をそんな少年の頬に当てた少女。痛みと苦しみを堪えて優しく微笑んだ少女の手を必死に掴む少年。
「生き……て……」
それがまだ10歳にも満たないであろう少女が少年にかけた最後の言葉であった。
「嘘だ……」
その言葉に合わせたかの様に隣の木造の家が限界に達して炎を吐きながら崩れ落ちる。
泣く事も忘れてただ呆然と肩を落とす少年。
そんな少年の遥か向こう側の場所では1人の黒ずくめの男が剣を振るい、村人をただ引き裂き命を奪っていた。
少女を殺した犯人がまだ近くに居る。そんな事実は知る由もない少年は涙を拭きゆっくりと立ち上がる。
虚ろな目で空を見上げる少年。闇夜と呼ぶに相応しいその空は無表情に少年を見下ろす。
「いつか、いつか必ずーー強くなる」
静かにそう呟く。
辺りは次第に火の手で染まるだろう。
少年はそれから1度も少女の方を見る事なくこの場から音もなく去って行く。
ルナ・シュヴァル、8歳の出来事であった。